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息子が急性散在性脳脊髄炎になって倒れた話18

「昨日パパが来たことは覚えてる?」

こくん、と縦に頷いた。

「長男くん、保育園で具合が悪くなって倒れちゃったんだ。そこからずーっと眠ってたんだよ。目が覚めたらここに居たからびっくりしたよね。」

「昨日、長男くんとおしゃべりできて、パパ嬉しくていっぱい泣いてんだよ。」

と言うと、長男は私ををじっとみつめて、

「…ママ、も、ないてた、ね」

ガラガラの掠れた声でゆっくり一文字ずつ話してくれた。

どの日の涙のことだろうか。

この子は深く眠りながら、きっと色々なことが聞こえていて、いっぱい頑張ってくれていたのだろう。

もう溢れる涙を堪えることが出来なかった。

本当に長男は目覚めていた。

きちんと会話も理解して、言葉も発してくれた。

涙をハンカチで拭き、長男の手を強く握った。

「ママ泣いてたの知ってたのかぁ。長男、いっぱい、いっぱい頑張っていたよね。今も苦しかったり痛かったりするよね。えらいよ。本当に頑張ってる。

ゆっくり治していこうね。

みんなあなたが元気になって帰ってきてくれるのを待ってるんだよ。

昨日はパパのほうのおじいちゃんとおばあちゃんが来てくれたよ。

長男に会いたがってたけど、ここにはママかパパ、どちらが1人しか来ちゃいけないから連れて来られなかったんだ。

今日はママのほうのおじいちゃんおばあちゃんが来てくれているよ。

どっちのおじいちゃんとおばあちゃんにもメッセージ録音してもらったから、聞いてみようか。」

このあたりから長男の目はとろんとしていて、背もたれに寄りかかっていたが、自分の身体を支えられないようだった。

少しずつずり落ちて来ている長男の様子に、体力も筋力もかなり落ちてしまっているのが見てとれた。

倒れてからこの日も含めて、養分は点滴だけ。

小さな身体に蓄えていたほんの少しの栄養を少しずつ少しずつ使いながらここまで回復したのだろうか。

そんなことを考えながら、長男の身体を元の位置へ戻す。

「疲れているよね。眠かったら寝ようね。」

脳波のコードが付いていない、おでこのあたりを撫でながら声をかけた。

お腹のあたりをトントンしながら、両家の祖父母からのメッセージや、夫と次男の声を耳元で聴かせる。

途中で聞かせる耳を変えてみたが、どちらの耳も問題無く聞こえているようだった。

祖父母からのメッセージを聞きながら、

『頑張れ!!』の声に「がん、ばっ、て…るよ」と答えたり、『元気になったら会おうね。』には頷いたりして一生懸命答えていた。

前日までの挿管の影響と、経口での水分摂取が出来ないことで、喉が痛むようだった。

そこからの会話は出来るだけ言葉を発する必要のない質問を意識した。

長男も頷きや首を横に振ること、指差しなどでしっかりと意思表示をしてくれたので、思いの外スムーズに会話が進んだ。

面会を開始して1時間ほど経った頃、長男が疲れて眠りについた。

そのタイミングを見計らって、PICUの医師が説明をするために訪ねてくれた。

「あ、寝ちゃいましたね。午前中頑張ってリハビリをしたので疲れたのだと思います。」

昨日の夜、人工呼吸器を外せたので今日から既にリハビリが開始されていたとのことだった。

「今日は、背もたれに寄りかからずに座る練習をしました。やはりかなり筋力が落ちていてそのままでは座れず、横に倒れてしまっていました。でも指示はきちんと理解していましたし、とても頑張っていましたよ。」

にこやかに説明をしてくれる医師の様子に、初日の緊迫感を思い出して少しだけホッとした。



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