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真の料理上手。新玉ねぎバクダン

「気合入れて作るといつも何かしら失敗しちゃうんだよね」

まだ付き合い始めて間もない頃彼女はよくそうぼやいていた。僕自身彼女の手料理を食べて「これは失敗したな」と感じたことはないのだが彼女自身は納得いってなかったらしい。

「どれも美味しかったよ」

そう伝えても彼女自身が納得できていないなら意味のないことだ。納得できない原因の一つは僕にもあるのだろう。実際彼女の作る料理はどれも美味しいのだがその感情を僕が彼女にうまく伝えられていないのだと思う。「美味しいよ」と言っても二の句が続かない。元来感情を上手く表現できない僕が、彼女が自信を持てるだけの反応をするということは彼女が自分の料理に納得することと同じくらい難しいのかもしれない。



「そんなこともあったね」

笑いながら当時を思い出す彼女は今では自信満々にズボラ飯を僕に食べさせる。これがまた最高に美味しい。

「あんなに昔は自信なさげだったのに今では自信満々に料理を作ってくれるよね」

「今更気合いを入れて手料理を振る舞うほど初々しくないのよ」

たしかにその通りだ。もうだいぶ長い時間一緒に過ごしているのだし毎食そんな気合いを入れていては疲れてしまうだろう。

「それにあなたの料理してる姿を見てると肩に力が入りすぎてる自分がアホらしくなってきたのよ」

「ひどい言われようだなぁ」

僕の料理は当時からリラックスしてるというか気楽というか、ぶっちゃけ雑だ。省ける作業は省くし味付けは目分量。その場で思いついた味付けを試してみたりもする。

「それでもあなたの料理、私は好きよ。美味しいし自由な感じで私もこれぐらい気楽でいいんだって思えるから」

そんな風に言われるとこちらも照れてしまう。彼女がこんな風にデレてくる時はだいたい何かお願い事がある時なのだがたまにこんな不意打ちをされるとドキドキしてしまう。

「今夜は私が夕食の当番だったね。すぐ作るから」

立ち上がり台所に向かう彼女の後ろ姿は自信に満ち溢れていた。さて今夜は何を作ってくれるのだろう。

数分後、レンジの「チーン」という音が聞こえた。そして「出来たよー」と言う彼女の声。その瞬間先ほどの会話の意味を理解した。今夜は手抜きをするから文句を言うなっというメッセージだった。

少し深めの皿に玉ねぎがまるまる一つ。味付けは上に乗ってるマヨネーズと麺つゆを少しかけてあるだけ。まさにシンプルの具現化だ。

「だからさっきあんな会話をしたのか」

彼女はその問いかけにイタズラな笑みで返してきた。この料理こそ感情表現が苦手な僕が感情を爆発させて褒めちぎった彼女の手料理だった。

「今年も新玉の季節になったからね」

白いご飯をよそって二人で座り「いただきます」

新玉の甘みに麺つゆの出汁とマヨネーズのコクがマッチしてたまらない。初めてこの料理を彼女が作ってくれた時は他に何品か作ってくれている中の一品だった。この見た目とレンジめチンするだけのシンプル工程。何よりもこの味。一口で虜になった。彼女もまさかこんなに気に入ってくれると思っていなかったらしく最初は面をくらっていたがだんだん感情が抑えられなくなっていく僕をみて笑いだしていた。

「こんな簡単なもので喜んでくれるんだから何を出しても大丈夫だと思ったの」

彼女の自信はこの料理から始まったのだ。その証拠に最初は何品がある中の一品だったのが徐々に品数が減り今ではこの料理がメインを張っているのだ。

でも僕は思うのだ。シンプルだからこそわかることがあると。味の好みが一致していないとダメなのだ。長い付き合いになると味の好みは重要なことの一つだ。これが近くないと軋轢を生む。それに…

「手抜き料理が上手い人ほど…」「料理上手。でしょ」

だからこそ僕たちはお互い料理をする時「手抜き」を忘れない



材料

新玉ねぎ 一つ

マヨネーズ、麺つゆ お好みの量


レンジで新玉ねぎが柔らかくなるまでチンするだけのお手軽メニューです。ベーコンなどを一緒にチンしても美味しいです。普通の玉ねぎだと甘みが足りないので注意。お酒のおつまみにも🍶

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