医療・介護職のハラスメントの現状と課題


自己紹介に変えて 

 私は看護師として5年、看護教員として8年勤めたあとTNサクセスコーチング(株)という医療分野に特化したコンサルティング会社を起業し、

現在は教育コンサルタントとして病院や介護施設、看護学校の教育支援をしています。

病院で働くすべての職種に対しての研修をしたり、管理者の育成や人事評価制度の構築、ハラスメントの外部顧問などもお引き受けしたりしています。

常に医療従事者と関わっているので色んな相談を受けますが、近年はがぜんハラスメントに関するものが多くなりました。

新型コロナウイルスの蔓延を防ぐため、外出の自粛や医療崩壊の危機が叫ばれている昨今ですが、そんな中でも医療従事者は休む訳にはいきません。

直近では緩和ケア病棟で勤務中に医師から不当な扱いを受けPTSDとなり、3か月間休職していた看護師さんから

「これはパワハラではないでしょうか」と相談を受けました。

彼女は復帰後すぐに、「休職中に迷惑をかけたんだから当然でしょ」とばかりに新設された「コロナ感染外来」に配属され、

(彼女は結核の既往がありご主人も感染、肺結核の既往があり断ったにも関わらず配属。)

また24年来の看護師経験がある彼女は「休職してたんだから最近の患者さんの情報、わからないでしょ」と一日中、入浴介助ばかりを担当させられたともいいます。

先日も大阪のとある介護施設で、PCR検査陽性でコロナウイルスに感染していることが分かっていたにも関わらず、

看護師として看護業務をさせていたということも報道されたばかりです。

また他の病院に勤める看護師は「うつ状態」との診断書を提出したにも関わらず、

「人がいないし今のこんな状態で休職させられる訳ないでしょ」と、

「うつ状態」のまま勤務を続けるように命じられたという相談もありました。

慢性的な人手不足の上に急遽浮上した「新型コロナ」により医療現場は以前にもまして「パワハラ天国」と化しています。

この特集では、私が経験上、相談を受けた内容を前提に前半では医療現場で働くもの同士(労働者間)のハラスメントの実情を取り上げ、

後半の部分では患者や家族、利用者といったカスタマーによるハラスメント事情と教育の現状と対策に関して私が思うことを皆さんにお伝えしたいと思います。


医療者間で起こるハラスメント

 ここで、ハラスメントの定義をおさらいすると、

 職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、

業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為のことでした。

そしてハラスメントの行為から6つの類型にわけることができました。


パワハラの6つの行為類型

1. 暴行・傷害(身体的な攻撃)

2. 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
  机をたたく、ゴミ箱を蹴るもNGです

3. 人間関係の切り離し(隔離・仲間はずし、無視)

4. 過小な要求(業務上の合理性なく、能力とか経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)

5. 過大な要求(業務上、明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)

6. 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

医療の世界ではまだ存在「身体的な攻撃」


 かつて私は手術室で看護師をしていました。

当時はモタモタ介助をしていると術者から手術機械が私の体めがけてとんでくることも多々ありました。

さすがに25年たった今はこんなことは減りました。
しかし、オペ室は密室の空間です。

残念ながら「0」にはなっていません。

私の教え子は今も千葉県の某病院の手術室で看護師をしていますが、

医師から腕をつかまれたり、医師が患者の身体を小突いたりする場面があると相談受けました。

その病院にはもちろん「ハラスメント相談窓口」もあります。

教え子は窓口にも相談に行きましたが、相談窓口の担当者はその病院の看護局長と副局長で、

「あなたのそういう態度が先生(医師)を怒らせている」と逆に注意を受けたと言います。

よくある「いじめられる方にも問題がある」発言です。

ハラスメント窓口に相談に言ったことも、次の日には他の職員が知っていたというのですから、

ハラスメントに相談に行ったことで更に、「セカンドハラスメント」も受けたことになります。

記憶に新しい「セクハラ」事件と「セカンドハラスメント」

数年前も千葉県の災害医療の総本山といわれる病院で、

医師が当直室に看護師を呼びつけ「言ったらこの病院で働けなくしてやる」という脅しと共に、

何年にもわたって性行為を強要し強姦容疑で書類送検された事件が起こりました。

このときも半年も前から院長、副院長、看護部長、事務部長に相談していたにも関わらず、

組織は「個人間の問題」として取り扱わず、被害者本人が警察署に告訴状を提出するまで何も動かなったという事実が明るみにでました。

被害者の看護師がこの病院を退職するとき、加害者である医師が幹部職員の前で土下座したとも報道されていますが、

これも本人の同意なくハラスメントの相談があったことを加害者に知らせたのであれば、セカンドハラスメントとなるでしょう。

これらは氷山の一角で病院のハラスメント窓口はまだまだ機能していないところが多いというのが私の実感です。

「自分が悪いのかもしれない」と、ハラスメントは隠蔽される

「自分の意見を否定され続けて、怖いと思って距離を置こうとすると、部長は仏様のようにやさしくなります。

本当は優しい部長を自分の能力の低さがここまで怒らせてしまう。

いっそこの病院に自分がいなくなることが一番役に立つ方法じゃないかと思って、、、」

先日、ある看護師から相談を受けた内容ですが、同じような相談は後をたちません。

逃げられない関係の中での相手の矛盾に人はたやすく洗脳されます。

逃げられない関係とは、親や先生、恋人や親友といった簡単には否定したり関係性を切ったりできない相手のことです。

私の母は感情の起伏が激しく、あきらかに不機嫌だということがよくありました。

眉間にしわがよっていて、部屋の扉をわざとバタンと閉めたり、飼っている犬を大声で叱ったりするので「怒ってる?」と聞くと、

「怒ってなんかない」と言うのです。

怒らせたのならば謝ったり解決に向けて動いたりできますが、母は「怒ってない」のでこちらは混乱します。

「怒っているみたいなのに怒っていない」相手の言語と非言語が矛盾しているとき、

こちらはなんとか矛盾を解決しようと「自分が何か気に障ることをしたんじゃないか」と自分を責めるようになります。

幼い子どもなら「自分が悪い子だからお母さんを怒らせたんだ」と、少しでもお母さんの機嫌がよくなるように相手の望むことを自らしようとするようになります。

こうして人は次第に相手のいいなりになっていきます。

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相談しても相談しなくても叱られる「否定的ダブルバインド」で「マインドコントロール」されてしまう

皆さんが「わからないことがあったら自分で判断しないで何でも相談しなさい」と言ってくれた上司の言うとおりに相談しにいくと、

「そんな簡単なこともわからないの?」と否定されたとします。

そうか、簡単なことは相談しちゃいけないんだなと反省し、できるだけ自分で判断していると今度は「なぜ、相談せずに何でも決めるの!」と怒鳴られたとします。

相談しても相談しなくても怒られ、関係から逃げ出すこともできません。

どっちを選んでも不正解で逃げ場もない状況を「否定的ダブルバインド」と呼びます。

本当は相手が矛盾しているのですが、人の心は矛盾が苦手です。

逃げられない関係性で相手から矛盾した命令をされると、人は自分を変えたり責めたりすることで「矛盾ではない」と思い込もうとします。

矛盾した相手を変えるのは難しいので、自分を変えたり責めたりすることで矛盾を解消しようとします。

「自分の判断能力が低いから叱られるんだ」と自分を責めていれば、相手の矛盾を見なくて済むからです。

これをくり返していると、あなたは悪くないのにどんどんあなたの自分への自信は失われます。

そして矛盾した相手に対しての思考が停止し、無批判に矛盾した相手の言うことに従うようになります。

こうやって人は大切な人によって洗脳されます。

すぐにたち切れる関係では洗脳は起こりません。
大切な人だからこそ無意識にマインドコントロールされてしまうのです。

自分を全否定するのに、時に優しい師長。

こんなのは感情の起伏が激しいか、大人だというのに態度に一貫性がない幼稚な人なのですが、

否定的ダブルバインドな状況に長くさらされるとこちらの心身が病んでしまうことが多々あります。

体調を崩して出勤できなくなれば、一時的にダブルバインドから解放されますし、

いっそのこと心が病んでしまえば相手の矛盾にはずっと気がつかないでいられるからです。

こうした人にマインドコントロールされないためには、まずは、相手の矛盾をしっかりと認識する知識を持つこと、

そして相手の気分や表情に操作されないという決意を持つことが大切なのですが、

マインドコントロールされ続けた当事者はこうした力が残っていないことがほとんどです。

ハラスメントが起こっていることに気づかない、「自分が悪いから」と個人化してしまう、こうしてハラスメントは蔓延して風土化していきます。

こうした環境をいち早く変えていくためには、研修等での知識の普及をすること、

トップのハラスメントを失くすという強いメッセージの発信、組織のハラスメント予防のルールづくりと啓発活動が急務です。

そして、本当に機能する相談窓口の設置が必須です。

前述した例でもあるように相談窓口は内部の幹部によるものは、セカンドハラスメントの温床になっているのが今の現状ですので、外部委託するのがよいと思います。

また、これらハラスメントの対策として、私のご支援している病院では人事評価制度に「ハラスメントとなる言動をとっていない」という評価項目を入れたり、

目標管理面談を動画で撮影したりとハラスメントを予防する取り組みをしくみ化しています。

その後の職員満足度調査でもハラスメントの件数は減少しているのでお勧めできる取り組みであると思います。

病棟業務ができない師長の異動に伴う「部下から上司へのハラスメント」の実際 

医療現場のハラスメントもやはり、職場の上司、部下などの関係性において発生することが多いのですが、

医療現場の特殊性から部下から上司へのパワハラも負けず劣らず起こっています。

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