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夕焼け番長

夕焼け番長

番長という言葉、現在は死語なのか?

その昔も、さすがに自分がこの学校の番長だ!と名乗り出るものまではいなかったが、どこの学校にもあいつがいわゆる、番長だ!的な存在だと自他共に認める奴がいた。

梶原一騎原作、荘司としお作画の少年漫画に夕焼け番長という作品があった。

信州の山奥から都会の木曽中学に転校してきた主人公の名は赤城忠治、赤城の山も今宵限りか?の国定忠治の謳い文句をもじってつけられた梶原一騎の、時代劇に対する思い入れの深さが感じられるネーミングに、年端のいかなかった私自身よりも私の父親が喜んで読んだ漫画でもあった。

とにかく、登場人物のネーミングの一人一人が、小粋でユーモアがあってそれだけで物語の世界観に引き込まれる忘れ得ぬ作品の一つである。

ここで赤城忠治と戦った、番長連合(この名前がすでに痺れる名前だ)の影の番長をはじめとする面々の名前を書き記すと

1.紅小路 弘                           2.黒部 塔介                           3.鮫川 巨鯨                           4.白椿 錠

さすがは巨人の星で、左門豊作や花形満、伴忠太、星飛雄馬の名前を考え出した梶原一騎先生の登場人物の名前のつけ方である。

隣町の中学校白亜学園の大金持ちの御曹司紅小路弘は、木曽中の影の番長であり、品行方正を装いその実像をひた隠しにするのだが、赤城忠治の台頭で正体を明かし決戦の時を迎えることになる。笑ってしまうのだが中学生ながら生き死にの戦いを演じ、大量の出血により生死の境をさまよった紅小路は、忠治の血を輸血してもらい一命を取りとめる。そしてその後は良きサポーターとして忠治の為に尽力する。昨日の敵は今日の友とは、正しくこういうことを言うのであろう。

また空手の達人、紅小路が赤城忠治との決戦で発した「チェストー」の一言が大人になるまで意味不明だったのだが、大河ドラマ「西郷どん」で西郷扮する鈴木亮平のセリフに同じ言葉を聞いた時、鹿児島弁だったという事実が判明し、それが猿叫と呼ばれる戦いの時に発する雄叫びであり、特に意味はないという説明に対して、妙に納得した記憶がある。

それにしても子どもの頃、目にしたそんな何気ない一言が、何故頭の片隅に残り続けていたのか、幼少期の心に焼き付いた記憶というのは死ぬまで忘れ得ぬものなのだろうか?

もう一人の宿敵鮫川巨鯨は、高校空手界の巨人で、フランケンシュタインや後に見た北斗の拳に登場したラオウを彷彿とさせるような人物設定だった。サメガワキョゲイという名を聞いただけで今もクスッと笑ってしまう。この漫画を知らない人でも頭の中にサメガワキョゲイの人物像が名前の印象だけで思い描けるのではないかと思う。

赤城忠治は信州?の山奥で山小屋を経営する両親のもとで心身共に健やかな成長遂げたのだが、その両親は心無い観光局の浅はかな行動により、雪崩に巻き込まれた人の身代わりとなって命を落とすという運命を辿る。一度に両親を無くした忠治は、その後都会で暮らす祖父に引き取られて木曽中学へ転校した。

赤城忠治は、勧善懲悪の絶対的なヒーローではなく、時に残酷な一面も持ち合わせたり、各スポーツ分野での最強の相手とスポーツ対決した時も、最初は歯が立たなかった相手に対して努力を重ねて技術を積み上げ、再戦に勝利するといった生身の努力型のヒーローであった。赤城忠治は宿敵との戦いに何度も負けているどこにでもいる普通の少年だったのだ。

梶原一騎の作品に共通することだが、どれもその内容が小説という設定に変わっても充分後世に伝わるだけのポテンシャルを秘めた作品であるような気がしてならない。

その他にもこの漫画のヒロイン水の江洋子は、多分梶原一騎が女優水の江滝子のファンだったのかとか、小瀬小次郎という名の子悪党のネーミングが、こせこせした小瀬のイメージにぴったりはまって思わず唸ったことなど、50年以上たった今でもハッキリと記憶の中に甦る。

そんな赤城忠治は、私が人生の中で最初に憧れたヒーローだったのかもしれない。

荘司としおはその後も源少年を「サイクル野郎」でサイクリングの虜にし、梶原一騎は「タイガーマスク」で何度も涙を誘った。

サイクル野郎

タイガーマスク



喧嘩の天才  「夕焼け番長」よ永遠なれ!

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