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【連載】ヒーローは遅れてやってくる!! 第七話 東京奪還! 吉郎の決意

【前回までのあらすじ】
 幹部ナホジェのいちいち頭に来る言い方に腹を立てた吉郎はナホジェを誘き出す作戦を考える。競技場でナホジェを挑発するという安易な作戦を呆れて見ているユキルをよそに、ナホジェは姿を現わす。戦闘中に捕虜がいることをほのめかすナホジェ。自分以外の人間がいることに驚いた吉郎は激昂してナホジェを攻撃するが、間一髪で逃げられてしまう。

[第七話] 東京奪還! 吉郎の決意

 吉郎とユキルは競技場の真ん中にいた。
 嬉し泣きとも悔し泣きともつかない涙を流す吉郎。それもそのはずだ。地球に生き残りは自分しかいないと思っていたのに、大勢の人間がブラック・アルケミストの捕虜になって生きているとわかったのだ。しかし、吉郎には彼らを助けられる自信がない。
「吉郎、大丈夫ですか?」
 ユキルは吉郎に優しく声をかけた。吉郎はひとしきり泣いて、今は落ち着いていた。
「俺、どうしたらいいのかな」
 ユキルは返答に迷った。吉郎は戦うしかないし、ユキルはそう言うしかない。他に選択肢はないのだ。地球の未来は吉郎ただ一人にかかっている。吉郎が諦めたら、地球はブラック・アルケミストの思いのままだ。
「俺はさ、子供の頃からパッとしないやつだったんだよ」
 吉郎が話し始めた。
「勉強も真ん中よりちょっと下くらい、体育の成績はいつも3で、モテないし、趣味とか熱中することもない。大人になってからもミスばっかりで、やっと少しは一人で任せてもらえる仕事ができたかなって時にこんな事になったんだ。俺に地球を救うなんて最初から出来っこないんだよ。どうして俺なんかが強いパワーを持ってるんだろうな。もっと使いこなせる人がいるはずなのに、何で俺なんかが」
 吉郎はそこで言葉が詰まった。また涙が出てきて仕方がなかった。捕虜はきっと誰かが助けに来てくれるのを待っているだろう。でもそれは吉郎のような情けないヒーローじゃない。
「吉郎、全ては因果によって繋がっているのです。この世の全てはあるべき法則に従い、因果関係で互いに影響し合っている。あなたにパワーが宿ったのも、何か理由があるのですよ」
「俺にパワーが宿った理由?」
「そうです。あなたは選ばれたヒーローなのです」
「誰かが俺を選んだの?」
「誰かというより、因果があなたとヒーローのパワーを結びつけたのです」
「そうなんだ」
 吉郎は立ち上がった。
「イッテテー」
 吉郎がフラついた。ナホジェとの戦闘で高くジャンプし過ぎて、着地の時に膝を痛めたらしい。
「ヒーローなのにうまく着地できないってダッセーよな。早くパワー使いこなせるようにならなきゃな」
「吉郎ならきっとできますよ」
 吉郎は出口に向かって歩き出そうとした。が、左の方に走っていった。ユキルが追いかけると、カドが意識を取り戻して立ち上がろうとしていた。
「おい、お前―。まだやるのか? お前のボス、お前を置いて帰っちゃったぞー」
「か、帰った……?」
 カドは立ち上がろうとするのをやめて、座り込んだ。
「ひどい! 僕だってこんなに頑張ってるのに! ナホジェ様は僕を置いていったんだ! 僕なんかどうでもいいんだ!」
 カドは泣き出した。
「おいおい、今度はお前が泣くのかよ。今日はなんか湿っぽいな」
「カド、ナホジェがどこへ帰ったのか教えてください。あなたはアジトの場所がわかるでしょ?」
「ついでに捕虜の居場所もな!」
 カドは吉郎とユキルを睨んだ。しかし、吉郎に戦う意思がなさそうなことと、自身も完全に戦意喪失していたので、カドは大人しく質問に答えた。
「ナホジェ様は劇場にいる。この街で一番大きな劇場だ。そこに捕虜を匿って、これから奴隷として各地に連行するんだ」
「この街で一番大きな劇場?」
 ユキルが吉郎に言った。吉郎にはどこだかわかっていた。
「行こう、ユキル。この街で一番大きな劇場って言ったらあそこだ」
「わかったわ」
 吉郎は行く前にカドにも声をかけた。
「お前も行くか?」
「僕?」
「そうだよ。お前んちなんだろ? 一緒に帰ろうぜ」
 カドは吉郎の差し出した手を掴んだ。鎌の部分は収納されて、普通の人間の手が出現していた。

∞     ∞     ∞

 捕虜収容施設になっている劇場は新しくできたばかりのビルにあった。新しいビルは災害対策が徹底されていて、ブラック・アルケミストの攻撃にも無事に耐えることができた。外壁は傷ついているが中は安全だ。
 吉郎、ユキル、カドは正面エントランスの前に立っていた。
「これから敵のアジトに乗り込むのね」
 ユキルが言う。吉郎はやる気になっているのか、黙ってビルを見つめている。
「行くぞ」
 吉郎が一歩足を踏み出した。
「待て!」
 大きな声と共に空から人が降ってきた。全身が赤と白のマーブル模様になっていた。吉郎達とビルの間に立ちはだかるようにして地面に降り立つ。
「カド、そこで何をしている?」
「こいつもブラック・アルケミストか」
 吉郎は拳を強く握りしめた。

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