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【連載】ヒーローは遅れてやってくる!! 第十四話 四人の戦士達

【前回までのあらすじ】
 エジプトの捕虜収容施設に到着した吉郎達。怪しい動きをした吉郎は他の捕虜達とは別の独房へと入れられる。そこで吉郎はセリグの視線を感じ、戦慄するのであった。新しく仲間になったダシャ、マニサ、プラティマ、イラの身の危険を感じた吉郎はすぐさま独房を破壊し、四人を探しに向かった。

[第十四話] 四人の戦士達

 吉郎が檻を破壊し、脱出したその頃、ダシャ達はまだ檻の中にいた。
「これからどうするの?」
 プラティマが口火を切った。ダシャは口を真一文字に結び、一切を受けつけない態度で見張りを睨みつけていた。イラは俯いて四人の最後尾を歩いている。マニサがプラティマの質問に反応した。
「檻を出る」
「でもどうやって?」
「それを探っているのよ」
 プラティマの不安は一層募っていた。行列を歩かされている時に出会ったヒーローを名乗る日本人の男とは引き離されてしまった。マニサがいくら頭がいいとはいえ、ヒーローのような特別な力は持っていない。
「捕虜は何千人といるのに、見張りは少ない。こっそり抜け出す手段はあるはずよ」
 ダシャが見張りを見つめたまま二人の会話に入ってきた。
「ダシャ。でも、私達は普通の人間よ。危険すぎる!」
「普通の人間じゃない」
 イラが手を出してきた。プラティマはこんな時に何の冗談かと思ったが、イラの手の中にある物を見た瞬間、目を見開いた。
 イラはヒーローからもらった光る球体、パワーボールを四個も持っていた。
「それどうしたの?」
「私は一つしか使ってない」
「じゃあ残りの二つは?」
「プラティマのポケットから取った」
 四人は見張り達に縛られる直前の状況を思い返した。プラティマが見張りに近づいていることがバレて拘束され、ダシャとマニサが遠くからパワーボールを投げつけようとした。その時にダシャとマニサは三個全部投げてしまった。イラがプラティマを捕まえた見張りの至近距離でパワーボールを爆発させ、プラティマが持っていた一個がプラティマとイラを爆発から守った。その後、イラは気付かれずにプラティマのポケットから使っていない二個のパワーボールを取り、自分が残した二個と一緒に隠し持っていた。
「よくやった、イラ!」
「うん」
 ダシャがイラの頭をなでた。イラは少し照れくさそうだった。
「これは護身用に一人一個持って。私が作戦を立てる」
 マニサが言った。

∞     ∞     ∞

 暗くなってから、ダシャ、マニサ、プラティマ、イラの四人は檻からの脱出作戦を決行した。
 千人はかるく越えるだろう人数の女性がひしめき合う檻の中に四人は入れられた。地球の物理法則を無視した大二十面体の建物の壁は不思議なことに外だけ透けて見える特殊な加工がされていた。突起部分の角度や曇り空からかすかに見える太陽の沈んだ方向からして、四人がいる場所は大二十面体の西側に位置する、中心から斜め下に向かって突き出た突起部分だ。斜めになっているはずだが、巨大過ぎるからか床が斜めに感じるなどの、坂の途中にいる感覚はない。
 見張りは一人だ。これだけの人数の捕虜を見張るには人数が少ない。女だと思って舐められているのだとイラは思っていた。しかも、見張りはうたた寝をしていた。
 最初に動いたのはプラティマだ。見張りの目を盗んで檻の格子をすり抜けた。縄抜けが得意なプラティマにとって、そんなに脱出が難しい檻ではなかった。格子の間隔が広すぎるのだ。
 プラティマはそこで自分のパワーボールを使った。何をすればパワーを発揮するのかわからなかったが、こうなってほしいと念じたらパワーボールはその通りになってくれた。プラティマは自分の体をパワーボールで覆って、見張りに存在を気付かれないようにした。
 見張りは立ったまま首をガックンガックンしてうたた寝していた。緊張感のない見張りだった。プラティマは見張りの腰に檻の鍵が提げてあるのが見えた。それをゆっくりと盗み取る。
 プラティマが鍵を開けた。ガチャリと音がする。不思議な素材でできているのに、鍵が開く音は普通だった。
 ダシャ、マニサ、イラの三人が檻から出る。何人かの捕虜の女性達が四人を見ていたが、ついてこようとする者はいなかった。目が「無駄な抵抗はやめろ」と言っていた。四人は気にせず廊下を歩き始める。
「ドキドキした……!」
 プラティマが深呼吸しながら小さい声で叫んだ。
「静かにね。見張りがどこにいるかわからないのよ」
「それで、次はどこに行くの?」
「ヒーローと落ち合う」
 マニサの推測では、ヒーローは反対側の東側の斜め上に突き出た突起部分のどこかにいるだろうとのことだった。行列は大二十面体に入る時、最初に直角に地面に突き刺さった突起部分から急な階段を上らされた。階段は大二十面体の中心部分近くで分岐し、女は西側を下へ、男は東側を上へ向かった。男性達の檻はその先にあるはずだ。
 だが、これはとても危険な道筋だというのもマニサはわかっていた。この建物は迷路のように入り組んでいてとても狭いのだ。複雑な構造をした大二十面体の内側を張り巡らされた通路はどこを通ればどこに繋がるのか正確に予測するのは難しい。
もし見張りと鉢合わせたら隠れる場所はない。運よく大二十面体の中心にたどり着けても、そこは全ての突起部分と繋がっている。そこを通る時に見つかる可能性が最も高い。
 プラティマのパワーボールが膨れて四人を包み込んだ。パワーボールの中にいれば気配を消していられる。四人はなるべく固まって歩くように心がけた。
 巡回中の見張りが廊下を歩いていた。四人はすれ違い様に息を止めた。見張りは何もなかったかのように四人の隣を通り過ぎていった。
「よかった……」
 プラティマが呟いた。後ろを振り返り見張りの後ろ姿を見た。
「これなら大丈夫そうね。先を急ぎましょう」
 マニサはまだ緊張気味だった。このパワーボールの力がどこまで保てるかわからない。時間はかけたくなかった。
 四人は中心部分に到達した。
「ここは慎重に通ろう」
 マニサは四人で背を向け合って全方向が見えるように指示した。ダシャが前を歩き、イラが右側、プラティマが左側、マニサが後ろ向きで歩き出した。
マニサは上方の分岐を覗き込んだ。どんな構造になっているのか不明だが、どんな角度の突起部分に進んでも床に垂直に立てるようになっていた。まるでスペースオペラの世界のようだ。ヒーローがくれたパワーボールのおかげで、見張りは四人に気付かなかった。

∞     ∞     ∞

「ヒーローを探して!」
 ダシャ達四人は男性がひしめき合っている檻に到着した。四人は手分けしてヒーローの姿を探す。
「あの男、名前は何だっけ?」
「えっと、確かシロウじゃなかった?」
「ヨシオだ。ヨシオを探して!」
「誰か、ヨシオを知りませんか?」
 檻の中の男性達はダシャ達の騒ぐ声を聞いて目を覚まし始めた。驚いて近づいてくるひげもじゃの男がダシャに向かって言った。
「お嬢さん達、どうやって檻から出たんだ?」
「ヨシオのおかげなの。ヨシオはここにいる?」
「ヨシオ?」
「日本人の男よ。ヒーローの力を持っていて、捕虜になった私達を助けてくれるの」
「日本人の男がヒーロー? どういうことだそりゃ」
 ひげもじゃの男はがしがしと頭を掻いて周囲の男性達に目配せした。
「ヨシオってやつ、いるか?」
 反応はない。ヨシオはここにはいないようだ。
「お嬢さん、ヨシオなんて日本人はここにはいないよ。諦めな」
 二人の会話を聞いていたイラがひげもじゃの男に掴みかかる勢いで檻の格子を掴んだ。
「いないわけない。私達はアイツと一緒に来たんだ!」
「落ち着きなさい、イラ。彼は捕虜を解放するために来たのよ。いなくなるわけない」
「でも、ここにいなきゃどこにいるんだよ?」
「きっと、檻に入る前に脱出したのよ」
 マニサはその時、何か引っかかるものを感じてヨシオ探しに集中できなかった。これではうまくいきすぎている。ヨシオが持たせてくれたパワーボールのおかげでここまで見張りに気付かれずに来られたのは確かだ。だが、何かが違う気がする。
「三人共! パワーボールの中に隠れて!」
 マニサが叫んだ。
「一体何なの?」
「待ってよ!」
「ここは見張りがいない!」
「ええ!?」
 四人が一ヶ所に集まろうと走り出した。その時、禍々しい声が廊下に響き渡った。

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