息子が急性散在性脳脊髄炎になって倒れた話19

そこから医師の表情が少しだけピリッとした。

「本人の意識はしっかりしていますが、脳波のほうは痙攣を疑うような動きが頻繁に出ています。

『痙攣と疑われる脳波が出たら、必ず長男くんにも症状が現れる』というわけではありません。

しかし、もしかしたら痙攣なのかもしれない、と疑われる動きがあるときもありました。

まだガンマグロブリンの投与中ですので、このまま快方に向かえば見られなくなっていく可能性も高いですし、しばらくは様子を見ることになっています。」

ガンマグロブリンは五日間の投与予定で、この日は投与開始から三日目だった。

倒れた当日から三日間ステロイドパルス療法を行い、ステロイドパルス終了の翌日からガンマグロブリンの投与を開始していた。

どちらも『急性散在性脳脊髄炎』の治療法として出てくるが、どのような違いがあるのか等詳しくはわからなかった。

それについて質問をすると、PICUの医師からは『専門の医師から回答したほうが良いだろう』と言われ、主治医の神経内科の医師から説明を受けることになった。

その先生と会うのは倒れた翌日の説明時以来だった。

あのとき言われた言葉や、最悪を想定し、覚悟を決めて私たちに向き合ってくれていたからこその緊迫感を思い出し、少し緊張しつつ医師を待つ。

そこに現れた主治医の先生は、開口一番にこういった。

「お母さん、ちゃんと食べてますか?」

「えっ?あ、えーと、実はあんまり…。でも目が覚めた息子と会話が出来たので、今日から少しずつ食べられそうです。

先生や看護師さん、病院の皆様のおかげです。

まだまだこれからだとは思いますが、本当にありがとうございます。」

そう言って頭を下げる。

すると主治医は

「息子くん、本当に頑張りましたよ。

ほんと、まだまだこれからではありますが、一番最悪なところは乗り越えてくれたと思います。

ただ、目が覚めてほっとして倒れちゃう親御さんも多いんですよ。

せっかく目覚めてくれたのに、ママが具合悪くなっちゃったら悲しんじゃうからね。

いっぱい食べて、体力つけてね。」

優しい笑顔と気遣いに胸がいっぱいになった。

「私のことまでありがとうございます…。

私が倒れたら、息子に会えなくなっちゃいますもんね。ちゃんと食べなきゃですね。」

その後は、ステロイドパルス療法と免疫グロブリン療法の違いについて説明してくれた。

「まず、今回息子くんがかかった『急性散在性脳脊髄炎』、通称ADEMですが、自己免疫疾患と呼ばれる病気です。

簡単に説明すると、脳に炎症が起こったときには、

・『ウイルスなどにより直接攻撃』されて炎症が起こる場合

・ウイルスをやっつけようとした『自分の免疫が間違って脳を攻撃』して起こる場合

この二つのパターンがあります。

ADEMは後者で、自分の免疫が間違って脳を攻撃しています。

この自分の免疫の攻撃と炎症部分を抑える働きをするのがステロイドです。

そして、免疫細胞を強くしたものがガンマグロブリンで、攻撃をしている自分の免疫そのものに対して働きかけてくれます。

どちらも『攻撃をしている自分の免疫』にアプローチしますが、方法が違うので間隔をあけずに行ってもお互いを邪魔することはありません。

今回のケースも、ステロイドパルスの投与後すぐにガンマグロブリンの投与をはじめたことで、今急激に回復しているのだと思います。

もちろん、副作用やリスクもありますから常に選択出来る方法ではありません。

それほど切羽詰まった状況だったとも言えるわけですが、こうして結果が出てきてくれているのは本当に良かった。

ここからまたもうひとふんばり、頑張りましょう。」

医師からの説明と力強い言葉に、みんなの力が合わさって一歩前に進めたのだ、と実感することが出来た瞬間だった。












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