【スピンオフ】私立アルケミスト学園高等部 第五話 中等部のエース
「ヒーローは遅れてやってくる!!」スピンオフ
私立アルケミスト学園高等部
[第五話] 中等部のエース
吉郎は翌日から早速、部活動の見学を始めた。
アルケミスト学園の部活動は中等部と高等部が一緒に活動している。中等部と高等部が隣接している広い学校の敷地には部活棟と呼ばれる中高兼用の建物がある。グラウンドもテニスコートやバスケコートなどさまざまなコートがあり、体育館も設備が充実している。それらは皆、中高兼用で全六学年が一緒に練習に励んでいる。
吉郎は部活棟で活動している文化部から見て回った。音楽系だと合唱部や吹奏楽部、軽音楽部、ジャズ研究会、芸術系だと美術部や書道部、ちょっとオタクっぽいのだと漫画研究会やアメコミ研究会などがあった。その他に歴史研究会、鉄道研究会、化学部、天文学部、茶道部など幅広い部活が揃っている。
興味のありそうな部活を見尽くした吉郎はあまり得意ではないが運動部も見ておこうと外に出た。グラウンドは広く、野球部のバットとボールが当たる乾いた音や、テニスボールの弾む音、遠くからさっき見てきた吹奏楽部の楽器の音が響き渡っていた。
少し歩いていると、グラウンドの外れの方に小さな建物が見えてきた。こんな所にどうしてこんな建物があるんだろう、と近づいていくと、キュッキュッボスッボスッという物々しい音が聞こえてくる。
「こんなとこで何してんだアンタ」
「うわっ!!」
急に後ろから声をかけられビビって振り向くと、吉郎の目の前には背は低いが腹筋がバキバキの女子生徒が立っていたので吉郎はさらにビビり倒した。
「あ、おれお、おれ、あの、部活見学っていうか……」
「え、見学?」
女子生徒は吉郎の貧弱な体をまじまじと見つめて怪訝な顔をする。
「イラ、何してんの」
女子生徒は名前を呼ばれて横を向く。中等部の制服をきっちり規定通りに着こなしたひょろっとした童顔で金髪の男子生徒がそこにはいた。
「ニコラス」
イラとニコラスは完全に舐めた目つきで吉郎を見た。
「な、なんだよ」
この時点でこの三人は吉郎が高等部でイラとニコラスが中等部であることを察していた。しかし、何故かこの二人は吉郎を完全に見下しているように吉郎には思えた。とても不快な視線を浴びて吉郎はムカついていたが、言い返せない臆病者だったし、それも見透かされていた。
「この人誰」
「部活見学らしいよ」
「ふうん。いれるの?」
「まあ、見るくらいなら」
イラは吉郎をあの小さな建物に案内した。
部屋の中心に青い正方形のマットが敷かれ、四隅のポールからは三本のしなるロープが張られていた。それはどう見ても格闘技のリングだった。リングの脇にはサンドバッグが吊り下がっており、棚には防具やグローブが置かれている。
「ここ、ボクシング部」
イラが言った。吉郎は初めて見る本格的なボクシング部の部室に感動していた。
「すげえー!」
イラとニコラスは「コイツすごい興味津々じゃん」と言いたげな空気を出している。
「ちょっとやってくか?」
「え! いいの?」
吉郎は感動で気が大きくなっていたのか、即答で返事をしてしまった。だが、これが間違いであったことは次の瞬間に気付いた。
「ギブギブ! ごめんなさい! 俺がバカでした!!」
吉郎はスパーリング開始10秒で根を上げた。イラの容赦ない攻撃が吉郎を絶え間なくボコボコにする。
「いや! もう! ほんと! すごかったんで! この辺で帰ります! どうも! ありがとうございました!」
吉郎は逃げるようにボクシング部の部室を出た。絶対にボクシング部に入ってはいけないと決心して、今日はもう帰ることにした。
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