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採用が上手いスタートアップは「Why Now」を作るのが上手い

書いたきっかけ

最近ありがたいことに私の会社で積極採用を行っており、よく自分でもスカウトを打っています。
各種媒体にログインしてスカウト業務を行っていると、前職の人材事業で自分がCA(キャリアアドバイザー*)として毎日スカウトを打っていたときのことをふと思い出し、このnoteを書いてみたくなりました。
*厳密に言うと、「ヒューマンキャピタリスト」という職種でした

スカウトとは、要するに「我々今このポジションで採用をやってまして、ぜひ一度面談しませんか?」と候補者さんにお声がけすることであり、効果的なスカウトを打てるかどうかで、採用業務の効率・効果は2倍も3倍も変わってきます。
では、受け手が反応しやすいスカウトの特徴とは何なのかを考えなければならないのですが、そこには当然たくさんの要素があります。

・そもそも「いい会社」かどうか
・求人が魅力的かどうか(ポジション、タイトル、業務内容等)
・自分の経歴を見てくれたうえでスカウトしてくれているか、文面がパーソナライズされているか
・「カジュアル面談」スタートでハードルを下げてくれているか etc…

ただ、個人的に一番重要、かつ採用側が創意工夫できる要素は「Why Now」のストーリーだと思っています。それが本noteのテーマです。

そもそもWhy Nowとは

Why Nowは、営業では口酸っぱく言われる言葉です。

意味は文字通り、「なぜ今(この製品を買うべきか)」です。
「いずれあったらいいな」「今後どこかで購入しようかな」という製品は、一生購入されません。一生優先順位の上位にこないからです。

Why Nowがない製品

トップセールスは、Why Nowを死ぬほど磨きます。例えば…

「御社の3年後の中期経営計画を実現するためにはこの製品の導入が必要で、その効果を実現する時期から逆算すると、今導入すべきです」
今のうちにこのセキュリティ対策をしておかないと、他社のように近い将来痛い目にあうリスクが大きいです」etc…

なお、セールス活動における競争相手は、何も同じ領域で事業を展開する競合他社の製品だけとは限りません。顧客の持つ時間・予算の中で、優先順位を奪い合う全てのものが競合です。その中で、自社が提供できる価値を一番上に持ってこれるかどうかのゲームです。

ちなみに、知り合いのSalesforceのトップセールスは、「今購入するとお得です」と言えるロジックを毎Qごとに作っていました(笑)

「3月はXXがあるので、いいディスカウントを提供できます」
「6月は〇〇なのでお得に購入いただけます」
「9月は追い込み時期なので、かなり良い金額をご提案できます」 etc…

採用におけるWhy Nowとは

ちょっと営業の話が長くなりましたが、そういったWhy Nowの要素は、採用活動においても非常に重要です。
採用におけるWhy Nowとは何か?例を見たほうが分かりやすいと思うので、スカウトメッセージで具体例を挙げます。

Why Nowがないスカウト例

タイトル:
「■■のご経験を活かし、弊社でご活躍いただけませんか?」
内容:
1. XXさんのご経歴を拝見しました。
2. 弊社は〇〇というミッションを掲げ、□□事業をしています。
3. ■■というポジションを採用中です。魅力は△△なところです。XXさんに
とてもフィットしていると思います。
4. ぜひカジュアル面談で一度お話しませんか?

どうでしょう。この内容でスカウトメッセージを送っても、よほど会社自体が魅力的であったり、役職に惹きがない限り、あまり受け手の印象には残りません。

なぜか。それは、「なぜ私がその企業に入るべきなのか」という、明確なWhy Nowを、その"ストーリー"を、シェアしてくれていないからです。内容がいつでも言えるような静的な情報で、面白くないんです。「弊社は今こういった状況です。だから、今来てくれたらこういった新しい / 面白いチャレンジができるよ」という、解像度が高い「今だからこそ」がほしいんです。

特に、スタートアップに行きたいと思っているような人間は、足元の待遇や社会的地位ではなく、「一旗揚げたい」タイプが多いです。
分かりやすい例を挙げると、「あの会社の創業フェーズにいて、XX部門を任されてました」とか、「新規事業立ち上げのコアメンバーでした」とか、「こういった面白いプロジェクトを立ち上げ・推進しました」とか言えるようなワクワクできる経験がしたいのです。

ここで言うWhy Nowは、事業やミッションレベルのWhy Nowではないです。「20XX年問題」とか「高齢化社会が」とかそういうのじゃなくて、候補者にとってのWhy Nowであることがポイントです。

「そういう書き方をすると、ミッションに共感してくれない人からも返信が返ってくることになりませんか?」という疑問を抱いてしまうかもしれません。しかし、そもそもほとんどの企業が掲げるミッションは美しいし、共感できない人はいないと思います。そのため、よほど受け手の人生と結びつくようなテーマでない限り、そこを推しても印象に残るメッセージになることは難しいと個人的な経験から考えています。
(仮にミッションを強くアピールするなら、創業者のパーソナルストーリーを添えて送ると効果的かもしれません)

Why Nowがあるスカウト例

といった話を踏まえつつ、「上手いなぁ」と思ったスカウトのタイトルをシェアさせてください。

【〇〇SaaS】少数精鋭組織でのARR30億円への挑戦をリードしませんか?

〇〇は、SaaSのジャンルです

この会社はすでに上場しているのでARR情報を記載できたのだろうと思うのですが、大枠の趣旨としては下記になります。

・今ARR20億。X年でここまでやってきた
・今期150%成長を目指すので
・ARR30億円までの道のりを一緒にしませんか

求人内容はそもそも僕が希望していた職種ではなかったのですが、そのフェーズ・チャレンジ自体が面白そうだと思い、とても興味が湧いたのを覚えています。Why Nowをうまく伝えるスカウトであり、今入ることでしか得られない経験を明確に示した非常に良い例だと思います。
もちろん、彼らがなぜこの事業をしているのかや、この事業におけるこれまでの道のりなども色濃く書かれており、その点もプラスでした。

Why Nowを作る

こういったWhy Nowとして明確に伝えられるアピールポイントがあれば、それだけチャレンジ精神のある優秀な候補者が採用できるというものです。

そして、巧みな経営者や採用責任者は、他社以上にWhy Nowを作りだす意識が強いと思います。最たる例は、LayerXさんです。

コンパウンドスタートアップを志向されているので、たくさんのプロダクトを生み出すことはそもそもの事業戦略として重要なわけですが、半年に一個新規プロダクトを出す宣言をすることで、それだけ社内に立ち上げ機会があるということを発信しています。

これにより、「御社って100・200名いるし、もう一定出来上がってるんじゃない」といった、組織規模が拡大してきたグロースフェーズの企業が候補者から魅力的に映らない問題(僕は勝手に"One of Them問題"と呼んでます)も見事に解消できている気がしています。

他にも、「AI・LLM事業部」なる組織の設立を大々的にアピールされるなど、とにかく「常時お祭り状態」が創れているため、どのタイミングであっても候補者に「なぜ今うちに入ると面白いことができるのか」を訴求できるように見えます。

「でも、そういったWhy Nowって会社の状況次第なのでは?最近資金調達したとか、事業を立ち上げるとか」と思われるかもしれません。もちろん、その側面もありますし、大きなイベントが頻度高く起こる企業のほうが有利なのも事実です。
ただし、これは営業同様にコミュニケーションデザイン、つまり「伝え方」も半分以上のウェイトを占める問題だと個人的には思います。

こういったムーブメントを仕掛け、Why Nowを発信し、常に優秀な人材を採用できる状態にするのが、採用担当が一番「違いを創れる」やりがいのある仕事ではないでしょうか。


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