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西暦2202年における戦争とヒューマニズム -『宇宙戦艦ヤマト2202愛の戦士たち全記録集シナリオ編』から読み解くSF戦争倫理-

山南。死んで取れる責任などないぞ、山南。
生きろ。生きて恥をかけ。どんな屈辱にまみれても、生き抜くんだ。
人間は弱い。間違える。それがどうした。俺達は、機械じゃない。機械は恥を知らない。
恥をかくのも、間違えるのも、全部人間の特権なんだ。
「宇宙戦艦ヤマト2202愛の戦士たち」第21話より

 0.序論:西暦2199年から2202年へ
 時に、2199年、地球は大小マゼラン銀河を軍事によって征服した星間軍事国家「大ガミラス帝星」の攻撃によって滅亡の危機に瀕していた。ガミラスが送り込む遊星爆弾により大地は干上がり、文明は焦土と化した。人類はその生存権を地下へと移し、その滅亡の時を待つしかなかった。そんな地球に遥か彼方16万8千光年彼方のマゼラン銀河にある星「イスカンダル」から救いの手が差し伸ばされる。「コスモリバースシステム」、ガミラスの攻撃でその青い姿を失った地球を元の姿へ蘇らせる力を持ったシステムをイスカンダルへ取りに来るようにとのメッセージが送られた。地球人類はイスカンダルからの技術供与を受け「次元波動エンジン」を搭載した恒星間航行用の宇宙戦艦「ヤマト」を完成させる。地球を飛び立ったヤマトは数々の試練をくぐりぬけ、ついにイスカンダル、そしてガミラス帝星のある大マゼラン銀河へ到着した。乱心したガミラス帝星の総統アベルト・デスラーを打ち取り、イスカンダルの仲裁の下、地球、ガミラス、イスカンダルによる停戦協定が結ばれる。イスカンダルでコスモリバースシステムを受け取った宇宙戦艦ヤマトは、往復33万6千光年の旅を終えて再び地球に青い海と緑の大地を取り戻したのだった。
 そして3年の月日が流れ、地球は見違えるように復興を遂げた。同盟を締結したガミラスの技術も取り入れ、地球の科学力はヤマトが地球を救う以前とは比べ物にならない程に進歩したのだ。地球はガミラスとの同盟を持って、宇宙の平和を守るリーダーとして歩む、そうヤマト帰還後に発足された地球連邦初代大統領は語った。しかしそんな地球に二つの陰りが差し込んでいた。遠い宇宙から迫り来る強大な軍事勢力「白色彗星帝国ガトランティス」、そして地球の行き過ぎた復興政策、そして軍拡を疑問視する旧ヤマト乗組員達の地球連邦の方針に対する反乱行動であった。その渦中に旧ヤマト戦術長古代進はいた。

1.波動砲艦隊構想
 地球を救う力を与えた大マゼラン銀河の惑星「イスカンダル」の女王スターシアはイスカンダルへと到着した宇宙戦艦ヤマトの姿を見て地球人に失望した。それはヤマトが宇宙戦艦としての最大の武器である「次元波動爆縮放射器(通称:波動砲)」を装備していたからである。イスカンダルが地球人に技術供与した次元波動エンジンの機構を地球人が応用し開発した波動砲の存在は、イスカンダルでもかつて実用化されており、その大き過ぎる力から禁忌とされていたのだ。スターシアは、それでもヤマトがイスカンダルまでの旅路において波動砲を兵器としてではなく、飽くまで自衛のために使用してきたこと、乱心したデスラー総統の手から波動砲によってガミラスを救ったことから、拒んでいた「コスモリバースシステム」のヤマトへの譲渡を決意する。波動砲という大量破壊兵器をかつてのイスカンダルのように、侵略や破壊のための愚行に使用しないよう、スターシアはヤマト艦長沖田十三と約束を交わしたのだった。ヤマトの波動砲は封印され、波動砲のシステム区画にコスモリバースシステムを搭載し、ヤマトはイスカンダルを飛び立ったのだった。
 地球はヤマトのもたらしたコスモリバースシステムによって元の姿を取り戻し、ガミラスとの和平も締結された。しかしヤマトが帰還した地球の防衛軍はヤマトが33万6千光年の旅をしている間に、イスカンダルからの技術供与から研究を進め、ある計画を進めていた。それが「波動砲艦隊構想」である。コスモリバースシステムによって蘇った地球のその先に待っていたのは平和への道ではなく専守防衛をうたった過剰なまでの軍拡構想であった。既存の軍艦には全てイスカンダルから送られた図面を元にした次元波動エンジンを搭載させ、さらに波動エンジンの搭載を前提とした新型艦の建造計画が帰還したヤマトクルー達に突きつけられたのだった。そして大航海を終え帰還し、コスモリバースシステムの依り代となったヤマトも例外ではなく、波動砲の再装備を言い渡されるのであった。
 それから時間が経ち2202年、かつてヤマトの戦術指揮を任されていた青年古代進は、地球艦隊とガミラス艦隊による、戦闘種族「ガトランティス」の艦隊から拠点を奪還する任務についていた。乱戦の末損耗が拡大した地球・ガミラス連合艦隊に対し地球防衛司令部は「プランA」を発動する。「プランA」、それは後方に待機していた艦隊総旗艦「アンドロメダ級前衛武装宇宙艦アンドロメダ」に搭載された「拡散波動砲」による敵艦隊一掃命令であった。古代は戦場で再び波動砲の閃光を目にする。ヤマト艦長沖田は誓った。「波動砲は使わない」と。目論見通り拡散波動砲はその威力を発揮し敵の大艦隊を一掃することに成功する。古代や旧ヤマトクルーの想いとは裏腹に軍部はこの成功に歓喜した。古代は回想する、沖田がスターシアに誓いを立てた時のことを。ヤマトの波動砲再装備に最初に反対した古代にとって、沖田とスターシアの間の「約束」には特別な思いがあったに違いない。大量破壊兵器を、人に対して、文明に対して使ってはならない、決して使わない、その誓いは、誠実な青年古代にとっては単なる約束や条約以上の「約束」、信念となっていたと言っても過言ではない。その誓いを立てた沖田が旅の最後に命を落とし、この世にいなければ尚更だろう。しかしその約束を地球人は破ってしまった。古代は地球防衛軍に失望したことだろう。そしてその失望に拍車をかける出来事が古代に起こる。
 クラウス・キーマン、ガミラスが地球に派遣した大使と共にやってきた武官、彼が古代に接触を図る。キーマンは古代をある場所へ連れていく。そこは時間や空間が歪んだ特異点、キーマンはそれを「時間断層」と呼んだ。時間断層では通常の10倍のスピードで時間が流れ、その空間では特殊なスーツ無しでは人間は5分と生きられないと言う。そしてその空間に広がっていたのはオートメーションで稼働する大軍事工場だった。古代の眼前には夥しい数の波動砲搭載艦が建造され並べられた光景が広がっていた。古代が聞いていた波動砲艦隊構想の規模をはるかに上回る数の波動砲搭載艦が建造され、排出されていく。キーマンは告げる「未知のテクノロジー(コスモリバースシステム)には副作用がつきものだが、こいつは度を越している」と。ガミラスとの戦争で壊滅的な被害を受けた地球が、それまで以上の復興を成し得たのも、アンドロメダを始めとする多くの波動砲搭載艦を量産できたのも、コスモリバースシステムを使用した副作用が原因だったのだ。古代は、そして旧ヤマトクルー達は自分達が救ったはずの「未来」に裏切られたのだ。きっかけは未知のテクノロジーの副作用だったかもしれない、しかし沖田が誓った波動砲封印を破った軍拡と復興、古代にはもう信じられるものが無かっただろう。そしてヤマトは哀しみと自責の念、そして「立場が違えば自分も波動砲を使ってしまうかもしれない」という恐怖心を背負った古代を乗せて、謎のメッセージを発する星テレザートを目指し発進する。それは地球防衛軍の相違に背く反乱であった。それでも、時間断層という悪魔に魂を売った地球に未練はないと、古代は自分に言い聞かせてヤマトを発進させたに違いない。
 ここで「波動砲」「拡散波動砲」という兵器が、この作品においてどれ程強力な兵器なのか考察していきたい。最も簡単な説明としては「波動エンジン内で作り出されるエネルギーを射線上に放出する」ということになるが、実際は単なるエネルギー砲ではない。「次元波動爆縮放射器(通称:波動砲)」は「宇宙戦艦ヤマト2199」第3話内で以下のように説明されている。

「我々はその波動エンジンの莫大なエネルギーを応用した兵器を完成させ、ヤマト艦首に搭載する事に成功しました。次元波動爆縮放射器・・・便宜上、私たちは〈波動砲〉と呼んでいます。簡単に言えば波動エンジン内で開放された余剰次元を射線上に展開、超重力で形成されたマイクロブラックホールが瞬時にホーキング輻射を放って・・・」
「宇宙戦艦ヤマト2199」第3話より
 また上記の台詞から『宇宙戦艦ヤマト2199でわかる天文学』において以下のように考察されている。

「時空が本来持つ11次元のうち我々が時間や空間として認識できる4つ以外の次元を使って前方の時空を歪めることで、そこに超小型のブラックホールを大量に作り出す。これが量子力学的効果によって発する強い放射で、その範囲にいる敵を蒸発させる」

 つまりヤマトの艦首から前方に向かって、我々の認識している次元とは異なる次元(余剰次元)、簡単に言えば別宇宙の空間を無理矢理展開し、空間を押し広げることで高重力、高質量を伴った小型のブラックホールを作り出し、そのブラックホールの熱エネルギーを使用した砲弾が波動砲であると説明がつく。しかし波動砲の使用が空間にとって非常に危険なものである可能性を示唆する場面が同じく「宇宙戦艦ヤマト2199」の第15話に登場する。以下はその場面の会話である。

百合亜「波動砲の原理は、ブチンスキー波動方程式の特殊解に基づいているの?」
真田「よく調べたね。特殊解に従い、コンパクト化されたカラビヤウ空間の一部を解放してやるんだ」
百合亜「そのエネルギー放出量は時空超対称性モジレルイの散逸に比例する?」
真田「いや、超対称性モジレルイと直に結びついているわけではない。本質的なのは超弦コンパクト化のランドスケープなんだ」
百合亜「だとすると超弦真空が発散しないかしら・・・宇宙が引き裂かれてしまう・・・」
真田「ユークリッド2次元ブラックホールの破綻か・・・気づかなかったな・・・」
「宇宙戦艦ヤマト2199」第15話より
 「ブチンスキー波動方程式」は架空の方程式であるが、カラビヤウ空間は上記の「余剰次元」の言い換えであり、超弦理論も絡めてその原理を説明しているが、「超弦真空の発散」という点が問題である。我々が観測している世界の真空は超弦理論上ではほんの一部の真空であるに過ぎず、余剰次元、多元宇宙の数だけ真空は存在し、別宇宙の真空下では我々の物理法則のデータは全て異なる結果を示すことになる。それが超弦真空であり、その超弦真空が発散するということは、波動砲の発射に伴い我々の宇宙の真空とは異なる真空が発生する危険があるということである。これは「真空崩壊」とも呼ばれる現象であり、我々の観測している真空の定義が書き換わることにより、現宇宙のあらゆる物理法則が書き換わり空間として崩壊を迎える可能性があるのだ。単純化すれば現宇宙空間の真空下での水の沸点100℃も真空崩壊後の真空下では全く異なる沸点を記録するだろうという理論である。波動砲を開発したのは上記の会話に登場するヤマトの副長で技術士官の真田志郎という設定であるが、ホーキング輻射を兵器に転用することまでは想定できたが、波動砲の発射によって真田の言う「ユークリッド2次元ブラックホールの破綻」が発生し真空崩壊が発生する可能性までは想定できなかったのだろう。つまり波動砲が最初に搭載されたヤマトにおいて、波動砲はいまだ未知の危険を孕んだ兵器であるということが考えられる。2202年において波動砲の発射によって発生し得る「ユークリッド2次元ブラックホールの破綻」の危険性が取り除けたか否かは作中では語られていないが、ヤマトがイスカンダルから地球へ帰還した直後2199年末から2200年にかけて既に地球防衛軍内に波動砲艦隊構想が存在していたのならば、ヤマトの波動エンジンならびに波動砲をモデルに艦艇が設計されていたことは予想がつく。その為波動砲艦隊構想によって量産された波動砲搭載艦は全て、宇宙を真空崩壊させる危険性を持った究極の破壊兵器群だと言える。「宇宙戦艦ヤマト2202愛の戦士たち」では波動砲の原理と科学的危険性には触れられていないが、波動砲の使用には細心の注意が必要であり、宇宙を崩壊させかねない危険な兵器である可能性は孕んだままなのだろう。波動砲の使用を禁じたイスカンダル人は、単に自らが波動砲の力で大帝国を築き、大戦争の末に波動砲を非人道的な兵器として封印しただけでなく、百合亜と真田が示唆した「超弦真空の発散」と「ユークリッド2次元ブラックホールの破綻」の危険性に気付いたために封印したとも捉えることができる。
 しかし地球連邦防衛軍はその波動砲をさらに改良し、ホーキング輻射による熱エネルギー線を拡散させて放射する「拡散波動砲」を完成させた。この拡散波動砲はヤマトの搭載しているホーキング輻射を直線で放射する波動砲の弱点を克服した兵器と言える。通常ヤマトの波動砲は波動エンジン内の全エネルギーを使い、射線上一点に向かって発射する兵器であり、発車後は動力、電力ともに波動コンデンサーからのエネルギー供給と波動エンジンのエネルギー再充填まで身動きが取れなくなってしまう。つまりヤマトのイスカンダルでの旅路で遭遇したガミラスの大艦隊のような多数の相手に対しては、波動砲はそのコストパフォーマンスが悪い兵器であったのだ。密集せず、上下左右のない宇宙空間で立体的に襲い来る多数の敵艦隊には、強大な熱エネルギーであろうとも、躱されてしまえば撃ち損じになってしまう。ヤマトのイスカンダルへの旅路において波動砲の使用が認められたのは敵艦隊への攻撃ではなく自然物や巨大な障害物の撃破などが主であった。必殺兵器として名高い波動砲も使いどころを間違えれば意味がないのだ。それに対して拡散波動砲は、波動砲を一射線ではなく拡散させ複数射線化させることによって、単艦で敵の大艦隊を相手にすることを前提に設計されたと見て良い。ヤマトがイスカンダルへの旅の際、波動砲を徹底して自衛に使い続けたのに対し、拡散波動砲は対艦隊用に作られた波動砲であるため、地球防衛の為の軍拡とは言え、自衛のために波動砲を使い、イスカンダルにおいて波動砲封印を約束した旧ヤマトクルー達にとって拡散波動砲は大量破壊兵器、殺戮兵器に見えたに違いない。

2.戦闘用人造人間とAI
 2202 年、ガミラス、そして地球を脅かす外宇宙からの新たなる侵略者「白色彗星帝国ガトランティス」、それは地球、ガミラス共に未知なる脅威であった。母星の位置は特定出来ず、どこからともなく大艦隊を率いて現れた、破壊の限りを尽くすガトランティス。彼らを「蛮族」と呼ぶガミラス人でさえ、ガトランティス人については人体を戦闘に特化させた人造兵士であることしか掴めていなかった。戦闘に特化されたガトランティス兵は、体格が良く格闘戦に備えられた肉体を持ち、いざとなれば体内から発火、自爆するように作られていた。その実態は既に滅んだ「ゼムリア」という星の人類が作り出した、世代をクローニングで重ね、自らの肉体と名前、性質を後継していくクローン戦闘民族であった。愛情や人間的な道徳を持たず、ただ戦闘のみに特化された感情を持つ彼らは、時には特攻も辞さないメンタリティを持っている。ガトランティス兵はただ彼らの長「大帝ズォーダー」の命令に従い命をかけることだけを美徳としているのだ。ガトランティス兵の大義自爆、特攻、それはかつて大日本帝国のメンタリティを思わせる彷彿とさせるものだ。。大帝の名に従い命に従い自らを炎と変えるガトランティス兵と、天皇陛下の為に一億玉砕を覚悟し連合軍と戦った大日本帝国、それは視点を変えれば連合国を恐怖させた「カミカゼ」を敵に回した事になる。止まらぬ特攻、物量戦はヤマト、そして地球を恐怖に陥れる。また戦闘民族ガトランティスは人型だけに止まらない。留まらない。「ダイゼンガン兵器群」と呼ばれた兵器達はそれ自体がガトランティスとしての知性を持ち破壊を行う機械生命体、一種のAIだった。戦闘のためにために特攻も辞さず、ヒト、生物としての感情までも排除したダイゼンガン兵器群、白色彗星帝国ガトランティスはこれらの非人間的なメンタリティとテクノロジーで地球へと侵攻してくるのだ。
 この脅威に対抗しなければならなくなった地球は如何に戦ったのか。地球の兵力、人口は地球ガミラス大戦以前の1/3に満たないと作中では語られている。しかし時間断層は波動砲を搭載した艦艇を絶え間なく増産していった。アンドロメダ級を主軸に行き着く先は皮肉にもガトランティスと同じであった。土星沖にて地球とガトランティス最初の艦隊戦が勃発する。その戦線に投入された山南修率いるアンドロメダ級を主軸に波動砲搭載艦で構成された波動砲艦隊「山南艦隊」のは地球ガミラス大戦時の地球では考えられない規模の大艦隊であった。しかしそのほとんどはアンドロメダ級のとその後続に着いたヤマト型姉妹艦「銀河」のAIによって操作されたAI化艦隊であったのだ。物量と特攻により襲い来るガトランティス艦隊を機械的に迎撃する山南艦隊、しかしその戦闘には人の血は通わない冷たい戦場であった。最初は優勢であった山南艦隊であったが、白色彗星帝国本体の出現により戦況は一変し、山南艦隊は敗走を強いられる。強大な白色彗星帝国本体をの太陽系内侵入を許してしまった地球人類は、人類種の維持のために、時間断層とAIを組み合わせた消耗戦に出る事となる。人工生命をAIで迎撃する、そして誰の指示かもわからない波動砲が戦場を切り裂く。ヤマトの乗組員達はその地球の方針の正気を疑う。

神崎「正気で戦争に勝てますか?」
藤堂「恐怖を克服するには自らが恐怖になるしかない」
「宇宙戦艦ヤマト2202愛の戦士たち」第19話より
 銀河の副長神崎と艦長藤堂は艦長藤堂はそんなヤマト乗組員達に冷たく告げる。ガトランティスという恐怖に対抗して艦隊の無人化、そして人体の機械化を志願する兵士も現れるようになった地球人類の心は既にガトランティスのスの無慈悲で愛情の介在しない無慈悲なメンタリティに同じになりつつあった。情を捨てる、それは「完璧」を目指すこととも同義であり、完璧な存在にもはや人類の心は不要な次元まで来つつあったのだ。古代が否定しようとしても止むを得ずその重い引き金を引かなければならなかった波動砲は、もはや感情のない機械の手に渡ればそれは軽い拳銃も同然になってしまう。かつて核兵器のボタンで世界を滅ぼしかけた人類は、波動砲という自衛の力を機械化することで2202年に波動砲という存在によって宇宙規模で同じ過ちを繰り返しかねない、精神的危機に陥り、そして特攻も辞さないかつての大日本帝国と同じく「人類のため」という大義に取り憑かれた狂気に陥ろうとしていたのだった。

3.古代進という男
 沖田の想いを誰よりも強く受け止め、波動砲艦隊構想に反対し、惑星テレザートからの謎の救難信号を受け取り、時間断層の存在を知った古代進は反乱覚悟でヤマトを発進させ、地球を旅立つ決意を固める。想いを同じくしていた旧ヤマトのクルー達は古代とヤマトの元へ集結し、防衛軍の制止を振り切って、ヤマトは発進した。
 ヤマト副長の真田はヤマトの発進前、古代を艦長代理に任命する。沖田十三と言う艦長が合理の上を行く決断力を持っていたことと、反乱覚悟でヤマトを発進させようとしている、沖田の教え子古代を真田は重ねて見ていたのだろう。しかし古代は一つの大きな不安を抱いていた。沖田の決断力は合理主義に囚われない強い精神力あってのものだった。当然波動砲使用の決断も、波動砲封印の決断も沖田の決断だった。「必ずコスモリバースシステムを持って地球へ帰る」という沖田の執念が危険を孕んだ波動砲発射の決断をもさせてきたのだろう。地球を復活させるため、ヤマトとその乗員を守り、誰にもその心の内を明かさず冷静に決断を下してきたのは、沖田十三と言う男あってのものだっただろう。古代はそれを理解していた。真田が自分を頼りにして艦長代理を任せる気持ちも理解はできる。しかし古代の不安は沖田の重圧と決意を背負い切れるかどうか、その資格が今の自分にあるのかどうかという不安であり、それはヤマトに再装備された波動砲の存在と重なりより具体的な不安として現れていた。

古代「(つぶやき)波動砲・・・・・・今のうちに、回路を切って封印することはできる。地球の方針に異を唱えて飛び出すなら、そうするのが正しい。でも・・・・・・そのために反撃ができず、乗員を死なせるようなことになったら・・・・・・怖い・・・・・・怖いんです。その時、ぼくはー」
沖田『古代。覚悟を示せ。お前の、指揮官としての覚悟を』
古代「艦長・・・・・沖田艦長・・・・・・!」
「宇宙戦艦ヤマト2202愛の戦士たち」第5話より
 一人本音を吐露する古代に対し、沖田の幻影はその古代を試すが如く言葉をかける。そして最初の覚悟を試される機会はすぐに訪れた。ガトランティスの襲撃を受けた民間人の救難に立ち寄った太陽系最辺境の惑星「第11番惑星」でそれは起きた。ヤマトが第11番惑星に到着し救難活動に当たっているのと同時に、第11番惑星軌道上に突如襲来したガトランティスの大艦隊は、ガミラスが第11番惑星の衛星軌道上に設置した人工太陽のエネルギーを使った地球を狙う巨大なエネルギー砲を構築したのだった。常識はずれの大艦隊に対しヤマト単艦で立ち向かうには人工太陽を破壊してガトランティスの目論見を阻止するしか方法はなく、それができるのはヤマトの波動砲を置いて他になかった。古代は一人艦橋を離れる。その脳裏には沖田とスターシアが誓った約束が反響する。

真田「気持ちはわかるよ、古代」
古代「・・・・・・」
真田「テレザートに呼ばれたというだけではない。地球の波動砲政策に異を唱えて飛び出してきた我々が、波動砲に頼るというのは本末転倒だ。しかし他にヤマトが生き延びる道はー」
古代「(ぼそりと)・・・・・覚悟を示せ」
真田「・・・・・・?」
古代「指揮官としての、覚悟を・・・・・・・。だから、おれは波動砲の回路を切らなかった。使えても、使わない・・・・・・それが、おれの、指揮官としての・・・・・・」
真田「古代・・・・・・・」
古代「(不意に椅子を蹴り)真田さん、おれは、おれはね、当たり前のことを当たり前にしたいだけなんですよ。約束は守る。助けを求められたら手を貸す。みんな当たり前のことでしょう・・・・・・・!?それができない地球なら・・・・・・おれは、そんな星の人間であることが恥ずかしい。地球人みんながそうじゃないって、証明できるものならしたい。そのためにヤマトは・・・・・・・それなのに、自分から約束を破って、何万もの人間を(殺すなんて)・・・・・・・」
「宇宙戦艦ヤマト2202愛の戦士たち」第7話より
 「当たり前のことを当たり前にしたいだけ」、それが古代の心の全てだった。波動砲は使わないという約束、それをただ守りたい一心なのだ。しかし古代はこの局面で波動砲を使う。人工太陽の動力部を波動砲で撃ち抜くことで、ガトランティス兵を殺さずにエネルギー砲と艦隊の動力を停止させることに成功したのだ。誰も殺さずに古代は波動砲で地球を救った。結果としては当たり前のことをしたとも言える。しかし、古代にとってはその心を殺し波動砲を使い、敵を殺さなかったことで自分を納得させているに過ぎなかった。古代の心は晴れなかったのだ。
 そして古代と波動砲の試練はついに誤魔化しの効かないところまで来るのだった。ついに目的地テレザート星に到着したヤマトだったが、ガトランティス艦隊の罠にはまり窮地に陥る。身動きの取れないヤマトに対してガトランティス艦隊は容赦なく攻撃を加える。ヤマトのクルー誰もが分かっていた、波動砲を使う以外に道は無いと。しかし艦長代理古代進はその引き金を引けずにいた。第11番惑星で収容された沖田の盟友土方は古代をじっと見守る。

斉藤「なるほどな・・・・・・・古代、そこをどけ。俺が撃つ。聞こえねえのか!?そんなに重てぇ引き金なら、おれがー」
キーマン「おれたちにその資格はない。これは、イスカンダルに旅した者が等しく背負う十字架だ。自らの呪縛を断たない限り、ヤマトに未来はない」
古代「エンジン、始動」
沖田の声『古代。覚悟を示せ。お前の、指揮官としての覚悟を』
古代「(心の声)たとえ、血に濡れても・・・・・・・罪に濡れても・・・・・・・(ぐっとまなじりを決し)・・・・・・・!」
雪「(察して)・・・・・・!」
土方「波動砲、発射準備!どうした!イスカンダルまで行ったのは古代ひとりか!?」
徳川「波動砲、エネルギー充填!」
真田「波動砲への回路、開きます!」
雪「安全装置、解除!」
斉藤「重てぇ引き金を一人で引く必要はねぇ」
古代「斉藤・・・・・・・」
キーマン「おれも撃つ」
島「おれもだ」
土方「古代。艦長拝命の件、承った。逃げ場のない、解決しようのないことなら、背負っていくしかない。おれも、おまえも・・・・・・全員で、撃つ。全員で背負う」
「宇宙戦艦ヤマト2202愛の戦士たち」第13話より
 沖田の想いを誰よりも理解していた沖田の盟友土方の言葉が古代の重い悩みをどれ程和らげただろうか。少なくとも古代が耐え切れなかった責任者を古代よりも経験を持ち沖田に近かった大人である土方が請け負ったことで古代の背負っていた「当たり前のことを当たり前にしたい」という信念ではどうにもならない現実を、ヤマト全体の問題とすることで古代一人の問題ではなくなったことは、古代にとっては大きなことだっただろう。一人の責任でも、一人の信念でも矛盾でもない、全員の問題になることで、古代の問題意識は一つの共同体のものとなった。
 古代はこれを機に波動砲を使うことと、「引き金を引かない」戦争の解決方法を分けて模索するようになる。必要ならば、その一撃で解決するならば、波動砲を使う、しかし「引き金を引かない」道がもしもあるとしたら、最後の最後までその道を模索する。古代はこの矛盾を抱えながらガトランティスとの最終決戦へ向かうのであった。

4.ヒトと愛と「選択」
 古代の理想とする「引き金を引かない」世界、それは言い換えれば他者を理解し受け入れる世界である。争いではなく、話し合い、理解、共感によって繋がっていく世界、それは理想主義かもしれない。しかし古代の心に迷いはなく、その理想主義を戦いの中で追求することで解決の糸口を見つけようとして行ったのだ。
 しかし冷酷な白色彗星帝国ガトランティスの「大帝ズォーダー」はそんな古代やヤマトクルーに対して残酷な「選択」を迫るのだった。一度目は古代に対して、二度目は病気の子供を持つパイロット加藤に対して、その悪魔の選択を迫ったのだ。どちらも愛するものと状況が天秤にかけられる。ズォーダーは、古代に対しては3隻の船のうち1隻を選ばせ、残りの2隻を沈めると言う。その3隻の内1隻には古代の恋人森雪が乗船していた。古代は雪と雪以外の民間人を秤にかけなければならなくなったのだ。また加藤に対しては、加藤の子の患っている不治の病の特効薬を提供する代わりにヤマトの波動砲発射を阻止せよと命じた。加藤の子供は2歳でありながら余命宣告を受けていた。古代も加藤も愛するものを取れば、必ずそれ以上に大きなものを失うようにゲームが設定されていたのだ。愛のために苦しむ様をズォーダーは楽しんだ。そして愛故に自滅する人類を古代達に突きつけ絶望させようとしたのだ。
 古代はどの船も選ばなかった。それは結果的にかもしれない。雪が乗っていた船から身を投げたのだ。重力嵐の中古代は雪だけを助けに向かった。ズォーダーは怒り、3隻ともエンジンを破壊し重力嵐に飲み込ませた。古代の雪に対する愛が単なるエゴであり、どのみち全てを失う結末をズォーダーは用意しようとしたのだ。しかし土方の判断で重力嵐の核に向かって発射された波動砲は、そのマイクロブラックホールによる超重力で重力嵐を相殺し、古代と雪、そして3隻の船全てを助け出すことに成功したのだった。古代が助ける船を選ばなかったのは雪が身を投げた結果としての行動であり、その先に待っていた結末は奇跡ともいうべきものだったかもしれない。それでも「選ばない」という行動は、その後の「引き金を引かない」古代の思想に大きく通ずる経験になったと言えるだろう。奇跡の様な確率かもしれないが、「引き金を引かない」、「選ばない」という行動を選択しても困難を解決できるかもしれないという、希望となったのだ。
 だが全員が全員古代の様に強いわけでも幸運であるわけでもない。土星宙域に現れた白色彗星に対して歯が立たなかった山南艦隊、そこにヤマトが単艦で現れ白色彗星と対峙する。ヤマトには白色彗星攻略の切り札、波動砲のエネルギーを何乗倍にも増幅させて発射する「トランジット波動砲」があった。皆ヤマトの放つ一撃に賭けていた。迫り来る白色彗星を前に、ヤマトはトランジット波動砲の発射態勢に入る。全員の想いがひとつになっているかに見えた。しかし加藤はズォーダーの命令に逆らえなかった。

加藤「翼・・・・・・ごめんな・・・・・・父ちゃん・・・・・・地獄に行くわ・・・・・・」
「宇宙戦艦ヤマト2202愛の戦士たち」第18話より
 愛する息子を救うために、同じ病気で苦しむ沢山の子供達を救うために、加藤は波動エンジンの回路を停止させる。ヤマトひとつの犠牲で多くの命が助かるなら、と、加藤は悪魔に魂を売ってしまったのだ。ヤマトは白色彗星の高重力の渦に飲み込まれて沈んでいく。ヤマトという人類にとって最後の希望は白色彗星の前で愛によって敗れさり、残された地球には時間断層とAIによる狂気だけとなってしまったのだ。
 ガトランティスの青年将校ミルと対峙した古代はこう語りかける。

古代「引き金を引こうと引くまいと、必ず大事ななにかが失われる。前におれが受けさせられたテストと同じだ。選んじゃいけない。選んだ時点でー」
デスラー「ー負けている・・・・・・・」
「宇宙戦艦ヤマト2202愛の戦士たち」第23話より
 古代達の言葉にミルは、ズォーダーは笑う。しかし、引き金を引き続ければ、愛や人間性、多様性、大事な何かを必ず失う。地球が、ガミラスがそうだった様に。そして軍拡とAIによる果てなき戦いの先にあるのは、愛情や感情を不合理だと切り捨て、愛を笑い、破壊の限りをつくすガトランティスなのだ。愛を忘れ、戦うことだけを強いて、いつか熱い人間の血を流すことさえ忘れてしまった時、そこに人間性、ヒューマニズムは存在しなくなってしまう。古代は自ら語りながらその未来に気づいていくのだ。だからこそ、「引き金を引かない」世界を目指した。地球人が、愛に溢れ、思いやりを持って、当たり前のことを当たり前にできる存在であって欲しいという願いにかけて、古代はミルを説得し和平を持ちかける。しかし現実は残酷であり、人は間違える。たった一人、ズォーダーの代行たるミルの心が動きかけたその時、ミルはデスラーの衛兵によって射殺され、ガトランティスとの和平への道は潰えてしまったのである。戦闘民族であり感情も愛も持たないガトランティスとも愛しあえたかもしれない、しかし人間は常に引き金を引いてしまうのだ。そしてその数だけ人間は愛を殺し、人間性を失っていくのだ。「引き金を引かない」、それは理想主義かもしれない、しかし人間がたった一つ、人間である心を殺さずに生きて行ける手段は「引き金を引かない」という道だけなのである。そこにしか愛し合う道はないのである。

総論.人間の特権
 古代によるミルとの交渉の機会を逸したことにより、ガトランティスと地球、ガミラスの連合、そしてヤマトには、ガトランティスを滅ぼすか、ガトランティスに滅ぼされるかしかない最後の段階まで来てしまう。復活したヤマトは白色彗星内部へ突入し最後の作戦に出る。「引き金を引かない」と言った古代は自らの手が血に汚れていくことに耐えながら最後まで戦い抜く。しかし最後に姿を現したズォーダーの巨大要塞は古代を始め全人類を絶望させる。ヤマトはもはや戦う力もなく、地球、ガミラスの兵力もそこを尽きようとしていた。嘲笑うズォーダー、自らの理想とかけ離れて自分の手を血で汚し、心を殺しに殺してしまった古代。戦いの中で土方を始め多くのヤマトクルーは命を落とし、艦長となった古代の決断を総員は待っていた。

古代「総員、退艦」
「宇宙戦艦ヤマト2202愛の戦士たち」第25話より
 古代は損傷して暴走したヤマトの波動エンジンをズォーダーの巨大要塞にぶつける、特攻を決意する。古代は森雪とともにヤマトに残り、ヤマトの元へ降臨したテレザートのテレサと共に巨大要塞へ向かって行った。

 半年後、ヤマトの特攻により救われた地球で、突如時間断層内に幽霊船のような誰も乗っていないヤマトが姿を現した。ヤマトはズォーダーの巨大要塞とテレサと共に、高次元の果てへと押しやられ、そして時間断層を通じて帰還を果たしたのだと真田は推測した。ならばヤマトと共に特攻した古代や森雪も生きている可能性があり、救出することが可能かもしれない、そう希望が見えてきた。しかし、高次元の果てへ人類の力で救出に向かうためには時間断層を犠牲にしなければならないことも同時に発覚する。一方は高次元の果てに取り残された二人の人間、一方は軍事だけでなく工業、テクノロジーの発展、地球の復興を一手に担う時間断層。二人のために星単位の財産を捨てることはあまりにも釣り合わない。しかしヤマトのクルー達にも味方はいた。古代達を助けるか、時間断層を維持するか、決定を国民投票に委ねることになったのだ。そして真田はヤマトクルーの代表者として演説台に立つ。

真田「・・・・・・・ある男の話をさせてください。どこにでもいる、ごく普通の男です。人を愛し、人が造る社会を信じ・・・・・・地球が滅亡の淵に立たされた時には、イスカンダルへの大航海に加わった・・・・・・・そして帰還したあとは、皆さんがそうであるように、地球復興のために身を粉にして働いてきた。彼が望んだのはただひとつ、イスカンダルとの約束を守ることです。しかし戦後、地球が置かれた状況は、それを許さなかった。裏切られた・・・・・・その思いは間違いなくあったでしょう。だからテレザートから通信が届いた時、彼は反乱覚悟で地球を飛び出した。宇宙の平和に貢献できる地球人でありたい、という願いに掛けて。しかし、その結果は・・・・・・彼は、誰よりも多く波動砲の引き金を引くことになりました。生きるために、守るために、彼は自分の心を裏切ってきた。無論、抵抗はしました。事あるごとに和平を訴え、自分一人の身で済むならと、敵の銃口に身をさらしたことさえあります。しかし、すべては裏目に出て・・・・・・・結局、彼は自分の命まで武器にしなければなりませんでした。それで地球が救われたのは、結果論でしかありません。彼は・・・・・・・彼を愛し、運命を共にした森雪ともども、決して英雄などではなかった。彼はあなたです。夢見た未来や希望に裏切られ、日々なにかが失われるのを感じ続けている。生きるため、責任を果たすために、自分で自分を裏切ることに慣れて、本当の自分を見失ってしまった。昨日の打算、今日の妥協が未来を、自分を食い潰してゆくのを予感しながら、どこに向かうとも知れない道を歩き続ける。この過酷な時代を生きる無名の人間の一人・・・・・・・あなたやわたしの分身なのです。ですから、引け目は感じないでいただきたい。英雄だから、犠牲を払ってでも救う価値があると考えるのは間違ってます。そうではなく、彼と彼女を救うことで、自分もまた救われると思えるなら・・・・・・この愚かしい選択の先に、もう一度、本当の未来を取り戻せると信じるなら、ぜひ二人の救出に票を投じてください。数字や、効率を求める声に惑わされることなく、自分の心に従って。未来は、そこにしか存在しないのですからー」
「宇宙戦艦ヤマト2202愛の戦士たち」第26話より
 人類は選択を迫られる。どちらかを選べば必ず大事な何かを失う。テクノロジーか心か、そしてその心とは「引き金を引かない」世界を求める心、人間の歩んできた道とはかけ離れている心であり、愚かな理想主義かもしれない。しかし古代がそうだったように、そして多くの人々がそうであるように、人はいつでも自分の心を殺し、殺すことに慣れて、効率を求めて非人間的な道へと進んで行ってしまう。2203年、地球人は自らの心を救うか、心を殺すか、その瀬戸際に立っていた。
 そしてヤマトは古代進と森雪を迎えに旅立った。

その人の優しさが花に勝るなら
その人の美しさが星に勝るなら
君は手を広げて守がいい
身体を投げ出す値打ちがある
一人一人が想うことは愛する人のためだけでいい
君に話すことがあるとしたら今はそれだけかもしれない
今はさらばと言わせないでくれ
今はさらばと言わせないでくれ

いつの日か唇に歌が甦り
いつの日か人の胸に愛が甦り
君は手を広げて抱くがいい
確かに愛した証がある
遠い明日を想うことは愛する人のためだけでいい
君に話すことがあるとしたら今はそれだけかもしれない
今はさらばと言わせないでくれ
今はさらばと言わせないでくれ

今はさらばと言わせないでくれ
今はさらばと言わせないでくれ
ヤマトより愛をこめて
歌:沢田研二
作詞;阿久悠
作曲:大野克夫
編曲:宮川泰
1978年

 「宇宙戦艦ヤマト2202愛の戦士たち」の脚本家で作家の福井晴敏はインタビューにてこの国民投票は僅差で古代達の救出に決まっただろうと語っている。物質的な現実は変えられず、「引き金を引かない」、「選ばない」世界はこの物語の世界でも現実同様見つけられなかったのだ。それでも古代達が助けられたのは、この作品世界にまだ理想を夢見る心が残っている証拠でもあり、僅差で勝利した救出派の人々は物質的豊かさではなく心を求めたのだ。貧しくとも、血が流れようとも、理想を追い求める心を忘れずにいたい。それが現実的に間違っていたとしても、選択し、そして間違えを犯すことこそが、数字や便利さ、効率を求めるだけの機械にはない、人間の特権なのだ。選択し、間違えても、生きていく、そうしなければ未来は変わらないのだ。そしてその理想は、古代と同じく、自ら悩み、血を流し、希望に裏切られ絶望してこそ目指せるものでもあるのだ。人は弱い、間違える、だからこそ恥をかいてでも生きて間違えを正す努力をし、理想を目指すのだ。痛みを感じ、血を流すからこそ、争いは良くないと感じる。人間が痛みを忘れ、血を流さず、間違いを犯さなくなった時、人間は人間ではなくなってしまうだろう。波動砲艦隊構想、AIによる戦争の効率化、時間断層による便利な世界、その先にある狂気に触れたからこそ、地球人は古代進を求めたのだろう。
 
 願わくば、現代日本も、間違えても、間違いに気づき、恥をかいても前を向いて生きられる社会であって欲しい。それは理想かもしれないが、人間の特権を蔑ろにする社会はいずれ可能性を失い、硬直してしまうだろう。
 何度間違え何度恥をかき何度怪我をしても、理想を求めて這い上がり、理想を持った心を忘れない国であって欲しい。

参考文献:
『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち ‐全記録集‐ シナリオ編』、松坂豊明編、KADOKAWA、2019年.
『宇宙戦艦ヤマト2199-全記録集-脚本集』、西崎彰司企画、マッグガーデン、2015年.
『宇宙戦艦ヤマト2199でわかる天文学』、半田利弘、誠文堂新光社、2014年.
『超弦理論:宇宙の遺伝情報』、シメオン・ヘラマン、『Kavli IPMU News No. 21 March 2013』、28頁から32頁、https://www.ipmu.jp/sites/default/files/webfm/pdfs/News21/J_FEATURE.pdf、2020年1月23日閲覧.

参考映像作品:
『宇宙戦艦ヤマト2199』全26話、出渕裕総監督、出渕裕他脚本、XEBEC制作、2012年.
『宇宙戦艦ヤマト2202愛の戦士たち』全26話、羽原信義監督、福井晴敏・岡秀樹脚本、XEBEC制作、2016年.

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