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【スピンオフ】私立アルケミスト学園高等部 第九話 優しい用務員さん

「ヒーローは遅れてやってくる!!」スピンオフ

私立アルケミスト学園高等部

[第九話] 優しい用務員さん

 文化祭実行委員会は各クラスの出し物の詳細が書かれた企画書を受け取り、実行可能かを精査していく会議に入っていた。プラティマが企画書を一枚一枚読み上げ、それについて意見を求める。
「一年生はちょっと飛躍したのが多いかもしれないね。高等部に上がって舞い上がってるのだろうけど、文化祭の日までに完成しなさそうな企画は練り直しをお願いするよ」
 プラティマは次の一枚を手に取った。それは吉郎のクラスの企画書だった。
「もう少し地に足のついた案が出てくるといいかもな。展示物を作るにしろ、なんにしろ、できなさそうな事よりはこれなら確実にできるってことを……」
 プラティマはそこで言葉に詰まった。
「二年三組、本当にこれでいいの?」
 セリグとアルゴンは大きな声で返事をした。

∞     ∞     ∞

 吉郎達は正式にOKが出た案内所の準備を進めるため、各クラスや部活に聞き回りに出ていた。
「うちの茶道部は毎年恒例のお茶会だよ。和室に数人ずつ招待して和菓子と抹茶をお出しするの」
「へえ、緊張しそうだな」
「大丈夫、大丈夫。マナーが厳しそうって皆言うけど、全部わかってる人だけじゃないことはわかってるから誰も指摘しないよ」
「そっか。でも、抹茶とか苦そうだな」
「吉郎くん心配性だね」
「そうか?」
 吉郎はまだ和室に行ったことがなかったので、茶道部の部員達に案内してもらい、地図に印をつけた。
「じゃあ文化祭の時、待ってるからねー」
「行けたら行くよー」
 吉郎は茶道部と別れ、次にどこの部活に聞き込みにいこうかリストに目をやった。
「ここからだと演劇部が近いかな」
 吉郎は顔を上げると、自分がこれからどの方向に進めばいいか迷った。
 その場所は部室棟の裏側で、和室に行くにはそこが近道だと教わったばかりだった。人気がなく、道を聞くこともできない。
「あれ、待てよ……。俺さっきどっちから来たんだっけ」
 吉郎は地図とにらめっこしながら方角を確かめようとする。
「こういう向きか? いや、こうじゃね? あれ、なんか違うな。やっぱりこうかな。あそこにあれが見えるから……こうか?」
 そこへ枝がパンパンに入ったゴミ袋を両手に下げた用務員のおじさんが現れた。
「君、迷ったのですか?」
「うわ、びっくりした!」
 吉郎は急に話しかけられたので驚く。
「ああ、ごめんごめん。道に迷ったなら案内してあげようか?」
「ありがとうございます!」
「私は用務員のハッサンだ。よろしくね」
「俺、編入してきたばかりの吉郎です」
「編入生か。それは大変だね。どこへ行くところだったのかい?」
「演劇部の部室に行きたいんですけど」
「演劇部なら部室に行くより体育館だね。今、リハーサルをしているところだよ」
「リハーサル!」
「よかったら焼却炉に行く道と同じだから、先にこれを捨ててしまってもいいかな」
「どうぞどうぞ! 俺、持ちますよ!」
「ありがとう」
 吉郎は枝の入ったゴミ袋を一つ持ってあげた。
 二人は歩きながら話しをする。
「ハッサンさんはずっとここで用務員をやってるんですか?」
「そうだね。かれこれ三十年になるかな」
「三十年も!」
「うん。路頭に迷っていたところをゼリオン理事長が助けてくれてね」
「俺もゼリオン理事長のおかげでここに編入できたんですよ」
「そうなのか。あの人は親切が人の形をしているような人物だからね。私達のような人はこの学校に何人もいるんだよ」
「へえ、そうなんですか」
「君は好きな事はあるのかね?」
「いや、俺はまだ……部活も決めかねてるところで」
「すぐに好きな事が見つからなくても、やってみようと思える事があれば何でも挑戦してみなさい。結局これは好きじゃないと後から気付いても、身に着いたものが必ずあるだろうから」
「はい、俺、頑張ります」
「ほどほどにね。さあ、焼却炉はここだ」
「おお、もう着いたんですね」
 吉郎とハッサンは焼却炉にゴミ袋を突っ込む。
「この建物を見てごらんなさい」
 ハッサンは焼却炉の反対側を指さす。
「あ、体育館だ!」
「ふふ、そうだよ」
「ありがとうございます。ハッサンさん」
「吉郎くんこそ、ありがとうね」
 吉郎はハッサンと別れた。ハッサンは何故だか不思議と心が落ち着く人だった。ゼリオン理事長も人をやる気にさせる何かがあるように感じたが、それとは別種の温かい気持ちがハッサンからは溢れていた。

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この作品は連載「ヒーローは遅れてやってくる!!」のスピンオフ作品です。

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ヒーローには遅れてやってくる!!第一話

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