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『クリスマスの約束』と個人的な思い出

私にとって、クリスマスの恒例行事として真っ先に思い浮かぶのは、『クリスマスの約束』を見ることだ。

『クリスマスの約束』は、毎年クリスマス近辺に放送される、小田和正さんが様々なアーティストを迎える音楽番組(TBS系)。
この番組は、一般の観客を招いて収録したものを、後日放送する形式をとっている年が多い。
収録の観覧に行きたい人は、ハガキで応募し、当選すると見に行ける、という仕組みになっている年が多いようだ。



収録応募に落選し続けた父

私の父は、小田和正さんが大好きで、家の中でも車の中でも、いつも小田さんの歌を聴き、口ずさんでいた。
そんな父のもとで育った私は、幼少期から子守唄がわりに小田さんの歌やオフコースの歌を聴いていた。私の周りには、まさに「風のように」小田さんの歌が流れていた。
『クリスマスの約束』も、父が教えてくれて見るようになった番組だった。
小田さんはもちろんのこと、『クリスマスの約束』をきっかけに知り、好きになったアーティストや歌がたくさんあった。だから、私にとって『クリスマスの約束』は、父や小田さんがくれた贈り物のような番組だった。

そんな父はもちろん、毎年、『クリスマスの約束』収録観覧の応募のハガキをせっせと書いていた。
しかし、毎年、落選し続け、ついに一度も当選することはなかった。そして、『クリスマスの約束』の収録観覧に行くことは叶わないまま、亡くなってしまった。

お詫び代わりに『クリスマスの約束』を

父が亡くなる前、私はあまり良い子供とは言えなかったと思う。
父が在宅で療養していた時期、私は帰宅時間が遅くなりがちでよく小言を言われたのだが、そのときに反抗期の延長のような態度をとっていた。
また、最終的には病院で最期を迎えることになったが、亡くなる直前に病院側から父と2人だけの時間を用意してもらったときも、本来はこれまでの感謝などを伝えるべきなのだろうが、ロクに話をした記憶がない。
ちゃんと育ててもらっていたんだけど・・・。

こうした自分自身の言動で、後悔することが本当にたくさんあって、父が亡くなった後はものすごく罪悪感にかられていて、このときは人生で一番自分のことが嫌いだった。

それで、お詫びにもならないが、父が亡くなってから納骨までの間、父のお骨があるリビングルームで、これまで父が録りためていた『クリスマスの約束』や小田さんの歌をずっと流していた。
他人から見たらこういう表現は気持ち悪いかもしれないが、父と一緒に歌を聴いているような感覚で。

『クリスマスの約束』の観覧に当選した!

そして私は、これまでずっと父が落選し続けていた『クリスマスの約束』の収録観覧に応募してみることにした。応募動機には、上記の経緯をかいつまんで記した。

すると何日か後・・・当選を知らせる郵便が届いたのだった。

「幸せの黄色い封筒」と呼ばれているらしい

当選したことにも驚いたのだが、なによりも驚いたのは、小田さんからのメッセージが同封されていたことだった。紹介してよいものか分からないので具体的な内容は伏せるが、私の応募動機を踏まえた上での個別的なメッセージだった(誰にでも使いまわせるテンプレ的なものではなかった)。

ただの偶然と分かっているけれど

いよいよ『クリスマスの約束』収録当日。私は少し緊張気味で、でもワクワクしながら、「いつもよりちょっとだけおしゃれをして」という番組の指示にもしたがって、収録場所である赤坂BLITZに向かった。

そこでの時間は、本当に素敵で、忘れられない時間となった。
どの曲も本当に素晴らしかったが、特に印象に残っているのが、番組初出演となった宇多田ヒカルさんと小田さんの歌だった。
『花束を君に』のサビの最後のハーモニーが、あまりに美しくて、自分がどこかへ連れていかれてしまいそうな感覚を、初めて味わった。

そして、忘れられないのが、委員会バンドによって披露された、大瀧詠一さんの『君は天然色』だ。
なぜ忘れられないかと言えば、父が亡くなる直前、最後に「聴きたい」と言ったのが、大瀧詠一さんの曲だったからだ。
病院の頼りない電波をそれでも頼って、私は自分のスマホで配信サービスにアクセスし、大瀧詠一さんの『カナリア諸島にて』などを再生したことを覚えている。

こんなものはただの偶然だと分かっているが、不思議な縁というか、特別な巡り合わせのようなものを感じないわけにはいかなかった。


そんなわけで、私にとってはとても特別な番組である『クリスマスの約束』。
残念ながら、昨年・今年と、放送はない。
しかし、公式サイトによれば、「今後も小田さんと番組スタッフでミーティングを重ね、みなさまの心に寄り添えるような良質な音楽番組を作って参ります。」とのこと。またテレビで小田さんや色々なアーティストの方の歌声が聴ける日を待ちたいと思っている。

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