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【スピンオフ】私立アルケミスト学園高等部 第八話 出し物決めるぞ!!

「ヒーローは遅れてやってくる!!」スピンオフ

私立アルケミスト学園高等部

[第八話] 出し物決めるぞ!!

 吉郎のクラスの文化祭の出し物会議が始まった。
 教壇にはクラスの文化祭実行委員の二人が立っている。
「文化祭実行委のセリグだ。そしてこっちは俺の彼女のアルゴンだ」
「ふざけてないでちゃんと進行して。同じく文化祭実行委のアルゴンです」
 セリグはこの後に部活がすぐ始まるので既にサッカー部のジャージに着替えている。アルゴンもサッカー部のジャケットを着ているのでマネージャーなのだろうと吉郎は推察した。
 ユキルが身を乗り出して吉郎に耳打ちする。
「吉郎、今あなた、セリグが選手でアルゴンがマネージャーだと思ったでしょ?」
「それがどうしたの?」
「逆ですよ」
「逆?」
 吉郎は首をかしげた。
「高等部は男子サッカー部より女子サッカー部の方が強いんです。挙句の果てにはサッカー場の優先使用権を争って女子サッカー部が勝って、男子サッカー部は女子サッカー部のマネージャーに近いような状況で部活動を行っているんです」
「どんな状況だよ!!」
 吉郎が思わずツッコミを入れてしまい、少しだけクラスの注目を集めてしまう。
「転入生、何をこそこそ喋っている。出し物の案があるなら手を挙げて発言しろ」
「あ、すいません。案はありません」
 吉郎が丁寧に謝るとセリグは舌打ちをして進行に意識を戻した。
「何であいつあんな態度なの? ほぼマネージャーなのに」
「女子サッカー部は強いですからね。それを支えているのは自分達だという自負があるみたいですよ」
「まるで下僕だな」
「はい。でも、あまり刺激するとよくないので皆その事は触れないんです」
「触らぬ神に祟りなし、だな」
「まさにその通りです」
 その時、クラスメイトの一人が手を挙げた。
「じゃあそこのナホジェくん」
 ナホジェと呼ばれた男子生徒は席を立って発言した
「はい、この学園の周辺はいい自然環境に恵まれています。なので、昆虫の博覧会はどうでしょうか」
 クラスにどよめきが走る。
「ナホジェくん。君は去年もその前の中等部だった頃も毎年その案を出しているが、いい加減不可能なのを察してくれ。昆虫博覧会で喜ぶのは小学生だけだ」
「それに、昆虫は文化祭がある秋には死んでしまうからダメと言っているじゃないの」
「いいえ、実行委。聞いてください。僕が責任を持って全ての昆虫を採集し、綺麗に標本にしてみせます。それなら秋までどころかずっと長く虫を楽しむことができます」
「ナホジェくん、じゃあはっきり言うけど、可能か不可能かではなくて、お客さんが入ってきてくれなさそうだから毎年却下してるのよ」
 アルゴンの正直な意見がナホジェの心にグサッと刺さったらしくナホジェは「え!?」と言ったきり何も発言しなくなった。
「あれはあれでいいの?」
 吉郎がユキルに耳打ちする。
「ナホジェくんは理科の成績では学年一位なんです。でもちょっとオタク過ぎて誰もついていけないんですよね」
「私の意見はいい?」
 アルゴンが発言する前に黒板の案の一覧の端に何やら書き出す。
「喫茶店なんかどうかしら。コーヒーとお茶菓子をお出しするの。お茶菓子は買ってきたものをそのまま出せばいいし、コーヒーはペットボトルのを用意すればいい。内装を凝ったものにすればお客さんは来てくれると思うわ」
「なるほど。でもそれじゃありきたり過ぎないか?」
「お客さんが入りやすい展示にするには奇抜なものより需要があるものにするべきよ」
「でも、コーヒーとお菓子出すだけじゃ――」
「じゃああなた何か案があるの?」
 セリグとアルゴンの会話はどことなくピリピリしたところがあるが、クラスは何も言えないのだった。吉郎はふと思いついて、この変な空気を変えたいのもあって、勇気を出して手を挙げた。
「吉郎くん」
 アルゴンが発言を促す。吉郎は立ち上がって言った。
「案内所なんてどうですか? ここの校舎は広すぎるし、きっと面白い展示が沢山あると思います。その時間のおすすめのステージ発表とか、目当てのクラスへの道順とかを案内してあげたら迷って楽しめない人が出なくなると思うんですよ」
「それ素敵ね!」
 思いがけずアルゴンが目を輝かせるので吉郎もセリグも一瞬たじろいだ。
「ちょっと待て、このクラスはかなり奥まった場所だぞ。そんな所に案内所なんかあってどうする」
 セリグの意見ももっともだ。
「案内所は各所に設置するなんてどう? 四か所くらいに机と椅子を出して、常に二、三人がいるようにして、道案内をしてあげたりするの。教室の場所とかいつもよく聞かれるからいいと思うんだけど」
 そうして、吉郎のクラスの出し物は案内所に決定した。案内だけなら特別に何かを覚える必要もないし、夏休みに集まって何かを制作しなくていいし、拘束時間も短く済むので部活などで忙しい他のクラスメイト達も参加しやすいと乗り気になってくれた。
「それじゃ、うちのクラスの出し物は案内所で決定だ!」
「おー!!」
 クラスは一致団結して文化祭に臨んだ。

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この作品は連載「ヒーローは遅れてやってくる!!」のスピンオフ作品です。

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ヒーローには遅れてやってくる!!第一話

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