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息子が急性散在性脳脊髄炎になって倒れた話17

長男が倒れてから6日目。

この日は、私の両親が来てくれることになっていた。

前日とはまた違う祖父母の登場に、次男は最初から大泣きだった。

けれど、なかなか押しの強い私の両親に戸惑いながらも少しずつ心を開き(開かされ?)、私が面会に向かうころには強張った顔だが抱っこを許す仲になっていた。

今日も私の両親と夫、次男からのメッセージを録音し、絵本と共にカバンに詰めた。

「じゃ、申し訳無いけど面会行ってくるね。次男のことよろしくお願いします。」

夫と両親に向けて声を掛ける。

「次男、ママ行ってくるね。パパいるから大丈夫だと思うけど、せっかくだからおじいちゃんおばあちゃんにいっぱい遊んでもらうんだよ。」

次男はきょとんとした後、強張った顔になり、それでもバイバイと手を振って送り出そうとしてくれた。

その手をぎゅっと握り、大好きだよ、と伝える。

大きなゴツゴツとした手に背中をトントンッと叩かれた。

振り向くと、目を真っ赤にした父が泣きそうになりながらも、頑張って笑顔を作っていた。

「じいちゃん、ずっと長男のこと応援してるからな。大丈夫だ。絶対大丈夫だから。みんな応援してるって伝えてな。」

その横では涙を拭いながら母も笑顔で頷いていた。

つられて私まで泣きそうになったが、グッと堪えた。

「もちろん。任せてね。次男泣くと思うけどよろしくね。」

そう言って、笑顔で家を出た。

お酒が大好きな父。

入院したときや数年に一度、よっぽど具合が悪い日以外は欠かさず晩酌をする人だった。

破天荒な人で、母が苦労しているのも見てきたが、子供が大好きで私や姉にはとても優しい父だった。

後から聞いた話だが、そんな父が長男が倒れた日からお酒を辞めて、ずっと病気について調べてくれていたらしい。

本当に長男はみんなに愛されている。

この世に産まれてまだたった3年だけれど、こんなにあなたを大切に思ってくれる人がいるんだね。

そんな幸せな気持ちが込み上げて胸が苦しくなった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

PICUの扉が開き、中へ入る。

長男が寝ているベッドは入り口から少し距離があった。

長い廊下を歩きながら長男のベッドの場所を見ると、電動ベッドを起こして寄りかかり、眠そうにDVDを見ている男の子が居た。

昨日までの長男は、体温調節の為におむつ以外は何も身につけておらず、代わりに人工呼吸器や点滴、沢山の検査のコードがついていた。

でも、そこにいる男の子は衣服を身につけ、帽子も被っている。

人工呼吸用の管も付いていない。

一瞬、(ベッドの場所間違えたかな?)と思うほど、様子が違って見えた。

ベッドの横まで辿り着き、じっとその少年の顔を見る。

視線に気がついたのか、こちらを見返してくれた。

何日も食事が出来ていない為かなり痩せていたし、ずっと眠っていたからか二重になっていたが、紛れもなく長男だった。

「…長男…?」

恐る恐る名前を呼ぶと、こくん、とゆっくり頷く。

その瞬間目から涙が溢れた。

「長男…!長男、あぁ、よかった…。ママだよ、わかる?ずっと会いたかったよ…!」

表情は変わらず眠そうで、無表情だったが、私のことを見て「ママだよ、わかる?」という問いかけにまた縦にこくんと頷いた。

長男はゆっくりとした動作だったが、自らDVDプレーヤーの電源を切り、ベッドに寄りかかりながら私の方を向いた。

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