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月曜日、蹴飛ばしたらゴミ箱にも嫌われて 転がって潮風に錆びた

私はなんだかずっと自分がなんなのかわからないまま生きている。男なんだか女なんだかもわからず、子供なんだか大人なんだかもわからないまま、ただ与えられた記号や名前を相応に演じたり、名前の方を適当にいじったりするばかりだ。

だから自分が人間だという感覚があまり無い。認めたくないのかもしれないし、何かしらの役割を放棄しているのかもしれない。
ヒト科ヒト属の個体であることは知っている。知ってるからといって実感はない、その程度である。

そして生きているだけで人を傷付けるような、(或いは傷付けられるような)そういう絶対的で自意識過剰な孤独感が常々あって、それ故に人に近付き過ぎてはいけないといった強迫観念がある。
ただ私は寂しがりなのでハリネズミの恋人のようなジレンマを拗らせていて、孤独に浸りきれない。つまるところ人に近づき過ぎてはいけないと強く思っているが、多少は近付きたいのである。

そういうところから自分のことをまるで人のフリをした獣のようだと感じている。爪や牙を隠して人のフリをして、人間に近付くのを許されたがるのだ。(脱線するがこれ故に私はキャラクターの皮をかぶるのが好きだ。獣のような自分を直視しないで/させないで済み、比較的楽に人に近付けるからだ。)

それを話の流れでポロ、と恋人にこぼした。
私は狼の獣人なのだよ、こうしてヒトに近付いては飼い主を探しているんだ、君どうだね、私に首輪をつけてみないかね、と。
彼をヒトだという前提で話を振った。

すると少し困ったように「ええと、じゃあこっちは、」などという。

そっちがそうならこっちはね、メガテリウムの獣人なんだよ。メガテリウムはね、大昔にいた大きいナマケモノの仲間なの。ー中略ー なんだろうやっぱりね、自分も普通の人間とは違う生き物だなあという気はしているんだ。
と彼は続けた。

私は少し面食らってから、嗚呼、と言った。
この人が言うならきっとそうなんだ、我々は狼の獣人とメガテリウムの獣人だったんだ、私が食い殺すには彼は少し大きいけれど、ほっといたら死んでしまいそうだもの、きっとそうだ。と思った。

「自分は普通の人とは違う」と言い張る口を幾人分も見てきたけれど、説得力のあるのとないのがいる。

例えば自分のことを怪獣だと言い張る女性の同性カップルを間近に見たことがあったが、
片方はなんだか本当に人間に混じって生活するために一生懸命(人間よりも人間の行儀がなっているようにすら見える)人間をやっている、恐竜か妖精のようであった。

しかしもう片方は、行儀のなってない人間が、彼女と同じになりたくてそう言い張っているようにしか見えなかった。
(少なくとも私には)

もう一例出すと、以前もっと身近にもそういう類の人がいて、その人は「私はどこかおかしいんじゃないかと思うときがある、普通の人ではないと思うし、普通の人を強要されて辛い。」などと言っていた。けれど、私にはその人が「本当は目立ちたいし誰かの注目の的になりたいが、そんなことを言うのはみっともないとその人自身が思う故に、自身を無害で謙虚な有象無象であると強調してすましている」風にしか見えず、滑稽だった。

こんな風に「人間ではないような雰囲気を纏った人間」と「人間ではないと言い張る人間」の2パターンを私は見てきた。

説得力のある人間、所謂、「人間ではないような雰囲気を纏った人間」のそれがなんなのか私はずっと探している。基底欠損なのか、発達特性なのか、それとも性格なのか、本当に人間ではないのか。
ただ大方、他人に何か著しく絶望したとか、人と自分の感じ方が違いすぎるとか、人が言うことや考えていることや常識がどうにもこうにもピンとこないとかで、人と面と向かうと壊れてしまうからだったんじゃないかとは思う。一つ“私は人間ではない”と壁を作って諦めることで、なんとか人と向き合ってきたんじゃないかなあなんて。

もしかして本当に人間じゃあないのかもしれないね。獣人ではないにしたって、人間じゃあないということはあるかもしれないね。

わからないけれど、私はそういう人に強烈な仲間意識を持ってしまう。おんなじ生き物ではないけれど、おんなじ世界を見てくれる気がするからね。


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