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『もじもじこぶくん』

我が家の3人きょうだいは、全員恥ずかしがり屋です。
内弁慶で、家の中ではそんなこともないのに外では一気に無口になったり。
人見知りの全くない天真爛漫な子とは雲泥の差。
そんな我が家の子ども達と重なるのが、この絵本のこぶくんです。

こぶたのこぶくんは、とってもはずかしがりや。
アイスクリームを買いに行くのですが、なかなか注文ができません。

次から次へとお客さんが買いに来る中、こぶくんはもじもじしたままどんどん先を越されてしまいます。

でも、こぶくんは もじもじ もじもじ。
まだ なんにも いえません。
うなだれて うなだれて
こぶくんの はなのさきは、
もう じめんに とどきそう。
『もじもじこぶくん』福音館書店

子ども達は、小さな頃は万能感に溢れています。
なんでも出来る!自分でできる!とぐんぐん進んでいく時期があります。
ですが、少しずつ周りが見えるようになってくると、周りと比較したり、自分のできないこともあるのだと気付き、小さな劣等感を抱く様になります。

腰を曲げ、鼻の先を地面につけて落ち込むこぶくんは、そんな時期の子ども達を表しているかの様。
思わず駆け寄って抱きしめてあげたくなりますが、こうした劣等感もいつかは自分自身で乗り越えていかないといけません。

こぶくんの勇気のきっかけは、こぶくんより小さな存在であるありのありいちゃんでした。

自分より小さな存在。守ってあげなきゃいけない存在。そうした存在に気付いたこぶくんは、自分の中の劣等感を乗り越えて、最大の勇気を振り絞ります。

妹や弟ができたり、幼稚園、保育園で上の組になったりと、自分より小さな存在が出てくる時期。
正にそんな時期の子ども達の心の動きに、この絵本はぴったりと寄り添ってくれています。

もじもじこぶくんの成長は、大人から見たらほんの些細な小さなものかもしれません。
でもこの小さな変化を丁寧に描くことで、子ども達は心の中に大きな勇気を抱くことができると思います。

この丁寧さこそ、絵本に求めたいものでもあります。

ラストのシーンは思わず微笑んでしまう程、愛らしいもの。
着地点の子どもらしさで、絵本のメッセージが教訓めいたものにならずにすんでいる気がします。

こぶくんの様な我が子達ですが、この絵本を読んで「こぶくんみたいに勇気を出そうね!」とは決して言いません。
絵本をどう受け取るかは、子ども達の自由。
「アイスクリーム、よかったね」と、その幸せだけを共有できたらそれでいい。

これから先の子ども達の心の中に、どんな風にこぶくんが残っていくのか。
その楽しみもまた、絵本のある子育ての醍醐味ですね。

『もじもじこぶくん』
小野寺悦子 文
きくちちき 絵
福音館書店 2019/04

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