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【連載】ヒーローは遅れてやってくる!! 第五話 ナホジェ現る! ブラック・アルケミストの陰謀とは?

【前回までのあらすじ】
 吉郎は気紛れで都内の大きな公園に足を向ける。そこは蓮池で有名だったが水は枯れ果て、周りの博物館や動物園など見る影もない無惨な光景になっていた。人類が滅亡した今、何のために戦っているのかとぼやく吉郎の前にブラック・アルケミストの刺客がやってくる。戦闘に勝ち、蓮池の土の上に寝転がった吉郎は新芽が出ていることに気付く。地球は再生しようとしていると知り、吉郎は喜んだ。

[第五話] ナホジェ現る! ブラック・アルケミストの陰謀とは?

 東京某所。
「何だと? それでは行方不明になっている我が部下達はどこの誰ともわからぬ一般人に倒されているとでも言うのか」
 そこはとある劇場の大ホール。ステージの端に腰掛け、部下のブググから報告を受けているのはブラック・アルケミストの幹部ナホジェだった。
「はい、その通りなのでございます」
「ふざけるな!」
 ナホジェはブググの頬を叩いた。ピシャッとブググの頬から液体が飛び散る。
「一般人など地上には一人も残っていないはずだ。直ちに急行し、トドメを刺してしまえ!」
「承知しました。すぐに行って参ります」
 ブググは怯えた様子で大ホールから出て行こうとする。
「待て」
 ナホジェが後ろから声をかけた。ブググが振り向く。
「俺も行こうではないか」

∞     ∞     ∞

 吉郎は新芽を見つけてからずっと上機嫌だった。探せば他にも新芽が出ていたり、まだ枯れていない木があるのがわかってきた。吉郎にガーデニングの趣味はないし、最後に植物を育てたのは小学校の夏休みの宿題だったが、その時のプチトマトは母が世話していた。植物にとって何が必要なのかさっぱりわからないなりに、せっかく出た芽を枯らさないように一生懸命に世話をした。
 比較的崩れていない図書館を見つけて、ボロボロのガーデニング関連の書籍を読んで一つ一つ勉強している。水を与えなければならないが、川も水道も枯れていて水はない。海まで行けば水が手に入るかもしれないが、塩水は植物にとって返って毒だった。
「吉郎、頑張っていますね。地球のためにこうしてあなたができることをやるのはとても善いことですよ」
「このくらいしかやる事ないもんな。かなり疲れるけど、いい運動になるよ」
 吉郎が土のついた手で顔の汗を拭ったので、顔が泥だらけになってしまった。ユキルはたまらず笑い出す。
「何笑ってるんだよ。お前にも土つけちゃうぞ」
「やめてください。私はいいですから」
「ほれほれー」
「きゃー! 吉郎! やめて!」
 じゃれ合っていると誰かの視線を感じ、二人は一斉にその人物を見た。
「何だ貴様ら。こんな所で油でも売っているのか」
 それは白衣を着た男とスライムのような姿の女だった。白衣の男はちらとユキルを見て表情を変えた。
「なるほど。ではお前が我が部下を倒して回っている一般人というわけか」
「俺を知ってるのか?」
「吉郎、ここは一旦引きましょう」
 吉郎が臨戦態勢に入ろうとするのと裏腹に、ユキルは逃げようとしていた。
「何でだよ、ユキル。あいつ、敵なんだろ?」
「今はまだマズイの。戦うより逃げた方が得策よ」
「何を話しているのだ。一般人、貴様、その小さな得体の知れない女の言うことを全て信じているのではあるまいな」
「ユキルがどうかしたのか?」
 吉郎はユキルを自分の後ろに隠して、男と真正面からにらみ合った。
「ここには新芽があるんだ。戦いなんてさせないぞ」
「ふん。愚かな。ブググ、やってしまえ!」
 ブググが目の前に飛び出してきた。吉郎は新芽を守るためその場から動かず、ブググの出方を待った。
「喰らえー!」
 ブググが放ったのは水だった。消防車並みの水流が吉郎に直撃した。
「水じゃないか! やった! コイツ、使えるぞ!」
 吉郎はダメージも諸共せず、のんきに喜んでいる。
「お前! もっと水くれ!」
「効かないだと? それならば、これはどうだー!!」
 ブググがさらに水量を増した水鉄砲を放った。吉郎はプールではしゃぐ子供みたいにハイテンションでブググを煽りまくる。
「もっとだ! それ!! いいぞ!! あー!! 俺はいいから、土に撒いてよ!」
 ブググは水鉄砲を闇雲に撃ち続け、次第に体力を消耗してきた。
「はあ、はあ、なんなんだお前は、不死身か……」
「おい、ブググ。そんなんじゃダメだぞ。まだ10分くらいしかやってないじゃん」
「ナホジェ様、私、もう無理……」
 ブググが倒れた。ブググが溜め込んでいた東京中の水が一気に解放された。大水害並みの水流が吉郎とユキルに襲いかかり、二人は水に流された。
「吉郎―!」
「ユキルー!」
 二人はなんとか互いの手を掴み、水面に浮かび上がった。
「あの男はどこだ?」
 吉郎は辺りを見渡した。
「よくやるな、一般人」
 ナホジェは空中に浮いて水難から逃れていた。
「俺は一般人じゃない! ヒーローだ!」
 吉郎はナホジェに向かって叫んだ。
「ヒーローとは、よく言ったものだ。その資格もない運だけの男の分際で」
「はあ? 俺だってこんな事やりたくないけど、仕方ないじゃないか。俺しかもう地球を救える人間は生き残ってないんだぞ」
「その程度の理解でよくぞここまで生き残ったものだ。その小さい女は貴様にそれしか言わなかったのか?」
「うるせえな、俺が理解できないからユキルは噛み砕いて説明してくれてるんだよ。お前は口挟むなよな!」
「ふん、まあよい」
「何もよくねーよ! 降りてこいよ!」
「貴様程度の男にこれまで部下が悩まされてきたとは考えものだ。しかし、次からはこうはゆかぬぞ。さらばだ!」
「待てよ、コラ!」
「吉郎、何かに掴まって!」
 ナホジェが消えると、水流が激しくなり吉郎とユキルは遠くへ流されていった。運良く破損していなさそうな電信柱に掴まることができた。電信柱を登り水中から脱出すると、吉郎は高所から水を取り戻した東京の街並みを眺めた。
「水だよ、ユキル」
 水は初めこそ溢れてビル街や公園などを水浸しにしていった。だが、池や川や用水路に流れていって、わずかながら昔の姿を取り戻していた。
「川に水が戻ったら、次はどうなるのかな。魚は戻ってくるかな」
 吉郎はいつまでも水の流れを見つめていた。

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