吉祥寺「天音」のたい焼きと私
6月は1年の中で唯一、祝日のない月だ。
季節は梅雨。暑さにも、湿度の高さにも身体は慣れない。
傘をさすからふさがる片手にふさがる気持ち。
1年で1番休息(キュウソク)が必要な月、
祝日「梅雨の日」の創設を急速(キュウソク)に検討してほしい。
あなたのための梅雨(ツユ)の日。to you(ツーユー)。
そんなことを考えながら吉祥寺で用事を済ませた。
梅雨の憂鬱な気持ちにはやっぱりあれしかない。たい焼きだ。
駅前に広がる「ハモニカ横丁」に足を踏み入れる。
このハモニカ横丁、評論家の亀井勝一郎氏が、小さな店の並ぶ様子をハーモニカの吹き口にたとえたので、そう呼ばれるようになった説など、由来には諸説あるらしい。
いずれにせよ、ハーモニカという楽器のチョイス、どことなく昭和な雰囲気を感じてよろしい。「ハーモニカ」ではなくあくまで「ハモニカ」なのも良い。長音記号が取れることで浮き上がるエモさ。ハーモニカなど前に見たのはいつだろう。
ハモニカ横丁は休日かつ梅雨の晴れ間でものすごい人。くぐり抜けてなんとか「天音」にたどり着いた。
この、メインストリートから一本入った、細い路地のような場所で買うというのがまた、いいな。私の前には外国人観光客の家族連れ。旅行でこんなところに来るなんてなんとも乙なセンスである。かれらはお団子を購入しその場で食べ始めた。あまりにおいしそうなので決意がちょっとだけ揺らぐが、いやいやいやとかぶりをふって店員さんにたい焼きをお願いして、財布を開いてーーー
やってしまった。
現金がない。
ここは現金しか使えないのに。
店員さんに謝ってコンビニに駆け込む。ATMがキャッシュカードを飲み込む様を見て、たい焼きが口からあんこを飲み込む映像をイメージしてしまった私はもう末期だ。千円札をつかんで、はやる気持ちを押さえて、再び「天音」へ。
店員さんは先ほどの財布忘れの客だと気付いていないのか、気付いていないふりをしてくれているのか、なに食わぬ顔で注文を受けてくれた。ありがたや。恥ずかしい。
帰宅して少し水をかけてからトースターで焼く(これがわたしのたい焼きルーティーン)。
品のある甘さのあんこもさることながら、羽がいっぱいなのが嬉しい!おいしい!カリカリを満喫できるのである!
幸せに浸りながら私は反省した。
6月に祝日が欲しいだの、
観光客を見て、「乙なセンス」だの、
なんて偉そうだったのか。上から目線であった。そんなんだから、現金を忘れるなどという失態を犯すのだ。
たい焼きの前では観光客も地元民も関係ない。
いやたい焼きの前でなくても人間はみな平等なのだ。
謙虚な心を忘れずに生きていきタイ。
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