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【連載】ヒーローは遅れてやってくる!! 第十五話 交戦

【前回までのあらすじ】
 エジプトの捕虜収容施設に到着した吉郎とダシャ、マニサ、プラティマ、イラの五人。吉郎が独房に連行された後、女性捕虜の檻に収容されたダシャ達四人は吉郎のパワーボールで檻を脱出し、施設の中を歩き回り吉郎を探す。

[第十五話] 交戦

「三人共! パワーボールの中に隠れて!」
 マニサがそう叫んだ時には既に、男性達の檻を遠くから見張っていたブラック・アルケミストの刺客、クリングリンが目の前まで来ていた。
 ダシャ達が騒ぎながらプラティマのパワーボールの中に入ろうとしている時に、クリングリンは禍々しい声で高笑いをした。
「グハハハハ。お前達、それで隠れたつもりなのか?」
「しまった! 間に合わなかった!」
 プラティマのパワーボールがシャボン玉のようにパチンと弾けて消えた。ダシャ、マニサ、イラはプラティマを一番後ろにして、自分のパワーボールを構える。
「それはアルケミストのパワーを秘めているな? 俺にはわかるぞ」
「アルケミストのパワー?」
「そうだ。俺達はそのパワーの正体を知っている。それを誰がお前達に持たせたかも」
「だったら何さ。私達は他の捕虜達とは違うよ!」
 イラが真っ先に飛び出した。イラはパワーボールに念じてグローブに変えた。パワーボールで作られたグローブはイラが使いなれたそれよりもずっと手に馴染んで、おまけにパワーの強化もしてくれる代物になった。
 イラがクリングリンに殴りかかる。クリングリンは手をかざして防御した。が、パワーボールによって強化されたイラのパンチは並のボクサーでも耐えられない威力を放った。
「グハッ」
 クリングリンは全身がバネになっていて、ある程度の攻撃は吸収できる構造をしていた。そのクリングリンでも吹き飛ばされる威力に一番驚いたのはイラ本人だった。
「やるじゃないか、このグローブ」
 グローブからは熱気が噴射された。イラはそれが自分の言葉にグローブが答えたように思えて、高揚した。
「覚悟しな!」
 イラは再び攻撃を仕掛けた。クリングリンはバネになった体を器用に操り、上へ下へと飛び跳ね、攻撃をかわした。
「ダシャ、まずいぞ。どれだけイラが強くても当たらなきゃ意味がない」
 マニサがダシャに言った。ダシャは考えていた。撤退するにも、ここは敵陣の真っ只中だ。どこへ逃げたって追っては必ず来る。全員で戦うにしても、パワーボールはダシャとマニサの二人分しかない。
「マニサ、あのバネを動かなくするにはどうしたらいいと思う?」
「接着剤みたいなものを使うとか?」
「できるかしら?」
 ダシャはマニサの目を真っ直ぐに見た。マニサはその目に何かを察した。
「保証はないよ」
「それでもいい。これしかないもの」
「わかった」
 マニサは自分のパワーボールを取り出し念を送った。パワーボールは溶けてヌルヌルした液体に変わった。
「おりゃあ!」
 マニサはパワーボールをクリングリンの背後から浴びせかけた。かかった瞬間から液状のパワーボールは固まって、クリングリンのバネを動かなくさせた。
 クリングリンが身動きが取れなくなったのを確認すると、ダシャはすぐさま自分のパワーボールを頭上に掲げ、輝かせた。
「そんな事をしても無駄だぞ!」
 クリングリンは辛うじて口だけは動くようだった。負け惜しみでも言うのかと思ったが、それだけではなかった。クリングリンも大声を出し、応援を呼んだ。
「黙れ! このバネ野郎!」
 イラが殴るが、時既に遅かった。叫び声と足音が聞こえてくる。万事休すかと思った。
 その時、刺客の大群を蹴散らしてヒーローが現れたのだった。
「ヒーロー参上!」
「ヨシオ!」
 四人はヒーローに駆け寄った。
「よ、ヨシオ? 俺、吉郎なんだけど」
「そうか、吉郎か!」
「何か違うと思ってた!」
「ヨシオもヨシロウもそんなに変わらないだろ」
「じゃ、じゃあもうヨシオでも何でもいいや」
 吉郎とダシャ達は固まって防御態勢を取った。刺客達は続々と集まり、狭い通路の両側を塞いでしまった。
「四人共、俺が渡したパワーボールを使って脱出してたんだな」
「そうだ。吉郎がパワーボールをくれなかったらここまでやれなかった」
「ダシャの救難信号、助かったよ。俺、完全に迷子だったから」
「私達もマニサがいなかったらこんな複雑な建物の中で目的地にたどり着けなった」
「また一個ずつパワーボールをやるから、それで戦えるか?」
「もちろん!」
 四人は声を揃えて叫んだ。しかし、吉郎達五人が戦うことはなかった。
「お待ちなさい、お前達」
 丁寧な口調の刺客が現れ、刺客達が攻撃しようとするのを止めたのだ。通路に密集していた刺客達が左右に固まって道を作った。そこを通って吉郎達の目の前に現れたのは、白いマスクに黒いマントを羽織った背の高い女の刺客だった。
「私はアルゴン。セリグ指揮官の第一の側近よ」
 アルゴンが話すと、後ろの方からひそひそ声が聞こえてきた。
「アルゴンさん、まーた言ってるよ」
「セリグ親衛隊にもなれない癖してなあ」
 どうやらアルゴンは自分で思っているより実力がないようだ。アルゴンは聞こえていないのか、無視しているのかわからないが、話を続けた。
「貴様はナホジェ指揮官を倒した日本のヒーローとお見受けする。東アジアの捕虜収容施設をいくつも破壊して回ったと聞いたが」
「そうだ。それは全部、俺がやった」
「そして、次はここエジプトというわけか」
 部下達には舐められているようだが、吉郎にはアルゴンが弱そうには思えなかった。少なくとも、ダシャ達四人がパワーボールを使って一斉攻撃しても敵うかどうかというところだ。行列を歩き始めてからずっと感じていたが、セリグの部下は考えずに突っ込んでくるやつが多い。戦闘能力は高いのかもしれないが、相手を甘く見ているのか知らないが、ちょっと意表を突くだけで簡単に倒せてしまう。
 アルゴンにはそういった慢心のようなものがなさそうだ。戦闘能力が高いうえに、考えて行動するタイプのこの手の敵と、他人を守りながら戦うのは神経を使う。
「貴様、名は何だ」
「吉郎だ」
 アルゴンの質問に吉郎は真面目に答えた。ここでふざけてヨシオと名乗る勇気はない。
「ふむ、では吉郎。貴様、私についてこい。そこの四人もだ」
 アルゴンはマントを翻して踵を返した。
「行くのか、吉郎?」
「ああ、ここは素直についていった方が身のためだ」
 ダシャが承諾すると、他の三人もそれに従った。吉郎達五人はアルゴンの後ろをついて行った。

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