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【短編C完結編】出入り口が大嫌い 後編

【企画】誰でもない誰かの話

#数理落語家  自然対数乃亭吟遊さんの作品の続編

第一話 出入り口が大嫌い 前編 38ねこ猫
第二話 出入り口が大嫌い 中編
数理落語家 自然対数乃亭吟遊さん
出入り口が大嫌い 後編


鼻がムズムズする。
線だらけの向こうに
フサフサの尻尾フリフリがいる。

「黒丸、うるさくしないで」

俺の音、思ったよりおっきかったの?
だって、あれ、犬っての、俺怖いんだ。
頭にガンガンするほどおっきい音出すんだよ。
よだれもバーって垂れて
はっはっはって、ベロ出すのも怖いんだから。

「黒丸くん、どうぞ」
先生ってやつがいるところだ。
嫌なことばっかりされる。

君はなんで俺をここに連れてきたんだ?
キラキラ無くしたから?
無くなってないんだよ。
高いとこの下に入っちゃっただけ。

先生が、俺の口いじってきて
引っ掻きたいけど
君が前足を押さえてる。

先生と一緒になって嫌な目に遭わせてるの?
君にキラキラあるとこちゃんと教えるよ。
だから、許してよ。

お腹もゴリゴリいじられる。
嫌だよ、嫌だよ。
「食べ過ぎたんでしょう。
それと毛玉が絡まって吐いたんですね。
吐き気止めしておきますね。」

頭の下を
お母さんにアムってされてる気分。
なんかチクってされて硬いのくっついたみたい。

「猫ちゃんは、ストレス感じやすくて…。」
先生の音は、嫌なことした後、
ちょっと静かになる。
だから、腹の底から嫌いな音じゃないんだ。

君はずっと俺の前足強く握ってるね。
どこにも行かないよ。
だからそんなに強く掴まないで。

その耳のキラキラ、
俺が掴みたいカタチじゃなくて嫌い。
噛み付いて取ってあげたい。
そのキラキラして帰ってくると
時々しゅんとしてるんだよ。
あの…なんだっけユージの匂いして嫌だし。
君の顔、泣いてるみたい。
なんでユージに会うの?

「黒丸…寂しかったの?」
寂しいのは君だろ?
ユージに会うたび寂しい気分になるんだろ?

片方だけ手を外された。
だからキラキラに手を伸ばした。
「ん?」
外しなよ、キラキラ。


君と会ったのは、棒がいっぱいある
四角い場所で、部屋の中がよく見えて
ヒトが時々来て、別の四角から、
俺とおんなじカタチのネコたちが
ヒトと一緒にどこか行っちゃうとこだった。

俺は、君を初めて見た時に
顔が好きになって、耳についてるキラキラを
掴みたくなった。
それに君と一緒にどっか行きたくて
君が俺に手を伸ばしてくれた時
出来るだけ、
お気に入りになってもらえる音を出したんだ。

君は俺をお気に入りにして、
抱っこしてくれたし、
出入り口から君の場所に迎えてくれた。

全部綺麗で、
全部ステキな場所だ。

トイレもいつも綺麗で
ご飯もいつも美味しい。

君はあったかくていい匂い。
好き
って、君にお似合いの、君を表すいい言葉。
俺の「好き」は君。


でも、君がしているこのキラキラは
君には、全然違うよ。
だから外してよ。
ユージは、君に全然違うよ。
だから、もう会わないでよ。

君と二人の場所に
出入り口から帰ってきた。

「おかえり」

知ってるし嫌いな音。
また、体がゾワゾワしてきた。

「どうしているの?ユージ。」
「駄目なの?元カノの家来たら。
次の人できるまで俺たちセフレだろ?」
君が俺を狭い場所から出さないで、
由佳に置いた。
「てか、鍵開いてたから上がった。
空き巣でも入ったらどうすんの?
警備員みたいじゃない?俺。」
「何もないよ、取られて困るもの。
一番大事なものは、今一緒に出掛けてたし。」
「猫?」
「うん。」
「元彼の俺と、どっちが大事?
てか、そのケージの中でずっとギャーギャー
うるさくない?その猫、可愛くないよね?」
「黒丸は大事な家族なんだけど」

早く帰って欲しい。
君もそう思ってるんだ。
「俺セフレやめて、
また付き合ってやっても良いけど。」
また吐きたくなってきた。
君の顔を見て君を励ましたいし、
アイツを追い払いたい。
アイツが何を言いたいかは、
俺にはわからないけど、
もうアイツはここに来ないで欲しい。

「付き合わない。ユージとは。」
「他に誰かいんの?」
「…黒丸が可愛くないなんて言う人、
もう会いたくない。帰って。
もう好きじゃないし。
ワンチャンもないから。」

君がアイツを出入り口から追い出すのが見えた。
俺は、狭い場所から出されて、
君がシュっシュっていい匂いを
いっぱい振り撒いた。

耳のキラキラを外して、
ゴミ箱に、パンって力強く捨てたんだ。

やった!外したんだ。
やった!
嬉しくて走り出したいよ。

君が大きい、ため息をした。
俺も真似して大きいため息をした。
「黒丸、深呼吸してるの?」
君の真似だよ。
これ、ため息じゃないの?
しんこきゅう?
何それ?

君がお風呂に入ってる間、
高いとこの下に入ったキラキラを
もう一度、確認した。
君が歯を磨いてる間、
取り出す方法考えたけど
いい方法は思いつかなかった。


「寝よっか、黒丸。疲れたね」
抱っこされると
あったかくて、いい匂い。

好き
君にお似合いの言葉。

ふわふわの中であったかい。
君の腕まくら
好き。

「黒丸、ずっと一緒だよ。」

#数理落語家  自然対数乃亭吟遊さん
#広がれ世界 #誰でもない誰かの話
#ありがとうございました

数理落語家 自然対数乃亭吟遊さんの
中編、黒丸が死んじゃうかと思いました。
老猫なのか、若猫なのか
設定が難しいんですが、
まあ5歳くらい…なんですね。黒丸。
子猫ではない。
結果、保護猫なんですけど。
冒頭、犬をディスってごめんなさい。
犬も嫌いではないです。
触れないですけど。
見る分にはかわいいです。

数理落語家 自然対数乃亭吟遊さん、
ご参加ありがとうございました。

#写真は女の子の猫です
#猫

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