ラブはレンズ越しに

放課後の屋上の出来事だ。僕は写真部の活動で屋上から野球部の練習風景をさくさくと撮影していた。一通り撮り終わったところで撮影した写真を確認していると、屋上のドアが爆発音かと思うほど勢いよく開く音がした。

「あっー!やっぱここにいたか!」

やれ用もないのにやってきてお菓子がない、辛気臭い、早く終わらないかと急かしてくるこの同級生の女は、名を早乙女と言うが名前と(そして、見た目が)全くかけ離れてる人間だ。

「屋上は許可無しに立ち入らない!そして眼鏡をかけている黒髪ストレート女子であればもっと淑やかにしろ」

「お前こそデカい図体して茶髪の癖になんで地味ぃ〜な写真部なわけ?バスケしよぅよーもったいなーい!」

「図体も髪もは生まれつきだ。人を見た目で判断しないで欲しい。あと屋上は許可が必須だと言ったのになんでそこへ座るんだ。帰宅部の下校時刻は過ぎてるぞ、ちょ、触らないで、ちょちょ」

早乙女はすぐ僕の横に座るや否や横からカメラのボタンを操作して僕の作品を見る。辞めろと制止しようがお構い無しに写真を見ては「ふーん」や「ほーん」と言い、好きとも嫌いとも言わない。デカい図体を利用してやっとカメラを早乙女の届かない高さまで持ち上げるが、まだ諦められないようだ。

「そんなに見たいのであれば君の見た良い風景を撮り、僕に見せてみろ。それが僕より凄かったら見せてやる」

「やってやろうじゃないっ」

いかにも不服を現した膨れっ面をした早乙女に、僕は心の中でほくそ笑んだ。無理に決まってる。写真部でコンペに出して賞をとっているのは今や僕くらいだ。そんな僕を驚かす写真など、そうそう撮れるものか!

僕は改めて座って写真の確認をした。消すもの加工するもの、ピントがズレてるもの、よく撮れたもの、惜しいもの、さくさくとカメラと向き合っているとスマートフォンがぶるぶると振動を起こす。あまりにも多く震え続けるので気になり、アプリを起動すると早乙女からのメッセージ代わりの写真が大量に届いている。

「なんだこれは」

「写真よ!私から見た最高の景色よ!」

「全部ピンボケしてるじゃないか?これなんて僕が?歪んでいるぞ?いくらスマホのカメラ機能でもこんなにおかしい事はお前くらいしか出来ないだろう」

ドヤァァァァアと腕を組み、わざわざ眼鏡を外した早乙女がふんがふんがと鼻を鳴らしている。彼女は、顔はとても美人で良いのだが、こういう部分が残念でならない。誰がどう見てもおかしなピントの写真は何をどうしたらとったのか。呆れながら聞くと早乙女は信じられないような顔をして答えた。この被写体は僕であり、早乙女から見た僕らしい。そんなに歪んで見えてるのだろうか僕は、と殆ど落ち込んで連続に並ぶ写真を眺めていると、写真の端に太い線のような物がある。注意して見ると、他のいくつかの写真にもこの黒い線が入っている。

「早乙女、まさかとは思うが君は眼鏡越しに撮ってないか?」

「正解!やっとわかったか!」

ふわふわと可愛い笑顔で小悪魔のようにケラケラと笑う早乙女たが、正反対に僕は呆れて本当にため息しかつけなかった。写真を撮るだけで何故こうも訳の分からない事をするのか、そもそも眼鏡は本人に合わせて視力を調節する代物だ。それをわざわざ眼鏡越しに見た一番良い風景がこんなぼやけた僕の姿なんてなんと表現すれば………。


いや、これは、そうじゃない。まさか?


「はぁ、この早乙女様が撮ってやったのに、ノーコメントとは木偶の坊の写真オタクには及びませんでしたかそうでしたか」

「いや、その、ちょっ」

引き止める間もなく早乙女は手を振り屋上を去っていく。イマイチ早乙女の真意が信じられなかったが、それがどう言う意味なのか例え鈍い僕でもわかる事だ。けれど早乙女は可愛い系統に入る女子であり、振られた男子も数多くいる。その早乙女が?まさか?いやそんな?と、自問自答をしている最中、問いかけるタイミングを失った僕だったが、写真部である僕がその美しいシャッターチャンスを逃すことはなかった。混乱した頭でも的確にカメラを構えてシャッター音を鳴らした。

夕日を浴びた黒髪と制服の後ろ姿の写真が、次のコンペで賞をとったら、僕からこの気持ちを伝えに行こうか。

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