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【連載】ヒーローは遅れてやってくる!! 第六話 VSナホジェ 競技場の戦い

【前回までのあらすじ】
 ついにブラック・アルケミスト幹部ナホジェが現れた。吉郎はせっかく見つけた新芽を枯らさないために懸命に世話をしている最中だった。水がなく困っていたところに攻撃をしてきたナホジェの部下ブググはなんと水で攻撃してくるタイプだった! 吉郎は新芽に水が行き渡るようにブググを挑発して攻撃させまくる。疲労困憊したブググは体内にため込んでいた東京中の水を一気に放出させる。

[第六話] VSナホジェ 競技場の戦い

「ユキル、正直に話せ」
 吉郎は真剣な表情でユキルを問い詰めた。
「あの白衣の男は一体誰なんだ?」
 ユキルを見る吉郎の目には闘志が燃えていた。前回、新芽の手入れ中に襲撃してきた白衣の男ナホジェに吉郎は小馬鹿にされたばっかりだった。
「何なんだアイツ? 急に現れて意味わからない事言って。ムカつくんだけど。アイツ誰なんだよ?」
「吉郎、落ち着いて聞いてください」
 ユキルはゆっくり説明した。
「彼はナホジェ。ブラック・アルケミストの幹部よ。今までの敵とは段違いのパワーを持っているわ」
「幹部!?」
 吉郎が驚きの声を上げた。
「ブラック・アルケミストって役職まであるのかよ?」
「そうよ。幹部は四人。ボスであるイレナクルフに特別に信頼されている実力者なの」
「なら話は早い。幹部なんてのがいる組織ならアジトも必ずあるだろ? だったらそこを襲えば終わりじゃないか」
「吉郎ったら、そんな簡単に言うけど、幹部はとても強いのよ!」
「大丈夫だよ。俺は最強のパワーを持つヒーローなんだろ? さっさとこんなバカげた戦い終わらせよう」
「そんな……」
 吉郎は競技場の跡地に向かった。ブラック・アルケミストを誘き出す作戦らしい。ガラクタの山から拡声器を発見して、それを持って競技場の真ん中に立った。
「ブラック・アルケミスト幹部のナホジェ! 俺は最強のヒーローだ! 戦うには絶好のチャンスだぞ! 出てこい!」
「吉郎、やめましょう。こんなどう見ても罠にしか見えない作戦に乗っかってくれるわけないわ」
 ユキルは全く気乗りしていなかった。全く吉郎の気まぐれにはいつも悩まされる。幹部ともあろう者がノコノコ現れるとユキルは思えなかった。
「貴様、何のつもりだ」

 しかし、ナホジェの思考はユキルの理解を超えていた。競技場の真上の空中にナホジェが現れた。刺客のカドもいる。ユキルは危うくツッコミでも入れてしまいそうになった。
「出たな! 幹部!」
「我々を誘き出す作戦にしては酷く安直ではないか?」
 ナホジェは言っているが、乗っかった時点で吉郎と同レベルだとユキルは思った。
「うるせえ! 引っかかった癖に!」
「引っかかったのではない。乗ってやったのだ」
 吉郎とナホジェの会話は低レベルで聞いていられなかった。ユキルは吉郎の陰に隠れてやり切れないという顔をする。見ると、カドもこの状況についていけていないという様子だ。
「おい、ナホジェ! ブラック・アルケミストの目的は何だ! 何で地球をぶっ壊したんだ! おかげで俺は木々の手入れをするご隠居さんみたいになっちゃっただろ!」
「貴様にイレナクルフ様の素晴らしい計画は理解できぬ。大人しく死ね!」
 ナホジェの合図でカドが攻撃を仕掛けてきた。カドの腕はカマキリの鎌のように鋭くなっている。その腕を振り回して吉郎を攻撃してくる。
 吉郎はギリギリで攻撃を交わして後退する。鎌が大きいので迂闊に近づけない。反撃しようにもできなかった。吉郎は高く飛び退いて、一旦距離を取る。
「自分で戦えよ! 部下にばっかり面倒な仕事押し付けてんじゃねー!」
「黙れ! 私の仕事は貴様の抹殺だ。使える人間なら生かして奴隷にでもするつもりだったが、この分では余程、何の力も持たぬ捕虜の方が役に立ってくれるわ!」
「捕虜?」
 接近してくるカドを避けながら吉郎はナホジェの言葉を聞いていた。
「お前、今、捕虜って言ったか?」
「それがどうした?」
「捕虜がいるのか? 地球人の生き残りが他にいて、お前達が捕虜にしたのか?」
「ふん。その通りだ。見たまえ。これが地球人類の成れの果てだ」
 ナホジェが指を鳴らすと、空中に映像が浮かび上がった。汚れ切った服を着て牢屋に詰め込まれ、ひしめき合っている人々の姿が映し出されていた。
「この者達はいずれ文明再建のための奴隷となる。ブラック・アルケミストの崇高なる理念の下、新しい文明が地球に誕生する一端を担うのだ」
 吉郎は一週間ぶりに見る自分以外の人間の姿に懐かしさを感じた。この映像の中に知り合いの姿はない。だが、一週間前までこの人達と吉郎は同じように当たり前の日常を暮らしていた。いきなり地球が襲われて、わけがわからないまま奴隷にされて、居心地の悪そうな牢屋で自分達がこれからどんな目にあうのかと怯えている彼らを見て、吉郎は愕然とした。
「いたんだな……俺以外にも人間が……」
「カド、今だ。やってしまえ!」
 カドが吉郎に突進してきた。吉郎は鎌を避けるとカドの胸ぐらを掴んで引き倒した。カドは思わぬ攻撃に対応できず、地面に倒され気絶した。
「ナホジェ! 次はお前の番だ!」
 吉郎がナホジェに向かって特大ジャンプした。
「ふん。またも失敗か」
 ナホジェは吉郎のパンチが届く直前に消え去った。吉郎は空振りして地面に着地した。
「クソ!」
 吉郎は地面をぶん殴った。様々な感情が吉郎の中に湧き上がってきていた。人類は生存している。その事が嬉しかった。でも、彼らはブラック・アルケミストの捕虜だ。生かすも殺すもブラック・アルケミストの意向次第だ。一刻も早く助けたい。それなのに、自分は幹部一人倒せない無力なヒーローだ。
「必ず助けるからな!」
 吉郎は競技場中に響き渡る声で叫んだ。拡声器を使わなくても十分過ぎる声が出ていた。

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