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今夜も世界の片隅でそれを

こんばんは。今日もお疲れさまでした。

部屋に入った時、それにすぐに気づきました。ベッド脇の三脚に。そして私はすぐに指摘しました。

「それ何?」

彼とはマッチングアプリで知り合いました。10歳下の男性でした。とにかく明るく、とにかくふざけているのに、たまにとても寄り添ってくれる心の近い人でした。

彼はよくふざけて、彼が関係を持った女性や、男性の友人の卑猥な写真や動画を送ってきました。今まで、そんなことをする人はいなかったので、酷く驚きました。

「大丈夫。みんな許可を取ってあるから」

そういう問題ではありませんが、明らかにカメラを向けられていると分かる画角だったので、おかしな人がいるものだなと思ったくらいでした。

ベッドの脇にあるその三脚を、私は彼にしまうように伝えました。彼は「何でもないのに」「本当に撮るためじゃないよ」とぐずぐず言っていましたが、大人しく鞄にそれを仕舞い込みました。

私はわかっていました。そんなことに意味などない事に。正解はここで帰る事だと。それでも、ベッドに足をかけました。彼に寄り添って欲しかったのかもしれません。

彼は、私の目と耳と手を黒い工事現場で使う不思議な粘着力のテープで奪いました。彼が何でこんな事をしているかは分かっていました。彼はそのまま私の体に皮膚を重ねました。

全てが終わって、優しい声で彼はテープを剥がして、私の体に傷がないかを確認していました。その時、ベッドの側に三脚はありませんでした。私は彼に何も言いませんでした。だって、今そこにそれはないのですから。

彼への連絡は少しずつ感覚が空いて行き、私は彼からの連絡を全く取らなくなりました。

何をされても怖くありませんでした。きっと、すでにそんな事は無意味なのです。きっと誰かは分からない、黒いテープで至るところを縛られたその何かは、多かれ少なかれ誰かの目に触れていると心のどこかで思っていたからです。

そんな事がないというのが事実なら、彼と皮膚を重ねたことは喜びだけでしょう。でも、私はそれを受けいれる事ができません。三脚を一度見ているのですから。

おうちで過ごす夜に、それを誰かが見ているのかもしれません。帰らずにぐるぐると黒いテープに巻かれ、声も出ない女性のそれを。そんな事は、世界の片隅で毎日起こっている事なのです。きっと、今夜も。おやすみなさい。

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