短編小説「情動の月」①(全3話)
第1話
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君は死んだ。
君との友情は、
儚く残酷なものだったが、
今になって、
案外そうでもない気がしている。
君は、確かに生きていた。
僕たちは一度も話をすることも
なかったが、
友達だった。
確かに君は生きていたんだ。
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君を初めて見かけたのは、
父さんに連れられて、
山に行った時だ。
君は遠くから、
ただこちらを見ていた。
お互いの存在を
確認しながらも、
僕たちは
そこから動かなかった。
しばらくして、
君は姿を消してしまったけど、
君の残像がいつまでも
目に焼きついた。
数秒の出会いだったが、
凛としたその佇まいの裏に
どこか寂しさが
見て取れた。
その姿は
僕を虜にしてしまった。
この後の結末は、
そのことをますます
際立たせ、美しさを増した。
それは、
「結末は決められない」
だけど、
君は今生きている、
その美しさだったんだと思う。
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君との出会いを
父さんに語らずには
いられなかった。
興奮した僕を前に
父さんは
真剣な顔をした。
目の奥にある決意を見た。
そして父さんは、
舌なめずりをするように、
こう言った。
「金になるぞ」
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君は、
自分を認識する
名前を持たない。
君は、
自分の感情を表現する
言葉を持たない。
君は、
家族もいなければ、
友達もいない。
きっと生きる意味も持たない。
しかし、
君が生きていたことを
僕は見たんだ。
その美しさを見たんだ。
君は
最後の狼。
(第二話に続く)
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(あとがき)
この短編は
僕にとって、
初めての創作となる
「情動の月」短編第一話です。
生きるということ、
本当に大切なことは
何だろうか、
ということを
テーマに、
僕自身の人生観を
照らし合わせ、
書いたものです。
狼(ニホンオオカミ)は100年以上前に、
奈良の吉野で捕獲されたのを最後に
絶滅されたとなっています。
結末は決められない、
だけど生きていたことが美しい。
正直、
やりたいことをやる、
というのは怖い。
それでも
今やりたいことに
挑戦したい。
結末は決められない、
だけど今を生きるんだ、
書くということ。
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もらえると、
嬉しくて続きを書きます。
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