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【連載】ヒーローは遅れてやってくる!! 第二話 マジで周り何もねえ

【前回までのあらすじ】
 吉郎が休日に寝過ごしている間にブラック・アルケミストが闇のパワーで地球文明を滅亡させてしまった! 吉郎はそうと気付かずカップラーメンを食べているが、そこへ妖精ユキルが現れる。イデア界から来たユキルは、吉郎こそがブラック・アルケミストに対抗できる唯一で最強のヒーローだと言う。取り柄もない、友達も少ない、休日には何もしないで寝てるだけの吉郎は廃墟と化した窓の向こうの景色に絶句する。しかし、吉郎が怖気ついている時にブラック・アルケミストからの刺客が襲いかかってきて……?

[第二話] マジで周り何もねえ

 翌日、吉郎は廃墟と化した街の中を歩いていた。昨夜はユキルからブラック・アルケミストやイデア界のことについて説明を受けていた。何もかもが吉郎の想像の域を超えていて、わかったつもりになるまでかなりの努力が必要だった。
 ユキルは出来る限り吉郎にもわかるように説明しようとしてくれた。イデア界は選ばれし者だけが行ける場所で、そこでは皆が幸せに暮らせるはずだった。そこへ、悪の組織ブラック・アルケミストが現れ、イデア界を征服してしまった。ユキル達はブラック・アルケミストに戦いを挑むが敗北してしまい、ついに地球まで奪われてしまった、とのことだった。
「ユキルはさ、何でそんなに小さいんだ? 翼や猫耳もあるし。イデア界ではそれが普通なの?」
「これにはちゃんとした理由がありますが、今は私のことはヒーローを陰から見守るお助け妖精みたいなものだと思ってください」
「お助け妖精か〜、胸熱だな」
 朝方までユキルの話は続いた。吉郎は寝過ごした後だったので、夜通し話を聞くのは苦ではなかった。戦わなければならないことに不安はあったが、イデア界最強のパワーが自分に宿っていると知って余裕が出てきていた。
 どこまでブラック・アルケミストによって廃墟にされてしまったかをこの目で確かめてみようと、吉郎は外に出た。少しくらい無事で済んでいる所があるだろうと思っていた。しかし、現実は吉郎の期待を粉微塵にしてくれるような結果に終わった。
 吉郎の住むアパートは吉郎の部屋以外ボロボロになっていた。二階建てのボロアパートは見るも無残で、二階の天井はなくなっていた。
 公園の草木は枯れ果て、遊具はカケラが残っているだけだ。スーパーやコンビニなどの建物も半壊ならまだいい方だ。
 人っ子一人すれ違わないし、虫やネズミなどの生き物の気配すら感じられなかった。生き物はその存在ごと消えてしまったみたいだ。
 吉郎が好きだった定食屋は更地になっていた。大学生の頃から通っていた店だった。学生はチャーハンが格安で食べられた。店主と仲良くなって、時々、働き始めてからも店主の顔を見に通っていた店だった。
 吉郎はかつてない虚無感に襲われた。こんな風にお気に入りの場所が奪われるのは許せない。と同時に、これだけのことを半日でできてしまうブラック・アルケミストに、吉郎は強い怒りを覚えた。
「こんなのひどいよ。無関係な人達を巻き込んで、街をこんなに破壊して」
 吉郎は怒りながら、しかし、腹が減っていないことに気付いた。寝起きにカップラーメンを食べてから20時間は経過していた。
「吉郎、あなたの中の最強のパワーが目覚めたから、あなたはもう何も食べる必要はないのですよ」
 ユキルが教えてくれた。
「最強のパワーって便利だな。何も食べなくても死なないんだ」
 吉郎はスーパーも定食屋も廃墟となってしまったので、何も食べなくても死なないと聞いて安心した。
「でも、まだあなたはパワーを使いこなせていないのです。下手をすると自分の体を痛めつけてしまうかもしれません」
「そうなの? まあ、大丈夫だよ。昨日、敵を倒した時も平気だったし、今も何ともない」
「ええ。ですが、慎重にしてくださいね」
 話していると、大通りの向こうの方で爆発音が聞こえた。
「吉郎、ヒーローの出番なのです!」
 ユキルが吉郎より先を行き、二人は火の手が上がる場所へ急行した。
 黒い煙を纏った人型の何かがビルの屋上に鎮座し、火を吹いて廃墟を燃やしていた。
「出たな、ブラック・アルケミスト! これだけ街をボロボロにしておいて、まだ足りないっていうのか!」
 吉郎はジャンプでビルの屋上までひとっ飛びしようとした。飛び過ぎて隣のビルにまで吹っ飛んでいってしまった。
「おっとっと、あっぶねー」
 敵は吉郎に気付いて向こうからやって来てくれた。
「貴様が噂のヒーローとやらか」
 ユキルが小さい翼を限界までパタパタさせて吉郎のいるビルの屋上までたどり着いた。
「彼はヘリクルよ! 吉郎、早く彼を倒して!」
 吉郎は拳をぎゅっと握って全身に力を込めた。
「お前ら、絶対許さないぞ!」
「これでも喰らえ!」
 ヘリクルが吉郎の言葉も聞かずに火を吹いて攻撃してきた。吉郎は咄嗟に腕を手前で交差して耐える。
 次は吉郎の攻撃だ。ヘリクルの炎が途切れた瞬間、近づいてパンチをお見舞いした。
「俺のチャーハン返せ!」
 ヘリクルは黒い煙を放出させて倒れた。ヒンパルと同じように、黒い煙が消滅すると、普通の人間の姿になっていた。
「吉郎、よくやったわね!」
「おう!」
 吉郎は得意げにユキルに向かってガッツポーズをした。吉郎にとってはこれが初勝利のように感じられた。

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