運動音痴が草バスケに参加した話

「スポーツは見るよりやる派」の人たちにスポーツ観戦が好きすぎる話をすると、決まって言われる言葉がある。
「宮井さん自身はスポーツしないの?」
そのたび「あ、する方もありだったのか」と気づかされる。それくらい、私の中でスポーツを”する”という選択肢は縁遠いものだった。
体育の通信簿はいつも5段階評価の「2」。
運動音痴のわりに意外と体育の、特に球技の時間は好きで、サボりもせず真面目に参加していたのにも関わらず、である。
苦痛だったのは持久走の授業だった。小学生のとき学校の外周を走るマラソンがあり、私はビリで、走り終わった生徒たちはみな校庭で体育座りをして私が帰ってくるのを待っていた。ゴールしただけなのに拍手されたときのみじめな気持ちは今も胸に刻まれている。

そんな私だがバスケとスリーポイントシュートの名手・辻直人選手を好きになって以来、「私もスリーポイントを入れてみたい!」という欲が湧くようになっていた。
野球を見ているときは時速150キロのボールを投げたり、ホームランを打ったりするなんて、いくらこれから練習しても私の体格と腕力では物理的に不可能だと分かりきっていて、だからプロ野球選手みたいに投げたい打ちたいなんて思いもしなかった。だけど、スリーポイントは女子中学生でも入れる。「試合中は無理でも練習なら1本くらい入んじゃね」という甘すぎる考えの元、「スリーポイント入れてみたいんだよね〜」と友人に話したところ、「サンダースファミリーの集まる草バスケがあるから来てみたら?」と提案してくれて、トントン拍子で運動音痴のド素人が草バスケに参加することになったのだ。

結果はご想像の通りだが、30分程度のシューティング練習の間にスリーポイントなど入るはずがなかった。
フリースローラインから試しに打ってみた初めの1本がたまたま入って、しかもいわゆる”スウィッシュ”だったので、「え?私才能あるんじゃない?」と調子に乗ったのがバスケの神の怒りに触れたようだ。その1本以降、スリーポイントどころかフリースローラインからも1本も入らずにシューティングの時間は終わってしまった。そもそも、フリースローラインって思った以上に遠い。身体の使い方が下手なんだろうが、教えてもらったコツを意識してめいっぱい投げてもなかなか届かないのだ。スリーポイント成功への道のりは果てしなく遠い。

それから全体練習が始まり参加してみるも、ドリブルをつくのもアワアワ、パスを出すのもアワアワ。レイアップの練習はそもそもどこに動いてどうパスを出せばいいか分からずアワアワ。ずっと挙動不審のまま変な汗をかいていた。
試合にも少しだけ出してもらったら容赦なくパスカットされて走られて嬉しかった。接待されることほど悲しいことはない。しかし何もできない私がいるチームは実質4人でプレーする羽目になっていたので、早々にコートから離脱しカメラマンに徹することにした。

体育館のステージに登り、カメラを構えながら考える。
プレーする側の人って本当にすごい。
ファインダー越しの顔は、真剣な顔で戦っているプロとは違ってみんなニコニコ楽しそう。いいプレーには敵チーム相手でも拍手が起こり、草バスケならではの暖かい雰囲気だ。でも、経験者の方たちはみんな動きがとても自然。私が完全に遊ばれていたバスケットボールをしっかり操って、バスケットボールで遊んでいる感じ。
きっとみんな部活やサークルで辛い練習を重ね、いろんな悩みだってあっただろう。だから簡単に羨ましがったらダメなことは分かっている。
だけど、かっこいいな、羨ましいなって、心底感じた。
そして、それを突き詰めて仕事にまでしているプロ選手ってどれだけすごいんだ。

川崎ブレイブサンダースのYouTubeで「フリースロー50回連続で決めるまで帰れません」という企画動画があるのだが、その中で辻選手がふざけて高速でダムダム!とレッグスルーしていた。みんなマジメにフリースローを打っているのに何やってるんだと笑ったが、あれはとても難しいことが分かった。私はゆっくりでも全くできなかった。高度なふざけ方だ。
ましてや公式戦のプレッシャーの中、ディフェンスとの攻防のすえにようやく見定めた隙、そのわずかコンマ数秒で放ったシュートがリングを通り抜けていくこと。幾度となく見たそんなシーンは、どれだけの練習の成果なんだろう。
基本のキであろうレイアップさえも、運動音痴には決めるどころか打つことさえもできなかった。
いち、に、でうまく踏み切って打てない。
ましてや試合中に、ディフェンスも来る中で、全力で走り込みながら決める選手たちは普通じゃない。

私は努力によって生まれる世界が大好きだ。
裏にどんな苦しみがあるか、どれだけの痛みを伴ったか、それを私は知る由もない。
キラキラした世界のキラキラした部分だけを見ること。それはもしかするとずるいことなのかもしれない。それでも、頑張った人間だけが生み出せる世界は常に美しくて眩しくて、いつも私の目を、心を、否応なしに奪っていく。
バスケに少しだけ触れさせてもらって、その遠い世界がもっときらめいて見えるようになった気がする。
そんな素晴らしい経験をさせてもらった三連休の最終日だった。

きっかけをくれた友人はじめ、突然現れた運動音痴に優しくしてくれた川崎ブレイブ草ンダース(ネーミングセンスに笑ってしまった。だれうま)のみなさんに感謝しています。ありがとうございました!

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