【連載】ヒーローは遅れてやってくる!! 第十二話 捕虜大行列の行き先
【前回までのあらすじ】
次々に捕虜収容所を攻略しインドに到達した吉郎。しかし、そこには僧侶のハッサンがいるだけであとはもぬけのからだった。聞くと、ブラック・アルケミストの刺客達は捕虜達を西へと大移動させたらしい。ハッサンは洞窟暮らしで存在に気付かれなかったのだろうとのこと。何もできない自分の代わりに捕虜にされた人達を助けてほしいというハッサンの願いを聞き入れて、吉郎は西へ向かう大行列を追いかけ、合流する。
[第十二話] 捕虜大行列の行き先
ユキルは百年を超える長い人生の中で今が最も緊張しているのではないかと自分を顧みた。吉郎が「ちょっとだけならいいよね?」と言い、ユキルが何をするのか考える間もなく敵のアリシェンを倒したからだった。
「何やってんのよお!」
ユキルは小声で叫んだ。吉郎はニヤつきながら黙って周りを伺っている。ユキルもこっそり吉郎の胸ポケットから顔を出して他の刺客達が異変に気付いていないか確認した。
「なんか静かになったか?」
「アリシェンがいないなあ」
「どうせしつこくし過ぎて捕虜からしっぺ返しでも喰らったんだろ」
「あり得るな」
驚いたことに、見張りの刺客達は誰一人として異変に気付かなかった。アリシェンは人望がなかったようだ。荒野に置いていかれて、今頃どうしているだろうか。
「うまくいったよ。俺、すごくね?」
「すごくないです!」
吉郎が能天気なのでユキルは怒った。
「まあまあ。これからは大人しくするから、落ち着いてよ」
吉郎は言う通り、しばらくは行列の中で捕虜と同じように目立たず歩いていた。その間、周囲の状況をよく観察していた。
捕虜行列には様々な人種の人間がいるようだ。どうやら近隣諸国から集められた捕虜達が一ヶ所に集められているらしい。途中で北から来た一団と合流した。行列の横幅は広がり、真ん中にいる人達からは左右の端がどこだかわからないほどの人数だった。
四日ほど経った頃、一人の女性が吉郎に話しかけてきた。日本のファストファッションに近い服装だが、顔は彫りが深い。肌の色も少し濃いめで、濃いピンク色の口紅がよく映えている。
「あなた、私達の味方なの?」
その女性は歩きながら見張りに気付かれないように少しずつ移動して吉郎の所まで来た。
「はい、そうです。俺はヒーローだから」
吉郎は拳を突き出してポーズを取ったが、女性は無反応だった。
「そうなの。あなた、私達と戦う気ある?」
「戦う? こんな所では無理だぞ。危険すぎるし、君は女の子じゃないか」
「関係ある? 私達は本気よ。生きるためなら何だってする」
女性の目は覚悟を決めた目だった。女性が後方を指差す。同じようなファッションの若い女性達がこちらをじっと見つめていた。
「わかった。俺は君達を助けに来たんだ。だから、時機が来たら戦うつもりだよ」
「私はダシャ。あなたが行列に紛れ込んできたところも見てる」
ダシャと仲間の女性達はインドから連れて来られた捕虜だった。途中で吉郎が侵入し、アリシェンを一撃で倒したのも見ていたらしい。脱出したいのは山々だが、自分達だけではどうすることもできないと諦めていた時に、吉郎を見つけたのだった。
「俺は色々な所で捕虜を解放してきた。だけど、今は分が悪すぎて攻撃できない。この人数の捕虜を解放するなら、目的地に着いてからの方がいい」
吉郎が提案するとダシャと仲間達は同意した。吉郎が無理だと言うなら納得するしかない。だが、目的地に到着したら必ず勝機がある保証もない。
「一回練習をしよう。君達がどれだけ戦えるかを見たい」
吉郎の提案にダシャと仲間達は乗っかった。
「私達の父は武闘家で、私達も小さい頃から父に護身術を習っているの」
ダシャと仲間達は全部で四人いた。ダシャ、マニサ、プラティマ、イラだ。ダシャは四人のリーダーで最も武道に長けていた。ダシャの決定ならあとの三人は絶対に反対しないらしい。マニサは頭がよかった。地形や廃墟の町並み、枯れ木の種類から行列は現在、ヨルダンを横断中だと推測していた。プラティマは体が柔らかい。以前は縄抜けやカバンに入るなどの芸を披露するショーガールだった。イラはまだ十五歳だった。背も低く、強そうには見えないが、四人の中では最も戦闘に意欲的だった。
吉郎は試しに誰にも気付かれずに近くの見張りを一体倒せと命じた。彼女達がいくら強くても、ブラック・アルケミストのパワーには抵抗できないので、吉郎は自分のパワーを球体にして一人三個ずつ持たせることにした。
「このパワーボールに君達が念じれば、思ったように攻撃や防御ができるようにしておいた。見張りに攻撃する時はこれを使って」
四人は打ち合わせをして五分ほどで四方に散らばった。ダシャとマニサは全体が見渡せる位置に立ち、プラティマとイラが二手に分かれて見張りに近づいていく。
「パワーを球体にして他人に持たせるだなんて、吉郎もやるようになったのね」
ダシャ達が離れるとユキルが胸ポケットから顔を出した。
「見た目が手榴弾みたいで物騒だけどな」
吉郎はワラワラと塊になって歩く行列と歩幅を合わせて歩きながら、四人の動きを観察した。プラティマはスルスルと人の塊を抜けていってもう見張りに触れそうな距離だ。イラは背が低いので、もうどの辺りにいるのか目視はできない。吉郎はイラが持っている自分のパワーボールの感じる位置でイラがまだ見張りから二十メートルほど離れた所にいるのがわかった。
ダシャとマニサはプラティマがもうすぐアクションを起こそうとしているのを固唾を飲んで見守っていた。
「ん? 何だ、お前。何で端に寄ろうとしている?」
見張りがプラティマに気付いた。プラティマは笑って誤魔化した。
「あら、そうですか? 押されちゃってここまで来てしまいました」
「何だと? シラを切るのか? そんな嘘でこのスイーカ様が騙せると思ったか?」
スイーカがプラティマの首根っこを掴んで引き上げた。
「プラティマ!」
「その子を離せ!」
ダシャとマニサがパワーボールをスイーカに投げつけた。だが、遠すぎてパワーボールは届かなかった。
「この程度で俺様が倒せるわけがない!」
「クソ! やっぱり無理だ! 俺が戦わなきゃいけなかったんだ!」
吉郎は人々を掻き分けてスイーカに近づこうとした。だが、そんな早さでは間に合わない。スイーカがプラティマに向けてビームを放とうとした瞬間、人波の中からイラが飛び出した。
人間業とは思えないバネで跳躍したイラは持っていたパワーボールをゼロ距離からスイーカにぶち込んだ。爆発が起こり、煙が立って何も見えなくなった。
「何だこの騒ぎは?」
「おい、見ろ! 煙が上がってるぞ!」
吉郎とダシャ、マニサはプラティマとイラの元へ急いだ。二人は爆発に巻き込まれた。三人が到着すると、大きなシャボン玉のようになったパワーボールがプラティマとイラを中に入れて守ってくれていた。
「無茶するなよ……」
吉郎は腰が抜けそうだった。ダシャとマニサは誇らしげだった。
「イラ、よくやった」
「プラティマもいい戦いをした」
安心するのも束の間だった。爆発を見た見張り達が様子を見に集まってしまった。吉郎達は縄で縛られて目的地に着くまで見張りのすぐ近くを歩かされることになった。その場で処罰される感じではなかったので、吉郎達は大人しくしていた。
目的地はすぐそこだった。腕が不自由でフラフラしながら歩くのに慣れないうちに、吉郎達は目的地を目の当たりにすることになった。枯れた運河を渡ってたどり着いたのは、エジプトだった。
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