NASA Strategic Design Studio⑤:フローリッシュ、花開く宇宙。 〜問題定義編(続)〜
そしてまたもや水曜日がやってきました。Markからの激しめのクリティークに辟易する生徒もいます。なぜか、「私もその点は指摘したんですけどね」と教授に歩み寄り、他の生徒を全力で敵に回す輩もいます。何やこいつ。
各グループ懸命のプレゼン。さしたる準備はできていなかったのですが、なぜか議論は我々のグループの方が盛り上がりました。
Mark:IndividualとCommunityはイコールなんか?
みかど:いや、Equally importantって意味です。
Mark:どういう意味?
みかど:なんか、コミュニティのために個人を犠牲にするでもなく、個人主義に傾倒しすぎてコミュニティを失うでもなく。バランスさせる必要があるんじゃないかな〜と。
Mark:Balance! Good word!
そんな経緯で、Balanceというキーコンセプトが誕生しました。
翌週までの宿題は、Healthの定義とNL(ISS National Lab)が現在取り組んでいる内容についての調査です。
↑こんな感じで、クラスメイトがポイントを書き留めてくれています。概念的な話が多いので、こういうサポートがないと正直だいぶ厳しかったです。Reciprocal。Reciprocal。
みかどはHealthの定義チームへ。自ら沼にハマりにいってしまいました。
Healthを再解釈する。
君たちの言うHealthとはどういう意味かね? - Mark
ここから長い長い哲学問答が始まりました。
ここで求められているのは、無論、”good physical or mental condition”のような辞書的で狭隘なものではありません。この時点では概念として切り出されていない、名前もなきサムシングです。そのunnamedなsomethingを概念としてシェイプするという、日本語でもトライしたことのない作業です。
幸い”Health”定義チームには、ジャーナリストのMichaelやスーパーファシリテーターClaraもいます。何とかなりそうな予感です。
このタスクはさすがにネイティブの独壇場でした。基本的に私以外は皆ペラペラなのですが、それでも既存概念を組み合わせて新たな概念に昇華していく作業は母語話者のみぞ為せる業。クラスには先述のMichael・Claraを含め15人中3人だけネイティブがいました。その3人を中心に、何とかそれらしき概念へ辿り着こうと、知恵を絞ってもがきました。振り返ると、ここが最もチームとして何かを生み出せたと感じられた瞬間だったかもしれません。
まずは各々、healthから連想される単語や文章を付箋に吐き出します。
wellbeingやstabilityなどイメージの付きやすいものから、harmony, circular continuity, resilienceのような既存のhealthの意味からは少し飛んだキーワードも出てきました。ここから、ジャーナリストMichaelを中心に、わたしたちの”Health”を構築していきます。
マチュアーなネイティブ3人がドラフトしてくれたものを、皆で鍛えていきます。
修正したものをゆっくりとMichaelが読み上げ、さらに練り上げます。
冗長な部分は削ぎ落とし、クリスタライズ。
ひとまずはこの時点で皆のコンセンサスが取れた定義に落とし込みました。
Health is…
the intention toward a resilient, regenerative balance between interdependent elements, that generates flourishing lives.
訳:
「Health」とは相互に依存し合う要素間のレジリエントでリジェネラティブなバランスを志向することであり、それによってflourishingな生命(いのち)を生み出すものである。
これ、日本語にするの難しいですね。
ちなみに、そのままDeepLに入れると下記の日本語訳が出力されました。
レジリエントとリジェネラティブは日本でも使われ出しているので、無理に日本語をあてるよりそのまま英語の方がニュアンスが伝わるかと思います。厄介なのは、flourishing livesです。英辞郎でflourishingを調べてみると、このような回答です。
うーむ。何とも部分的です。
動詞のflourishと似た意味の単語に、thriveやprosperがあります。どことなくニュアンスの違いはわかるのですが、Chat GPT(GPT-4)に聞いてみました。
結構調子いい気がします。
日本語でいうと「花開く」がいちばん近いニュアンスです。flourishも草木生い茂る感じが語源なので。livesも、生物としての命というより、コミュニティや社会、宇宙なども含めた全体を包含する有機的な存在というイメージです。”いのち”と表現したほうが適切かもしれません。漢字とひらがなでニュアンスが変わる日本語、美しいですね。
こういったことをひとつずつ具に検討していく翻訳家という仕事、本当にすごい。リスペクトです。
これら一連のワークにおいて、ジャーナリストMichaelの真骨頂を垣間見ました。ジャーナリストというより、アーティストと表現する方が正しいのでは?というレベルで細やかな言葉のニュアンスを知覚し、組み換え、表出させます。
個人的に、Parsonsで最も感動したシーンの1つでした。こういった普段出会わないタイプの知性と邂逅できるのはデザインスクールの素敵なところだと思います。もっと言うと、Strategic Designという学際的な領域だからこそ得られる体験なのかもしれません。
このワークを通して、生まれたキーコンセプト ”flourishing lives”。
コミュニティや社会など生物の生命以外も含めた概念にするため、のちに ”flourishing existence”へと変更されましたが、これが我々が表現したかったhealthyなecosystemの正体でした。宇宙を有機的な生命体として捉えている感じが仏教チックです。生まれながらに仏教徒の私にとってはものすごく馴染みのある考えなのですが、これが資本主義の極点、ニューヨークはマンハッタンで議論されているという点には何とも言えない感慨深さがあります。社会学に根ざしたThe New Schoolが母体であることを確知したシーンでした。Social ResearchとDesignの融合とはよく言ったものだ。
ドラフトとはいえ、一旦どこかへ辿り着いた感がありました。
これ、一応デザインスクールの授業なんです。こんなことをするとは微塵も思っていませんでしたが…
結果的にはストラテジックデザインとは何か?を考える上で大きなヒントになっています。
さて、やっとの思いでここまでやって来ましたが、皆もれなく同じことを感じています。
「で、どういうことだっけ?」
現時点で、flourishing lives, resilient, regenerative, balance, interdependent elements などの謎めいた概念とそれらの関係性がよくわかっていません(結局最後までよくわからないのですが)。
この後も2週間ほど「よくわからないものについて思考する」ことを課され続けました。
15人全員の智慧を総動員して思考し続けます。
振り返りながら自分でも既にお腹いっぱいなのですが、もう少し粘ってみます。
次回へ続く