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尊厳死について考える

今日は、「死」をテーマにした絵本を一冊紹介します。

おおきなかわのむこうへ
というタイトルの絵本。
作者 アルミン・ボイシャー
絵  コルネリア・ハース
訳  いとうみゆき


以下、カバーに書かれているあらすじを引用します。

重い病気にかかったうさぎはあらいいぐまに、わかれをつげ
死のせかいへ、たびだつ けっしんをします。
あらいぐまは、 かなしくてさびしくて しかたがありません。
なんとかうさぎを ひきとめようとしますが…

引用終わり。

表紙のイラストとあらすじだけでもう察せるものがあります。

物語の中で、うさぎは、川の向こうに渡る決心をして、そのことを友人のあらいぐまに告白します。
自分は旅に出るために川を渡ること。
1人で行かなくちゃいけないこと。
2度とあらいぐまや他の友人に会うことができないこと。

うさぎの旅路が、死へ向かうものであることは、序盤こそ仄めかすように、比喩的に表現されていました。
しかし中盤でうさぎが川を渡るのを見送った後、明確に「死んじゃった」ということを動物たちの言葉から表しているのが衝撃でした。
動物という姿でカモフラージュして、川を渡るという言い回しまで使っておいて「死ぬ」とか言っちゃうんだ、っていう驚き。笑

うさぎが死を受け入れるまで

acceptance of death (死の受容)という言葉があります。
死を宣告された人が、それを受け入れることを示します。
キューブラー=ロスというアメリカの精神科医師によると、死の受容には5段階あるそうで。
それぞれ否認、怒り、取引、抑うつ、受容。

否認:事実を受け入れられない状態。死という現実を直視できず、ショックを受け、自分のことでないように思えたり、信じられない状態。

怒り:何で自分がこんな目に、という怒り。

取引:神様や仏様、何かに縋ろうとする。〜〜するから、生かして、とと取引を持ちかける。余談だが、この状況だと詐欺に引っ掛かりやすい。霊感商法、詐欺まがいの民間療法など。

抑うつ:命を落とすことに対する喪失感、やるせない気持ち、絶望感

受容:死が誰にでも訪れるものであると受け入れ、心静かに受け入れられる状態

簡単な説明ですが、これは必ずしも一方通行ではないようです。
何度も各段階を行き来し、進み戻りつ、死の瞬間までプロセスを踏み続けます。
イメージをしてみましたが、この段階は何も死だけに限ったものではなさそうだな、という個人的見解です。

さて、この絵本に登場するうさぎですが、おそらくストーリーの序盤から受容の段階にいたのではないかと想像します。
友達に死ぬことを伝え、自分から死を選ぶという姿そのものが、受容の段階であるように思えますから。
取り乱したり、やっぱり川を渡るのをやめる、というプロセスを踏んでいたら、リアリティがありますね。

そして、もう一つ。
このうさぎ、自分から入水しております。
死を受け入れるというよりもむしろ
死に向かって積極的に進んでいる、と捉えられなくもないな、と。

と、すれば、このうさぎさん。
もしかして、尊厳死なのではないかな、と感じました。

この絵本はドイツの作家によるものだそうですが、初版は2005年だそう。
今から20年以上前に発行された本ですが、当時のドイツでの死生観とはどのようなものだったのだろう。


賛否両論になりそうな内容だな、というのが感想ですね。

私は、尊厳死に対しては正直あんまり賛成派ではないからかもしれません。

擬人化は物語の世界では当たり前なのですが、この絵本に限ってはちょっと、なんというか…違う気がしました。
動物にする必要、あるか?というところで。
何故なら、自ら死を選ぶっていう行為は人間しかしないから。
私が知らないだけで、実際にはいるかもしれませんが、人間の比ではないでしょう。
センシティブなところであるが故に、そこをぼかして動物に置き換えるのは、彼らにも失礼なのでは…なんて思ったりもしました。


とはいえ、考えさせられる内容でしたので、死についてを学ぶ良い機会になると思いました。
愛するペットが亡くなってしまったり、身近で死を経験した子どもたちに読み聞かせ、安心させてあげられる本だと思います。





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