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[創作1000ピース]26,たった1個のパンで幸せになってやるんだ(エッセイ)

 やることなすことダメダメだった水曜日の昼下り。診察が終わって安堵したら腹の虫が鳴った。そういえば、だるくて昼はスープしか口にできなかった。処方箋の袋をぶら下げ、パン屋さんに入ることにした。

 たった1個のパンで幸せになるんだ。

 空腹よりも心を満たしたい。私に幸福を授けてくれるパンはたった1個でいい。たった1個。特別な。今私が一番食べたいと思った、出会いたいと思った幸せな時間をくれるパン。1個を大切に噛みしめて味わう。
 それはたった1個でいい。

 ……で、正直何故1個かって?

 それはレジ袋を持っていないから。薬局でもらった小さいレジ袋に何個もパンは入らない。
 
 何個か買って帰ると、「仕事じゃなかったの?」と子供に色々聞かれて面倒だから。

 なんて薄情。

 これには理由があって。
 
 仕事を休みにして急遽病院受診したからだ。
 言い訳しても子供には「休みなんてズルい」と言われることだろう。
 まぁ、私も休みにするつもりはなかったのだが、思った以上に症状が悪く、週末まで診察を待てなかった。それだけだ。

 頭の中で「たった1個でなければならない理由」付けをしつつ、欲張りな私を「1個だけ」と説得する。

 最初に目に入ったレモンパイ。次に飛び込んだ小倉クリームサンド。パイの王道アップルパイ。イチゴとキウイのフルーツサンド。焼きそばパンにコロッケパン。ポテトチップスをシャキシャキのゴボウサラダに混ぜ込んだ創作パン。次から次へと目移りしてしまう。

 私には時間がない。迷っている時間さえ惜しい。

 結局こういう時は「はじめ目についたもの」と決めている。

 レモンパイ。
 甘酸っぱいクリームとパリパリと何重にも折り重なったパイ生地で、私は幸せになってやるんだ!

 子供の迎えまであと1時間。
 一足遅れてティータイムと洒落込もうではないか。誰にも邪魔されない自分のための時間。レモンパイとともに贅沢を味わうのだ。

 日が傾くなか、ひとりの至福時間のために家路を急いだ。



実話です。今日の私の午後でした。
体調崩して通院しました。皮膚炎をこじらせて痛みが出てしまいました。強い薬を出してもらったのでひと安心。

*** 創作1000ピース ***

 たくさん書いて書く練習をするためにまずは1000の物語を書く目標を立てました。形式は問わず、質も問わず、とにかく書いて書いて、自信と力をつけるための取り組みです。

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