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SF作品の一つの完成形 王道を行くメトロポリス



独りぼっちの金曜日に

 独りぼっちの金曜日の夜、映画を観ませんか?
 今夜は疲れた夜にちょうどいいボーイミーツな作品をご紹介いたします。
※この記事にはネタバレを含みます。未視聴の方は鑑賞してからお読みいただくとより作品を楽しめます。また、本ブログは既に視聴した方向けの内容です。さらに、勝手な考察を含めます。

あらすじ

 日本から探偵助手の少年ケンイチと探偵の伴(ばん)は、人間とロボットが共存する大都市メトロポリスへやってきた。生体を使った人造人間製造の疑いがあるロートン博士を逮捕するためだった。
 摩天楼な大都市メトロポリスは高層ビル「ジグラット」に代表される階層都市だ。地上は比較的裕福な人間が住み、地下に降りるほど人間は貧しく、ロボットは人型より作業用の見た目になっていく。規則に違反したロボットは自警団組織マルドゥクによって銃撃される。そしてマルドゥクを裏で支援するのが、ジグラットを建設した有力者のレッド公であり、彼の養子はマルドゥクの若手実力者が作中明確に敵対してくる、ロックという少年だ。

 人間とロボットの共存都市とされたメトロポリスだが、どんな社会にも差別は存在する。それは「支配階級>自警団>地上の人間>スラムの人間>ロボット」と流れていく。

 ロートン博士を追う主人公のケンイチと伴は現地のロボット刑事のペロとともに地下に潜っていく。地下の人々やロボットの扱いに憤慨しつつも進む二人は地下の研究施設を見つけるが、とある理由で火事が起こっていた。ロートン博士を追う伴とケンイチは火事の中、研究所に突入する。裏口に回ったケンイチはそこで金髪の少女、ティマに出会う。

作品内の歴史、内政問題

 作中でほとんど言及がなかったが、メトロポリス内の歴史では「大戦」が起きている描写がある。物語後半に国務大臣の回想シーンで数秒映し出されるが、多くの人が亡くなったこと、大戦中もしくは大戦後にロボット技術が発展したことが窺える。
 大戦終結後、都市復興のためにロボットによる都市の再建が進む。その結果、人間の労働者とロボットとの競争が激化、仕事を失った人間がスラムを形成したのかもしれない。
 結果、階層都市が形成され、ロボットに対する差別感情と労働者の怒りのはけ口とすることで、自分たちへの批判を抑える支配者階級が生まれたのだろう。
 作中でも市民に対してメトロポリスを「環境、経済、文化の牽引都市」や「千年王国」と表現する場面がある。

 世界が荒廃した結果、ロボットを積極活用したメトロポリスがいち早く復興したようだ。

神話との関係

 作中の用語にはメソポタミヤ神話や旧約聖書との関係が多い。
 高層ビル「ジグラット」…メソポタミヤ神話の聖なる塔。
 自警団組織「マルドゥク」…メソポタミヤ神話における男神。バビロンの都市神でその神殿は旧約聖書の「バベルの塔」のモデルになった。
 
 作中でも語られるが、バベルの塔は神の怒りに触れ崩壊した。ただし神はバベルの塔を崩壊させるために、人間の言語をバラバラにしてお互いに協力できなくさせた。

 物語中盤、スラムの人間のリーダー「アトラス」が支配者階級の一人である大統領の支援を受ける。目標は、支配者階級で影の支配者のレッド公に対し自由を求めて暴動を起こすことだった。支配者階級内でも大統領派とレッド公派の権力争いが発生しているし、スラムの人間が暴動を起こし、それを自警団が制圧するなど人間同士の対立が横行している。

被造物と創造主 父と子

 SF作品と神話は以外にも親和性が高いかもしれない。例えば、神と人。神を創造主とすれば人間は被造物に当たる。それはメトロポリスでも同じだ。人間とロボットも同じ関係であり、のちに語られるがロートン博士とティナの関係も創造主と被造物に当たる。
 ロートン博士がティナを「我が人生の最高傑作」といって執着するのも自分が「創造主」であるという自尊心があったからかもしれない。

 だが、もう一つこの関係に当たる人物が存在する。影の実力者、レッド公と養子のロックだ。二人の関係はある意味創造主と被造物に近い。大戦のときに孤児だったロックをレッド公が養育したことで始まった二人の関係はやがて「父に愛されたい」と暴走したロックと、「子供は亡くなった娘だけ」なスタンスのレッド公で大きく乖離していく。この溝が大きく物語の舞台装置になっていく。

作中あやふやだったレッド公の目的、矛盾(勝手な考察)

 明確に語られない部分が多い、というか説明不足な部分が多い。特に気になったのが、下手すると国一つ滅びるかもしれないくらいのことをしたレッド公の目的が微妙に分からないことだ。
 わざわざロボットたちを大規模に暴走させ、スラムの人間に暴動を起こさせた理由が不明確の点がある。もしかしたら自分の権力を確固たるものにしたかったからなのかもしれないが、それなら物語後半のようにティマを使い、ロボットを使って自分以外の支配者を殺せばよいのではないか?

 もしかしたらレッド公の目的は「神(っぽいのAI)の創造」と「人間の復権と繁栄」が目的だったのかもしれない。

 レッド公からすればロボットは差別の対象であり、作中でも語られるがレッド公は自警団組織マルドゥクを設立するほどだ。自分の目的のために、わざとロボットを暴走させるほどロボットを道具としか見ていない。
 そんな彼でも世界を背負うのは重すぎたのかもしれない。だから神(っぽいのAI)を作り、世界を統治してもらおうと考えたのかもしれない。だから、わざわざ指名手配されているロートン博士を招聘してまで、亡くなった娘に似た人造人間のティマを作り、わざわざ高層ビル「ジクラット」を作り、その中に「超人のイス」という大それた名前の機械を作った。
 大戦で人間同士の殺し合いを見続け、人間の判断能力を信頼できなくなった。たが、ロボットに世界を任せるわけにもいかない。そんな彼なりの矛盾の解が「娘に瓜二つの人造人間を制御系に組み込んだ神(っぽいのAI)に世界を統治してもらう」と「その力で人間の権利を復権し、あわよくばロボットの権利をはく奪する」だったのかもしれない。

ケンイチのその後? 革命家なき革命(勝手な考察)

 スラムの人間が暴動を起こした時、ロボット刑事のペロは破壊された。スラムの人間にとってロボット刑事も自警団も、自分たちを支配する存在の手先だったからだ。ペロの残骸を見たティマは「なぜ人間は自分たちの都合でロボットを破壊するのか?」とケンイチに聞く。そのとき、ケンイチがつぶやいたのが「なにが革命だ」だった。
 暴動のリーダーのアトラスの部屋には、よく見るとチェ・ゲバラ風のポスターが貼ってある。他方、物語の終盤、ケンイチは崩壊したメトロポリスに残る選択をする。その際にロボットたちの元に駆けていく描写がある。
 ケンイチがロボットと人間の間の差別感情を薄くする。そんなことがあるかもしれない。

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