生成AIをゲームに組み込むには?3Dモデル生成AI体験ゲーム『みんなのMOZOO』のゲームデザイン実例
こんにちは。みやもと (X:@miyamotoclub) です。
今回は現在所属している、スタートアップ企業Polyscapeにて開発に携わった『みんなのMOZOO』についてのお話です。
『みんなのMOZOO』では企画、ゲームデザインといったプランナー業務の他に、MOZOOのキャラクターデザイン、メインビジュアルの作成など、一部アート作業も担当しました。
『みんなのMOZOO』のダウンロードはこちらからどうぞ。無料です。
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この記事では開発実例を踏まえ、生成AIをゲームに組み込む際、何を意識すればいいか?を中心にお話できればと思います。「生成AIを活かしたゲームを作れないかなぁ」と考えている方、あるいは会社から無茶振りされている方へ、少しでも参考になりましたら幸いです。
念のため補足ですが、今回語るのは「プレイヤーが生成AIを体験できるゲームの作り方・考え方」であり「開発サポートとしての生成AIの使い方」というわけではありません。微妙にわかり辛くて申し訳ありませんが、ご留意ください。
技術的な内容に関しては↓の記事をご参考ください。
3Dモデル生成AIを使ったクラフトパズルゲーム『みんなのMOZOO』ができるまで
https://note.com/polyscape/n/n158e9d0b40cb
『みんなのMOZOO』の遊びと、企画の経緯
『みんなのMOZOO』は、MOZOO(モゾー)と呼ばれる「言葉を与えることで形を変化する、ふしぎな生物」と遊ぶゲームです。AIによる3Dモデル生成をこのような設定で表現しています。
本企画では「遊び」の部分を積み上げパズルとしました。 様々な形状が生成される3Dモデル生成と相性が良いと考えたからです。
当初は積み上げパズルの遊びについてオンライン対戦を想定していましたが、開発の都合でソロプレイに特化することとなり、代わりに「自分の手持ちを生成する」から「手持ちは自分が生成したもの以外にも、他プレイヤーが生成したものもランダムで選出される」という仕様に変更しました。
これによりイレギュラーなピース(MOZOO)に対応するアドリブ力が求められるというゲーム性に加え、他のプレイヤーが生成したMOZOOを見て楽しめるという付加価値を生み出すことを狙っています。
生成AIとゲームデザイン
私が『みんなのMOZOO』…ひいてはPolyscapeにおける「生成AIを体験できるゲームの開発」において、企画当初から目標としていたものが2点存在します。
①生成AIの「不完全さ」を「面白さ」に変える
②誰でも簡単に生成AI技術を体験できるものをつくる
では、ひとつずつ解説していきます。
①生成AIの「不完全さ」を「面白さ」に変える
いやぁ、生成AIって凄いですよね。 その進歩の目まぐるしさはまさに日進月歩。生成されるものの精度も上がってきています。
ですが、生成AIに触れてみると一度は「そういうことじゃないんだよな…」という結果が返ってきた経験はないでしょうか?
私も特に画像生成を利用した時に、思っていたのと全く違うものが生成されたり、細かいニュアンスがAIに伝わらず、もどかしい思いをしたことがあります。
生成AIも完璧ではありません。今回『みんなのMOZOO』で活用している3Dモデル生成については会話や画像生成に比べ発展途上であり、なおさらです。
ですが、完璧である必要もないのです。
私はこの「完璧でない生成AIが生み出す不完全なモノ」も、面白い体験に繋がると考えています。
ゲームにおける「思っていたのと違う」って、思わずシェアしたくなる魅力がありますよね。
例えば去年発売された、自由なクラフトを楽しめる某伝説級アクションRPGにおいて「クラフトしたものを起動してみると、思っていたのと違う動作をしてしまうというおもしろ動画」をSNSで見かけたことはないでしょうか?
他人に見てほしい、見て楽しいものは決して完璧なプレイ、カッコいいプレイだけではないのです。
生成AIについても同様だと思います。思っていたものと違うけど、思わず他人に見てほしいものが生まれてしまった。そういうものは決して体験としてはマイナスではないと考えます。
ただ、精度が全体的に悪いとゲームとしての質の低下に繋がります。 良い生成に混じって変な生成があるからこそ、失敗も笑えるようになるのです。
開発中は生成の精度が正直怪しかったのですが、ここはPolyscapeが誇る優秀なエンジニアたちによって改善されました。とはいえ完璧ではありませんが、完璧を目指しているわけではないのでそれで良いのです。
皆さんも『みんなのMOZOO』で変わったMOZOOを生成した場合は、ぜひシェアしてみてくださいね。
②誰でも簡単に生成AI技術を体験できるものをつくる
「生成AIが気になって使い方を調べたけど、なんか海外のサイトに登録するのが怖い」
「説明が英語ばっかりでわからない」
「プロンプトの使い方がよくわからない」
生成AIの各サービスについて、上記のような考えから苦手意識を持っている方も少なくないのではないでしょうか。自分もその一人です。
どんなに凄い技術でも、使い方がわからない・使おうと思わなければ、その技術を享受することはできない…。当然の話ではありますが、もったいない話でもあります。「生成AIを体験できるゲームの開発」をやるからには、このような障壁を可能な限り取り除き、誰でも簡単に触れられるものにしたいと考えていました。
『みんなのMOZOO』での生成方法は限りなくシンプル。生成したいワードを入力するだけです。 プロンプトも必要ありません。というより、プロンプトを実質的に排除することで敷居を下げています。拡張性や自由度を犠牲にしているとも言えますが、それはツールの複雑さに繋がるため、本企画では不要としています。
そもそも生成AIで何かしようと考えている方は、大抵問題なく生成AIを扱えている方が大半だと思いますので、ここらへんの視点は抜けている方が多いのではないかなと予想しています。やれることを増やすのも良いですが、誰でも触れられるように簡易化することで、増すことも大いにあるかと思います。
UGCと生成AIについて
皆さんはUGCという言葉をご存じでしょうか? 存じていなくても大丈夫です。私も知ったのは最近ですから。
UGCはUser Generated Content(ユーザー生成コンテンツ)の略です。 最近流行りのメタバース系サービスにおいて、ユーザーが自らマップやミニゲームを制作し、それを他プレイヤーが遊ぶ、というコンテンツが話題になることがありますよね。それがUGCです。 具体的には『Fortnite』や『Roblox』が有名ですね。今後はこのUGCの要素があるゲームやコンテンツが増えるのではないかと言われています。
ただこのUGCは「作るのが難しく、作るのは一部の人に限られている」という課題も存在します。 ステージエディタが内包されているゲームはまだ敷居が低いですが、別途ゲームエンジンが必要だったり、3Dモデルなどを用意する必要があるとなってくると、遊ぶことはともかく、作ることについてはなかなか「誰でも楽しめる」とは言えなくなってきます。
このUGCを、生成AIがサポートする流れが今後増えてくるだろうとPolyscapeは考えています。
『みんなのMOZOO』における生成も「生成AIによるUGCのサポート」を体現していると言えます。
ゲームで使用するピース(MOZOO)をユーザーが生成する→UGC
ピース(MOZOO)はワードを入れるだけで生成できる→生成AI
このようにUGCを生成AIがサポートしている、という形になっています。
更に「誰でも簡単に生成AI技術を体験できるものをつくる」を意識しているため、気軽に生成AIに触れていただくことで、結果UGCも中身が充実されていく、という好循環を生むことを狙っています。
「何かUGCって流行ってるからウチもやりてぇ~」と考えている方は、どうすればユーザーがUGCに触れてくれるか?という部分を掘り下げ、その一環として生成AIを活用するのもアリかも、というのを知っていただければと思います。
生成AIとNGリストについて
ゲーム中に生成AIを利用できることの弊害として「公序良俗に反するワードで生成されてしまう」という危険性を孕むことが挙げられます。要するに、エッチなワードを入れられると、エッチなものが生成されてしまうのです。
『みんなのMOZOO』も当然例外ではありません。 加えて世界観やキャラデザは可愛い雰囲気でやらせてもらっていますので、ここらへんは極力避けたいと考えています。
そこで用意したのが「NGリスト」です。かしこまって言う程のものではありませんが。 基本的にはネット上に公開されていたリストを参考にさせていただきつつ、相当数を手作業で追加しています。大変でした。
「網を潜られる」ことを避けるためにも、やや過保護的に特定のワードをリストに追加していますが、それでもまだまだ抜け道はあるとは思います。言葉とは海のように広く、深いものなので…。
どうしても良心に委ねることになるので、『みんなのMOZOO』を触れていただく際にはご配慮いただけますと幸いです。
『MOZOO(モゾー)』のキャラクターについて
本企画を形作るにあたり、MOZOOというキャラクターを設定しデザインをしました。 やっていることは「3Dモデルを生成する」ではあるのですが、ゲームでの見せ方もそのままだと味気ないので、何か味付けをしてとっつきやすさを生みたいと考えたからです。
そこで「ワードを入力すると3Dモデルが生成される」を 「言葉を与えることで、ふしぎな生物が形状を変える」という見せ方にするようにしました。
また、ガワにキャラクターを乗せることで、思った通りに変身してくれなかった時にも「しょうがないな」というご愛嬌を生めるのではないか、という下心もあったりします。
メインビジュアルについてもMOZOOを全面に押し出し、可愛くポップな印象を出すよう意識しました。やっていることは生成AIというゴリゴリに最先端で「難しそうなこと」ではありますが、入り口はとにかく柔らかく、触れやすいものにしたいという狙いです。何か知育玩具的な存在になってくれると嬉しいですね。
まとめ
生成AIの「不完全さ」を「面白さ」として捉える
拡張性や自由度を犠牲にしてでも、誰でも簡単に生成AI技術を体験できるものにする
UGCにおける生成部分をAIでサポートすることで、UGCが充実していくという好循環を狙う
ガワにキャラクターを乗せ、生成AIという技術に取っつきやすさと愛嬌を持たせる
最後に
私自身、生成AIについては「何かわからんけど凄いなぁ」程度の認識と知識しかなかったですし、『みんなのMOZOO』の開発を終えた今でも正直あまり変わっていません。
ですが、そんな自分だからこそ「不完全でも面白いよね」や「誰でも簡単に触れるものにしたいよね」という視点を人一倍意識してゲームデザインができたのかもしれないと考えています。
また、ゲーム制作のキャリアにおいても今まで経験のない、貴重な開発経験ができました。 改めて開発メンバーに感謝を申し上げると共に、『みんなのMOZOO』が多くの方に触れていただけることを願っています。
『みんなのMOZOO』のダウンロードはこちらからどうぞ。
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一応ですが、PC版もitch.ioというプラットフォームで公開しています(有料)。【itch.io版】
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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