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『かいじゅうたちのいるところ』

絵本は絵を読むものだとよく言われますが、この絵本を手に取るたびに、絵と物語とが見事に融合した作品だと感動を覚えます。

⁡文章だけ追っていても、お話は十分入ってきます。
ですが、そこにこのセンダックのこだわり抜かれた絵が交わると、途端に世界が深く広がっていく。
子ども達はより絵を読み込むからこそ、この絵本が大好きなのだと感じます。

典型的な「行って帰る物語り」の構成ですが、その枠組みはしっかりと絵で表現されています。
マックスが想像力を膨らませて、かいじゅうたちのいる世界へ飛び込むと、絵本から飛び出さんばかりの森がぐんと広がります。

現実の世界とファンタジーの世界とが、絵を見るだけでちゃんと理解できる。
だからこそ子ども達は思いっきりかいじゅうたちの世界へ飛び込めます。
かいじゅうたちの世界は、ちょっとドキドキするスリルも。

「おねがい、いかないで。
おれたちは たべちゃいたいほど おまえが すきなんだ。たべてやるから いかないで。」
『かいじゅうたちのいるところ』冨山房

なんて、ウィットに富んだユーモアのある台詞も描かれます。

場面一面使って描かれるかいじゅう達の世界を、ドキドキと共に思う存分堪能できる。

それは、ほかほかとあたたかいスープが必ず待っているという安心感があるからこそ。

行って帰る物語の魅力は、この安心感にあります。

どれだけ長く深く冒険しても、ちゃんと戻る場所がある。
だからこそ、ちょっぴりドキドキするかいじゅうたちのいるところにも、思いっきり飛び込める。
行きっぱなしではないからこそ、子ども達は「もう一回!」を楽しめるのだと思います。

ちょっぴり怖いけど、あたたかい。
正に、子ども達の求めている冒険が、そこにはあります。

『かいじゅうたちのいるところ』
モーリス・センダック 作
神宮輝夫 訳
冨山房 1975/12

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