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【連載】ヒーローは遅れてやってくる!! 第四話 守るものなきヒーロー

【前回までのあらすじ】
 ユキルが朝起きると、吉郎はスマホをいじっていた。吉郎は昔の写真に写る友達や母親の話をする。パトロールに行くと、ブラック・アルケミストの刺客に襲われる。少しずつヒーローのパワーを使いこなせるようになっていく吉郎にユキルは感心する。

[第四話] 守るものなきヒーロー

 ブラック・アルケミストによって地球文明が滅亡してから四日目。吉郎は珍しく午前中に起き出して、パトロールに出た。ユキルは吉郎のやる気に感心したが、それは誤解だとすぐに判明した。
 吉郎は目的地があるわけでもなく、あちこちを巡回しているように見えたが、気付くと荒廃した公園の跡地にたどり着いていた。
「ここ、前はすごい賑わいだったんだよ。博物館も美術館も動物園もあるし、桜も綺麗だったから。人がいっぱい来て、たまにニュースになるくらいでさ」
 今、吉郎とユキルの目の前には枯渇した池が広がっている。干からびた土が露出していて、枯れた葉や茎が所々に散らばっていた。
「なあ、ユキル。もうこの地球上には俺とお前しか残ってないんだろ? だったらもう戦う意味がなくないか?」
 吉郎はため息混じりに言った。
「どうしたのですか? 昨日まではあんなに張り切っていたのに」
「なんて言ったらいいのかな。俺は自分のパワーがあるから生活に困らないし、ユキルも俺ほど強くはないけど、自分のパワーで生き続けられるんだろ? 地球が滅亡しようが何しようが俺達には関係なくない?」
「そんな事ありませんよ。地球の未来を救うことができるのはあなただけですもの」
「でも、俺、すごいパワーがなければただのサラリーマンだし。しかも、取り柄もないし、休みの日は寝てばっかだったし。地球が滅亡したら会社行かなくて済むのにって思ったことだってあるよ」
「たくさんの人がブラック・アルケミストによって不幸な最期を遂げたのですよ。あなたは彼らのためにも戦わなければならないと思いませんか?」
「でもさ、勝った後どうするのさ? 俺達だけで」
「とにかく、今の状況は打開しなければなりません。あなたはヒーロー。戦う以外の選択肢はありません」
「わかったよ」
 吉郎はまたため息をついた。
「は〜あ。でもさ、よくわからないんだよな。ブラック・アルケミストって、何で地球を滅亡させたのかな。イデア界で幸せになれるなら地球を征服する意味なくない?」
「そ、それは……」
 ユキルが口ごもっていると、空から何かが降ってきて二人にぶつかりそうになった。吉郎がユキルを抱えてうずくまり、間一髪のところで避けた。
「ユキル、大丈夫か?」
「吉郎、後ろ!」
 吉郎が素早く立ち上がり振り向くと、そこにはまたあの不気味な姿をした敵の姿があった。
「彼はベリン。ムチのようなもので叩いてくるわ。気をつけて!」
 吉郎は高い所から振り下ろされる巨大なムチをかわし続けた。
「うっとおしいな、もう!」
 吉郎は地面に激突したムチを掴んで、ベリンを引きずりおろそうと考えた。しかし、吉郎の予想よりはるかにベリンのムチは重く、逆に空中に投げ出されてしまった。
「うわあああああ!!」
 吉郎は枯渇した池の真ん中に落ちていき、ガサガサした大きな枯れ葉が密集している所に落ちた。枯れ葉がクッションになり、ダメージは少なく済んだ。
「こうなったら、本体に直接攻撃だ!」
 吉郎はムチによる攻撃を縦横無尽に避けつつ、助走をつけてジャンプした。
「うおりゃああああああ!!」
 パワーを溜めて光を放出する拳がベリンの顔面に直撃した。ムチはキラキラした粉になり、池の土の上に舞い降りた。
「もうやだー! 疲れたよー!」
 吉郎は着地すると地面に仰向けに寝転がった。
「何で俺、戦ってるんだろう。守るべき人なんか一人も生き残ってないのに」
 ユキルが小さな翼を全力でパタパタさせて吉郎に近づいていった。まだぼやいているのだ。口では承諾したようなことを言っていたが、まだ気持ちの整理がついていないらしい。ぼやいている吉郎に激励の言葉をかけてやろうとしたその時、吉郎がガバッと向きを変えてうつ伏せになり、地面のある一点を見た。
「ユキル! 早く来いよ! 見て、これ!」
「何ですか? 急に」
 ユキルは吉郎の真ん前に着地した。吉郎の指差す先には新芽があった。
「まあ!」
「新しい種が芽吹いたんだよ! こんなに荒れ果ててるのに! 地球は無事なんだよ! なんとかなるんだよ!」
「よかったじゃない、吉郎!」
「本当によかったよ! すっげえ! やっぱ植物ってすごいな!」
 吉郎は新芽が少しでも日光を浴びられるように枯れ葉をどけてやった。すくすく成長してたくさんの生き物を育むように、吉郎は願いを込めるように作業に没頭した。
 もう十分かというところで一息つくと、暖かい風も吹いてきた。吉郎はなんだか涙が出てくるくらいその風を心地よく感じた。
「毎日曇ってるから気付かなかったけど、もう春なんだな」
「そうね」
「ユキル。俺、決めたよ。地球のために頑張る。これから先、人類の時代が来なくても、地球に新しい生命が生まれて、また豊かな星になれるように。俺しかそれが出来る人はいないんだ」
 吉郎は決意を固めたらしかった。今までで一番の生き生きした表情に、ユキルは思わず微笑んだ。

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