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『しろくまちゃんのほっとけーき』

ほかほかと美味しそうなほっとけーきを思わず頬張りたくなった子ども達は、きっと数知れず。
長年愛され続けている、大定番の一冊です。

シンプルなフォルムと色鮮やかなページの背景は、小さな人達の目を惹きつけてくれます。
この色合いは、ディックブルーナの『ちいさなうさこちゃん』シリーズの日本版を意識して作られたそう。
オレンジ色ではなく、柿色に近い色味。確かに、日本に生まれたわたし達に親しみやすい色合いです。
うさこちゃん同様、シリーズを通して長年愛され続けている理由がわかります。

しろくまちゃんがお母さんとほっとけーきを作る過程は、失敗も盛りだくさん。
普段の生活の中では、なかなかここまで子ども達に失敗させてあげるのは至難の業ですね。
しろくまちゃんが卵を落としてしまった時点で、短気なわたしだったら「はいおしまい!」と言ってしまいそう。笑

でも絵本の中なら、そんな失敗も思う存分体験させてあげられます。

こなは ふわふわ ぼーるは ごとごと
だれか ぼーるを おさえてて
『しろくまちゃんのほっとけーき』こぐま社

このシーンで、思わず絵本のボールを一緒に押さえてしまった子どもは、我が子だけじゃないはず。
実体験にも繋げやすい、でも実体験に繋がらなくとも、絵本の中でしっかりと「体験」できる。
これもまた、この絵本の魅力の一つだと思います。

ほっとけーきのできる過程は、まるで絵本の中からいい香りが漂ってくるかの様。音も合わさって本当に美味しそうです。

出来上がったほっとけーきは、お母さんの持つお皿の上に4枚あります。
この絵を見て、ほっとけーきのできる過程を「あと3回!」と言ったお子さんもいるそう。
確かに、見開きいっぱい使われて描かれたほっとけーき作りの過程では、1枚しかできていません。
子どもは本当に細かいところまで「絵を読んでいる」ことを目の当たりしたエピソードです。

ほっとけーきをお母さんと作り、大好きなお友達と一緒に食べて、後片付けまで楽しむ。
複雑な心理描写があるわけではなく、淡々とその過程が描かれているこの絵本は、身近な暮らしが全てである子ども達の心に寄り添ってくれます。

こぐまちゃんシリーズは一貫して、そんな身近な暮らしが描かれています。

身近な暮らしを丁寧にシンプルに描いた絵本こそ、暮らしの基礎を固めている子ども達に是非堪能して欲しいですね。

『しろくまちゃんのほっとけーき』
わかやまけん 作
もりひさし 作
わだよしおみ 作
こぐま社 1972/10


ちなみに、最後のページでお皿洗いをしているシーンですが、初版ではもっと泡がモコモコと広がっていたそう。
ですが、環境問題が言われる様になり、「こんなに洗剤を使うシーンは不適切ではないか」との意見が出たそうで、今の絵に描かれ直されたと聞きました。

長く愛されている絵本の中には、そんな書き換えられたエピソードも多々あります。

形を変えてもなお読み継がれる魅力が、絵本の根っこの部分にちゃんとあることがうかがえるエピソードです。

こぐまちゃんえほんのシリーズのラインナップはこちら。
お気に入りの一冊が見つかります様に。

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