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ちょっと待った、安倍首相! なぜ、病気と体調が退陣理由になるんですか?

 本日2020年8月28日、安倍晋三首相が病気による体調不良を理由として辞意を表明したとのこと。自民党内部でも世の中でも、特段の疑問は示されず、「当然」と受け止められています。
 でも私、「あれっ?」と思ったんです。
 私は安倍首相を全然支持していないし、総選挙のたびに「せめて首相が安倍さんでなくなれば」と期待していました。生活保護政策や社会保障政策の悪化に歯止めがかかってほしかったですから。でも、でもでも、でも。
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”わけあり”職業人を排除しない流れ

 日本は、”わけあり”職業人を排除しない方向に変化してきています。まだまだ不十分ですけど。
 職業人の前提が「男性・健康・18歳~65歳くらい・独身または専業主婦の妻あり」というものであったことは、かつての日本経済のパワーの根源でしたが、今となっては日本社会からパワーを奪う足かせになっています。
 このような前提がある限り、報酬はその人と仕事だけではなく、その人に扶養されている家族の分まで支払うことになります。社会保険料のうち雇用者が負担する分も。
 本人が中高年になるころ、家を購入したり子どもが高校や大学に進学したり、さらに親の介護が発生したりします。やたらとお金が出ていく時期を支えるためには、年功序列に従って高給を支払うしかありません。長期安定雇用が「定年まで会社のモデルに沿って勤め上げれば、家も買えるし、子どもを大学に行かせられるし、老後は年金があるし(これは怪しくなってますが)」という暗黙の約束だった以上、簡単に「今のあなたは、仕事に対して高給すぎるから辞めてください」と言うわけにはいきません。
 しかし専業主婦の妻を前提にしていると、「妻が働いていて2馬力だから、夫が失職してもなんとかなるだろう」というわけにはいかないし、妻の収入や納税を当てにするわけにもいかないし。
 自公政権と雇用サイドの都合だけを考えても、「男性ではない」「健康ではない」「健常ではない」「出産したり育児したり介護したりする」「高齢」「家庭や家族に対する責任を負っている」といった”わけあり”の人々を職業人の世界から排除することには、メリットが全然ありません。デメリットだけです。
 どちらかといえば自公政権のもとで不利な扱いを受け、雇用される弱い立場にある人々にとっては、なおさらデメリットが多大です。

障害のある国会議員もいる


 現在の参議院には、重度障害を持つ2人の議員がいます。「れいわ新選組」の木村英子氏と舩後靖彦氏です。2人は、リクライニング車椅子に乗って介助を受けながら国会議員の役割を果たしています。木村氏の障害は固定したものですが、舩後氏は進行性疾患であるALSを患っています。2人とも、「健康かつ健常」というわけではない”わけあり”議員であり、そうであることが議員としての存在意義の一部をなしています。障害や病気を持つ人々を代表する当事者ですから。
 地方議会でも国会でも、障害や病気を持っている議員が当然の存在になり増加していくこと自体は、むしろ歓迎すべき流れです。それを問題視するのだったら、「妻が働いていて家事育児を担わなきゃ」「出産と育児をしながら仕事はやめない」という議員も居てはならないことになりますよね? それで、「少子化」に対策したり「女性活躍」(敢えて政府の用語を使います)を推進したりすることが出来るわけはありません。
 日本の抱える課題の数々を考えると、いずれは「閣僚の1人か2人は障害者または病人」という状態が当然になるのではないかと思います。また、そうであるべきだと思います。

「病気だから辞めなくてはならない」ということはないはず

 私自身は、安倍首相を全然支持していません。そもそも、辞める辞めないは本人が決めること。お辞めになりたいのなら、止める理由はありません。しかし、「病気で体調が悪いから辞めるのは当然」だとは思いません。
 安倍首相には、治療を受けたり苦痛を緩和したりしながら、首相の仕事を続ける選択肢があったはずです。立って歩行したり椅子に座ったりするのが苦痛なのなら、苦痛を緩和できる車椅子で介助を受けて仕事すればいいじゃないですか。国会にはちょうど、木村英子さんや舩後さんという当事者の大先輩がいます。相談したら、大喜びで器具選びなどのアドバイスを提供されるのではないでしょうか。
 一国の首相が、車椅子のような補装具をフル活用して介助を受けながら職務を遂行する姿は、決してネガティブなものではなく、むしろ「日本の多様性尊重はタテマエではなく本気です!!」というポジティブなアピールになることでしょう。遂行している職務の内容を度外視すれば。

 2014年、第二次安倍政権下で、日本は国連障害者権利条約の締結国となりました。病気があって体調が悪くても職務を継続しようとすることは、この条約のコンセプトに適っています。ですから安倍首相には、「病気と体調から辞めるのが当然」と言うメッセージを発してほしくなかったと思います。
 しかし日本の障害者の間では、「安倍首相には実行する気はなく、先進国の見栄でしかたなく締結した条約なのだろう」と囁かれています。このたびの退陣には、「本当にそうだったんだろうなあ」と納得しちゃいます。ともあれ、安倍首相がお辞めになりたいのでしたら、辞めてじっくり休養し、回復していただきたいものです。

病気や障害などで”わけあり”すぎる議員だから、出来ることがある

 本来、「病気だから辞める」「障害者になったから辞める」という選択を、閣僚や国会議員がする必要はないはず。
 ご本人も周辺も、そのような”わけあり”議員になったからこそ、日本のあちらこちらにいる”わけあり”の人々を代表することができるのだと考えていただきたいものです。

ノンフィクション中心のフリーランスライターです。サポートは、取材・調査費用に充てさせていただきます。