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追わない夜

こんばんは。今日もお疲れさまでした。

スイーツを食べるだけのつもりでその人に会いにいきました。マッチングアプリの会話の中で、色っぽい話を一つもしなかったからです。見た目に興味のない私は写真交換もしませんでした。それは自然にセッティングされたティータイムだったのです。

彼は会ってからも色っぽい話をしませんでした。自分の家族のことや、スポーツのこと、習い事、仕事の話ばかりをしていました。おいしいスイーツに感動して、店員さんを褒め称え、笑いの絶えないティータイムでした。

スイーツを食べ終わった頃、彼は切り出しました。

「なんで会ってくれたの?」

私は自分の恋愛感を話しました。彼は納得したようでした。私は彼の奥さんのことを聞きました。それまで、あんなに緩かった空気が一瞬で変わったのがわかりました。それは聞いてはいけないことだったようです。「甘いものは食べないよ」彼の奥さんのことでわかったのはそれだけです。

テーブルに手をつけるものがなくなったので、私たちは街に出ました。傘をさすほどでない雨が降っていました。コーヒーを飲みに行く予定だったのに、そのお店はなくなっていたので、近くのホテルで雨宿りをすることにしたのです。

雨で濡れた体に、ホテルのクーラーが降り注いでとても寒く感じました。シャワーを浴びて暖まった体で、窓を開けてぼんやり外を眺めました。中途半端でまばらな街に、ポツリポツリと傘の花が開いて行くのが見えました。

私たちは体を暖め合いました。彼は私の名前を「ちゃん」づけする人でした。

雨が止んだので、外にでた私たちはなぜかうまく話すことができませんでした。会った時に止めどなく話せていたのが嘘のようです。意地悪を言ってみても、うまい返しは返って来ません。彼が後悔しているのかはわかりませんでした。

連絡先を交換したものの、彼からは連絡が来ません。私は、彼に連絡をしません。マッチングアプリで出会った人たちは、絶対に追わないと決めています。

それでも、雨の匂いを嗅ぐと、ふとスマホを覗き込みたくなります。彼が私の名前を呼んでいる気がしてしまいます。あのタバコの匂いがする唇から。夜の雨は冷たいです。早く暖めなければいけないのです。おやすみなさい。

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