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【連載】ヒーローは遅れてやってくる!! 第八話 ナホジェに勝利! 吉郎、ヒーローの覚悟

【前回までのあらすじ】
 幹部ナホジェから生存している人類が吉郎の他にいると知らされる吉郎。しかし、人々はブラック・アルケミストの捕虜にされていた。幹部ナホジェ一人倒せない情けない自分に捕虜になった人々を助けられるわけがないと泣く吉郎をユキルは勇気づける。吉郎は持ち前の楽観的な性格で気を取り直し、捕虜を解放しに行こうと決める。

[第八話] ナホジェに勝利! 吉郎、ヒーローの覚悟

「お前達、そこで何をしている?」
 カドが自白したブラック・アルケミストのアジトに足を踏みいれようとしたその時、吉郎達の前に敵が立ちはだかった。
「ニニズニさぁん……!」
 カドが甘えた声で助けを求める。ニニズニは後ろ手に縛られて吉郎の隣に立たされているカドを見て驚いた。
「カド! 何やってるんだ? やられたのか?」
「助けてくださいよぉ〜、コイツ強いんですよぉ〜」
「待て、今助けてやる!」
 ニニズニが突撃してきたが、吉郎は軽く飛び退いてかわした。カドは吉郎に引っ張られて情けない悲鳴を上げながら後ろに下がる。
「カド! コイツ、お前の先輩かなにかか?」
「痛いなあ! そうですよ! ニニズニさんは僕に色んな事教えてくれた大事な先輩です!」
「じゃあお前より強いってことか」
 吉郎はカドを縛った紐の先端を握って振り回し、カドを投げ飛ばした。ニニズニに直撃して二人共固まって地面に倒れる。
「悪いな! 今はお前らに構ってる暇はない!」
 吉郎とユキルはアジトの中に入って行った。

∞     ∞     ∞

 劇場があるのはビルの四階から上だった。エスカレーターを駆け上がって急ぐ。
「どこにいるんだ、皆……!」
 吉郎が三階にたどり着くと、そこには新たな敵が三体待ち構えていた。
「ニニズニから侵入者がいると聞いたぞ」
「お前が侵入者だな」
「覚悟しろ! 侵入者!」
 吉郎はジャンプして攻撃をかわして後ろに回り込む。
「オーオー、フェッツィ、ネベレの小隊よ。吉郎、チームワークに気をつけて!」
 見たところ、オーオーが毒針で敵を鈍らせ、フェッツィが長い爪で敵を捕縛、ネベレが巨大なハンマーで攻撃するスタイルのようだ。こんな所で負けていられない吉郎は初めから本気だった。
 吉郎は洋服屋の中に身を隠した。ふと、置き去りにされた試着用の鏡に目がいった。
「おりゃああ!」
 吉郎は鏡を盾に突撃を開始した。三体は一瞬たじろぐが、オーオーはさすがに反応が早く、即座に毒針を打ってきた。しかし、鏡に当たって跳ね返ってしまう。
「作戦成功!」
 吉郎は鏡を持ち上げて今度は武器にした。フェッツィとオーオーをまとめてビルの外にぶっ飛ばす。
 ネベレの巨大なハンマーが吉郎に襲いかかった。吉郎はすぐに体が動かずハンマーに当たると覚悟した。が、吉郎から光が放たれた。光を全身に浴びたネベレは悲鳴を上げて倒れた。
「よし、行くぞ!」
 吉郎は四階に到着した。
 そこにはナホジェがいた。
「貴様、ようやくここまでたどり着いたか」
「ここに捕虜がいることはわかってるんだ!」
「ほう。さてはカドが漏らしたな。あやつめ、やっと少しは使えるようになったかと思ったが」
「つくづく嫌な言い方するよな、お前!」
「黙れ。貴様が何と言おうと捕虜は解放せぬ」
「じゃあ実力行使だ!」
 吉郎が前に出ると、劇場ホールの全ての扉が開き、中の様子が見えた。ボロ切れを着た捕虜が大勢、吉郎とナホジェを見ていた。
「やっぱりいるじゃないか、こんなにいっぱいの捕虜が!」
「貴様にこやつらを全員救えるかな」
「やるっきゃねー!」
 吉郎はナホジェに殴りかかった。ナホジェは風でも避けるように軽やかに身をひるがえし、吉郎の攻撃を避けた。ナホジェの手から繰り出されるビームを吉郎はまともに喰らった。
「ぐああ!!」
 吉郎が呻くと、静かに見守っていた捕虜達も動揺し始めた。
「だ、大丈夫だ。皆……。俺は捕虜を助けに来た地球最強にして最後のヒーローだ」
 吉郎は見栄を張るが、声にはハリがなかった。
「どうした。こんなものか」
 ナホジェは何発もビームを発射してくる。
 吉郎の意識は朦朧とし始めた。最強のパワーを持っているのに幹部一人倒せないのか。捕虜にされた人達を助けたい。でも、パワーを使いこなせない。やっぱり俺は何の取り柄もないダメ人間なんだ。そんな言葉が頭をよぎった。今まで簡単に勝ててきたから幹部のことも本気を出せば勝てると侮っていたのだ。だけど、このままでは勝てない。
「ヒーロー! がんばれ!!」
 突然、声が聞こえてきた。吉郎は声がする方を見た。幼稚園児くらいの男の子の捕虜がホールの扉の前に出てきて叫んでいた。
 その姿はかつての吉郎そのものだった。
 吉郎は世間一般の男子達と同じようにヒーローアニメを見て育った。幼稚園児の頃はヒーローごっこをして遊び、戦隊ヒーローショーを見に行ったこともある。毎週テレビの録画をしているのにもかかわらず、朝の早い時間の番組も目が覚めてしまってリアルタイムで見ていた。いつもテレビの前でヒーローを応援していた。
 この子にとって、俺はそのヒーローと同じだ。
 吉郎は確信した。
 いや、それ以上の存在だ。この子は昔の俺とは違う。自分自身が捕虜にされて、これからどんな目に遭わされるかわからないこの子と俺は違う。今、この子の命は俺にかかってる。俺はこの子を本当の意味で助けてあげなきゃいけないんだ!
 いつしか男の子が始めたヒーローコールは捕虜全員の大合唱になっていた。吉郎はナホジェの執拗なビーム攻撃に耐え始めた。
「まだやれるぞ、この野郎……!」
 吉郎は立ち上がった。
「クソおおおおおおおお!!」
 吉郎の怒号と同時に、吉郎の全身から強い光が放たれた。その光は吉郎の右の拳に集まっていく。
「ナホジェ! 歯ァ食いしばれ!!」
 吉郎はナホジェにもう一度殴りかかった。光によって動きが封じられたナホジェは顔面にまともに吉郎のパンチを喰らった。
「ギャアアアアア!!」
 光が消えた。ナホジェの姿はどこにもなかった。気配すら感じない。完全に消失してしまったのかもしれなかった。
「やったのか……」
 吉郎は力が抜けて倒れ込んだ。
「吉郎!」
「お兄ちゃん!」
 ユキルと男の子が吉郎に駆け寄る。
「吉郎、しっかりして!」
「猫耳のお姉ちゃん、ヒーローのお兄ちゃん大丈夫?」
 男の子が心配そうに吉郎を見ている。男の子はユキルの不思議な背格好も突然現れたヒーローも完全に受け入れているようだった。現実とフィクションの区別がつけられるようになるにはまだ幼かった。
 ユキルが吉郎の傷の具合を確かめていると、吉郎が寝息を立てた。
「大丈夫よ。お兄ちゃんは皆を守って疲れちゃっただけだから」
 男の子はニッコリ笑った。
「そっか。ありがとう、ヒーローのお兄ちゃん」
 これが吉郎の真のヒーローとしての最初の戦いになった。

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