スカイリムプレイ日記~狩人ちゃん~ #53
こちらの続きです
『乱心』②解決編
一心不乱に魚のフライを頬張り続けるシェオゴラスから目を離して周りを見回すと、遺跡にあるような石造りの門が三つ建っていることに気が付きました。他に目ぼしいものもないので、その一つをくぐって進んでいくと、頭の中でシェオゴラスの声が響きました。
「あぁ、これは悲しい道のりだ。ペラギウスは多くのものを憎み恐れた。暗殺者、野犬、アンデッド、黒パン…だがも最も深く鋭い憎しみは、自分自身に向けられていたのだ。奴の自分自身への攻撃はすべてわかる。攻撃はいつも自分の一番弱い部分へと向けられている」
「自己嫌悪がペラギウスの怒りに火を注ぐのだ!だが奴の自信は一度叩くたびに縮んでしまう。だから上手くバランスをとらなければならない」
シェオゴラスの声が消えて、視界の先に軽装鎧を身にまとった男の姿を捕らえました。男は木に向かって構えています。一体何をしているのか、よく見てみると、なんと木の根元に小さな、それは小さな男が立っているではありませんか。
どうやら小さな男はペラギウスの『自信』、軽装鎧の男はペラギウスの『怒り』の化身のようです。
これはペラギウスの心の中。そして元の世界に戻るには、この状況をどうにかしなければならないようです。しかし弓矢も何もかも失ってしまった私に、果たしてどのように立ち回れというのでしょうか。途方にくれていると、自分が不思議な形状の杖を握っていることに気が付きました。
――ワバジャック…これがワバジャックか!シェオゴラスが叫んでいた、この難局を打破するための道具は、魔法の杖だったのです。
何気なくワバジャックを振ってみると、オレンジ色の光がほとばしりました。効果はわかりませんが、シェオゴラスに持たされたと考えれば、これを使うしか手はないのでしょう。
まずは『怒り』に向かってワバジャックを振ります。すると『怒り』の身長が縮み、それを見届けた木の陰に隠れていた『自信』が悠々と歩き始めました。しかし『怒り』は攻撃をやめません。『自信』は反撃することなく、攻撃を受けながら前に進もうとするのみです。
今度は『自信』にワバジャックを当ててみました。すると体が大きくなりましたが、小さな『怒り』が激しく殴りかかるとすぐにまた小さく縮んでしまいました。
今度は『怒り』に当ててみます。すると両手斧を持った小さな亡霊『自信喪失』が二体現れ、『怒り』と共に『自信』に切りかかりました。小さな『自信』は囲まれた三体から攻撃を受け、時折膝をつきながらも、それでも反撃するこよはありません。
『怒り』や『自信喪失』にワバジャックを当てても何も起こらないので、最後にもう一度『自信』に当ててみました。すると『怒り』が忽然と消え、『自信』は『自信喪失』に攻撃を受け続けながら、確かな足取りで再び歩き始めました。
シェオゴラスの声が聞こえます。
「よくやったぞ。ペラギウスはついに自分を愛することができるようになった…そして自分以外の全員を憎み続けるだろう」
やがて『自信喪失』も消え去り、ペラギウスの『自信』が立ち止まりました。どこにいくでもない彼を置いてその場を離れます。とりあえず第一関門はクリアできたようです。
ワバジャックを使い、ペラギウスの精神世界に関する謎を解く。これはシェオゴラスが仕掛けた、ペラギウスの心から脱出するためのゲームというわけですね。さすがはデイドラ王、ろくでもない暇つぶしです。
さて、次の門へと向かいます。
「夢の道に進んだな。お前にとっては残念なことだが、ペラギウスは幼い頃から恐ろしい夜に苦しんだのだ。かわいそうなペラギウスが目覚めるために必要なもの…それを見つけるだけでよい。奴の恐れには与しやすかろうが…しつこいぞ」
進んでいくと、ぽつんと置かれた大きなベッドの上で、一人孤独に眠るペラギウスがいました。
その表情は苦悶に満ちています。悪夢に苦しんでいるということでしょう。
他に標的もないので、さっそくワバジャックをペラギウス本人に当ててみました。すると少し離れた場所から赤い光を纏った一匹のオオカミが現れました。
オオカミは眠るペラギウスに向かって容赦なく襲い掛かります。慌ててワバジャックを当てると、オオカミは消え、かわいらしい羊へと姿を変えました。
オオカミは消失し、その場は平穏になりましたが、ペラギウスはまだ苦しそうに眠り続けています。オオカミがペラギウスの中から出てきた悪夢だとすれば、この要領ですべての悪夢を無害なものへと変異させ続け、ペラギウスを目覚めさせなければならないわけですね。
もう一度ペラギウスにワバジャックを当てると、山賊の男が現れました。のんびり座っていた羊が立ち上がり、蹄で戦いを挑みます。山賊VS勇敢な羊の終わらない争いを眺めていても仕方がないので、山賊にワバジャックを当てると、煙を上げて少年の姿に変わりました。
少年のペラギウスは純粋そうな、無邪気な男の子です。狂王とされた彼にもかつてこんな時代があったんですね。
その後もハグレイヴンを色気のある乙女に変え、炎の精霊を焚火に変え、最後に現れた凶悪な死霊の魔術師を宝箱に変えると、眠っていたペラギウスがゆっくりと起き上がりました。
「さて、実に誇らしいではないか。これでペラギウスは元気になったし、お前は事を順調に運んでいるというわけだ。我々が家路につく時も近いぞ」
焚火を囲んで踊る少年と女性、草を食む羊、大きな宝箱と、目覚めたペラギウス。大きなベッドを中心にして穏やかな時を過ごす彼らを残し、次の門へと向かいます。
「よいか。ペラギウスの母親は…何というか…”独特”だったのだ。まぁ大した事ではないが…セプティム家の者としては普通だからな。」
石の階段を上ると、そこは小さなコロッセオでした。すり鉢状のコロッセオで召喚された二体のゴーレムが戦い、それを金色の鎧を着た人間たちが上から観覧しています。
シェオゴラスはペラギウスの母親の話を続けています。
「あの女は恐怖を包丁のように振り回したのだ。あるいは包丁を振り回して人々をおびえさせたのか?その部分がいつもはっきりしない…あぁ、だが彼女は息子をしっかり教育したのだ。ペラギウスは幼い時に周りが危険だらけだと知った。いつ何時、誰が襲ってくるかわからないと…」
ゴーレムにワバジャックを当ててみますが、炎の精霊に姿を変えるだけで何も起こりません。
「クツを揃えて祈るぐらい単純だぞ、このゾウリムシ!ワバジャックを使って敵を倒せ。敵もワバジャックを使うぞ!」
とにかく、当てられるものには当てていきましょう。向こう側で玉座の横に立つ男にワバジャックを振りますが、何も起こりません。次に両脇で座る部下らしき騎士に当てると、一人がオオカミに姿を変え、玉座の男に襲い掛かりました。
男たちが赤い炎と共に姿を消し、シェオゴラスが感嘆の叫び声をあげました。
「ほお!お前には分からないと思っていたぞ!」
「脅威が去って、ペラギウスは自分が安全だと思い込んでいる。つまり奴を救ったのだ…ある意味。我々はそれだけ家路に近づいたという事だな」
シェオゴラスの元に戻ると、やっと魚フライを食べ終えて空になった皿の前で、私の顔を見るなり「こんなことわざを知ってるぞ」と話し始めました。
「人の好みは知りようもなし。そんな感じのやつだ。」
「終わりましたよ。ペラギウスの心を、えー…直しました」
「ふむ…”直した”とはかなり主観的な言葉だな。”治療した”の方がずっとよくないか?発疹とか顔に矢が刺さった時と同じじゃないか。まぁいい。心ない定命の者にしてはうまくやったし死にもしなかった。約束は守らないとな。そういうわけでおめでとう!お前は自由だ!」
「私は…心変わりが多いことで有名だ。だから…早く行った方がいいぞ。嘘じゃないぞ」
しかし出口はどこなのでしょう?シェオゴラスは話続けます。
「ペラギウス・セプティム3世は、かつてのタムリエルの狂乱皇帝と呼ばれていた。だが今は退屈なぐらいまともだ。本当はまともな奴だとずっと思ってたがな!シヴァリング・アイルズに戻ってきたな。いない間にハスキルが抱える問題には本当にびっくりする…」
後半はもはやなんの話をしているのかまったくわかりません。ほとんど独り言なのでしょう。
「忘れ物がないのか確認しよう。一張羅は?よし!顎鬚は?よし!…荷物は?」
シェオゴラスは慌ただしく辺りを見回しました。
「荷物は!?荷物はどこに置いた?」
と、その時、青い光を感じてそちらを見ると、テーブルの向こうにデルヴェニンさんが立っていました。
「マスター!俺を連れ戻しに!つまり、家に戻れるってことですね?よかった!」
シェオゴラスはデルヴェニンさんの言葉を遮ります。
「さて、祝福はもう十分だな。では次の仕事の話をする。よいな?」
次の瞬間には彼の使いも青い光と共に消えうせました。
「小さき者よ、お前に関しては…ワバジャックはお前に授けよう。私からの…まぁとにかく、そいつを好きに使うがいい。元気でな。ニュー・シェオスに寄る事があったら、私を訪ねてくれ。イチゴのトルテをごちそうするぞ。一期一会のトゥルットゥー!!」
荒れ地に謎のジョークがこだました刹那、目の前が暗転しました。
「ねぇ、大丈夫?…あなた、そんな服着てた?」
アエラさんが怪訝な顔でこちらを見ています。どうやら元の場所に戻ってこれたようですね。荷物は戻っていますが、服はあの世界で着用していたものをそのまま身に着けていました。
荷物の中を見てみると、ワバジャックも入っていました。シェオゴラスは約束通り杖を持たせてくれたようです。
ファルクさんにお届け物をするついでに…
ブルー・パレスにある書籍を漁って、ペラギウスについて調べてみました。
ペラギウス三世はあのポテマの死後ソリチュードの王位に就き、第三紀145年にセプティム王として即位し、その直後から奇行を繰り返した結果、政治が立ち行かなくなり精神病院に入れられ、第三紀153年に34歳でこの世を去りました。その異常な立ち振る舞いは現在でも『狂王』と呼ばれ、人々の記憶に残っていますが、彼の苦悩や悪夢、真実について知るのはいまやシェオゴラスだけなのかもしれません。
『ワバジャック』という書籍も見つけました。
あくまで私の推測ですが、ペラギウス3世は幼少期、デイドラ王ハルメアス・モラを召喚したつもりでシェオゴラスを召喚してしまい、ワバジャックを受け取っていたのではないでしょうか。その時点ですでに狂気を植え付けられていた彼はいつしか――
そんなことを想像しながら、本を閉じました。
さて、ソリチュードの祭の夜は狂王の夢と共に終わってしまいましたが、現実はまだ続きます。明日からは吟遊詩人の大学生として授業に勤しむとしましょう。
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