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『断片的なものの社会学』:まかない飯のように暖かくおいしい本

夏休みの移動時間で、岸政彦(2015)『断片的なものの社会学』朝日出版社を読んだ。

これは、人にオススメしたくなる本。読みやすいし、はっきりした結論があるわけじゃないんだけど、折に触れ読み返したくなるような本だった。

著者が調査やその他で出会った「分析できないもの」を集めたエッセイ集。

願わくば、全てのインタビュー調査・フィールドワーク等の手法で研究をしている研究者のみなさんにこういう本を書いていただきたい勢いだ。笑

自分も、(大したものではないが)大学生のとき、インタビュー調査をして卒論を書いた、という経験がある。
そのインタビューの中に、面白い語りだなと思ったけれど、論文の本筋に関係ないので卒論には使えなかった部分というのがあった。
悔しいので、ゼミ内の卒論発表会のときに口頭で付け足したら、指導教官から「その話面白いね」と言ってもらえて、嬉しかった。


複数の女子学生を釜ヶ崎に案内したところ、路上の酔ったおっちゃんからヤジが飛んだことで、学生のうち1人が釜ヶ崎に対し「怖い」というイメージを持ってしまったというくだりが印象に残った。その学生の思いも理解できる一方、「見に来られた」おっちゃんのしんどさもあり、つらかっただろうと思う、とある(pp.185-186)。

壁を越えることが、いろいろな意味で暴力になりうることを、私はもっと真剣に考えるべきだった。しかしまた、壁を越えなければ、あの女子学生もふくめて、私たちは、私たちを守る壁の外側で暮らす人びとと、永遠に出会わないまま生きていくことになってしまう。ほんとうに、いまだにどうしていいかわからない。

岸政彦(2015)『断片的なものの社会学』朝日出版社 p.186.

この箇所をはじめ、ほかの部分でも、「どうしていいかわからない」という記述があって、全てのことについて無理に結論を出さないところがとても好ましく思った。

この本は、飲食店の店主さんが、いつも頑張ってくれるバイトに作ってあげるまかない飯のような本だと思った。
仕入れた食材(インタビューの素材)を使ってお客さんに提供する料理(論文そのもの)とは違って、「なんでも乗っけ丼」みたいにとりとめなく、メニューにはできないけど、実はお客さんに出すものよりおいしく、心がこもっていたりして。

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