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認知症老人が異世界転生したらセックス&バイオレンス:山田正紀「ジュークボックス」

山田正紀は全然通っていなくて、たまたま四半世紀くらい昔に図書館で借りたこれくらいしか読んでいない。たぶん読んだのは1992年ごろ(出版されたのは1990年らしい)で、当時、なんとなくSFをちゃんと読みたいと思って、山田正紀をためしに一冊読んでみようと思ったのだろう。全然嫌いな作風でもないのに、なぜかこの後「神狩り」にも「宝石泥棒」にもいかなかったけれど、最近無性に再読したくなって古本を入手。どうやら文庫化も復刊もしていなくて、ファンの間でも「隠れた名作」みたいな扱いらしい。初読時はなんとなく最後の方が消化しきれなかったせいか、記憶になかったのだが、再読するとその辺が整理できて腑に落ちた。

舞台設定は1997年の日本、つまり出版当時の1990年からすると近未来。火災にあった老人ホームの焼け跡から発見されたのは4人の老人の焼死体だった。しかし、彼らは「太陽系融合惑星(ユニバーサルスタジオ(!))」と呼ばれる別の世界で生きていた。50'Sのアメリカンカルチャーをイメージした世界で不気味な生体兵器「ニューロジャンク」に乗り込んで、アメ車やジャンクフードの形をした敵と戦い、「生命言語(ランガー)」の秘密を解き明かそうとするという、サイバーパンクSFの変種のような小説。全部で6つの連作短編のような構成になっており、「ジュークボックス」というタイトルの通り、それぞれの章題に50’Sオールディーズの曲名が使われている。文章内で曲が引用もされている(JASRACにいっぱいお金払ってそう)

再読

当時、音楽が好きになり始めたばかりの僕にとって、実在の曲名を章題に持ってくる仕掛けから好きだったんだけど、やはりこの作品の魅力は、ばかばかしいんだけどダークな世界観にある。

ニューロジャンクというボロボロの生体兵器に乗り込んで、ガンガンに敵をぶっ潰していくんだけど、ちょっとミスるだけで(当時で言うゲーム感覚で)あっさりと死んでいく登場人物。

転生した老人たちはアメリカの広告のように異様にメリハリのついた女性はセクシーで、男性はマッチョな姿になっていて、出撃前にはメンバーの意識共有のためにセックスをする。セックスの表現も乾いているようで異様に湿度が高く、まるでぬるい脳漿の中にいるような表現が続く。まあ、実際にランゲルハンス島という脳漿の海の中に浮かぶリゾート地なんてのも出てくるんだが。

そもそもニューロジャンクというものの表現がむちゃくちゃグロテスク。何枚かイメージボードがあるんだが、そのどれもこれもが、ヒーロー的、もしくはSF的なイメージとは外れた有機的かつ悪夢的な感触。最後にメシアジャンクってのが出てくるんだけど、イメージイラストが全然メシアじゃないw

ただ「1997年という近未来」という設定だけに今読むと、未来よりもむしろパラレルワールドの過去のような雰囲気にもなっている(なんと、この世界ではコカコーラが絶滅しているのだ!) 老人と生命言語をつなぐ役割を果たした「ビデオ・コンポジット・プロセッサー」って、撮影した映像を機械が判断して不足する表現を付け足して、BGMも自動で入れながら生成していくシステムって、それ、どんなAI使ってるんだよ、ディープラーニングにもほどがあるだろとは思った。あと、登場人物、痴呆老人ではあるけど、まだみんな60代半ばなんだよね。この頃は、60代が立派な老人だったということか。

この本、時代設定を、2025年くらいの近未来に設定してリライトすると、破壊力のある異色ラノベになりそうだと思った。舞台設定を老人ホームじゃなくて、引きこもり中高年の自立支援施設とかにして、就職氷河期でドロップアウトした引きこもりが、自分が味わえなかったバブルカルチャーを追体験しながら、ナタデココやエビアンとバトルを繰り広げるみたいな話? 章タイトルはユーミンか、サザン? 書いててめっちゃ悪趣味だと思っちゃった。

割と軽量な中編サイズだけど、面白いんで、再発かリライトしてほしいなあと思いました。

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