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三次元空間

先日書店へ寄った帰りに、隣のカフェで遅めのランチをした。透明の大きなガラスの【上下】には広い青空や大川の川面が見える。広がる空間を前に解放感を感じながらサンドイッチを頬張っていた。

ランチの時間には少し遅めだったにも関わらず、どの席も人で埋まっていた。家族連れや男女の組み合わせ、それぞれがそれぞれの甘い時間を過ごしているようだった。その中で私は1人、塩を振りかけた卵とハムのサンドイッチを口に入れながら周りを見渡してみると、4組のカップルの姿が目に入ってきた。


‐私の【前】の席では男女が向かい合い、笑顔で会話を楽しんでいる。

‐私の【後】の席では男女が向かい合い、神妙な面持ちでケーキを食べている。(なぜ、そんな真剣な顔で食べている?)

‐【右斜め前】の席には2組の男女がいて、1組の男女は各々が本を片手に読書。もう1組の男女もそれぞれが外の景色に目をやり物思いに耽っている。どちらの組み合わせからも弾む会話は聞こえてこない。

再度、【後】の席を見てみると、ケーキを食べ終えた二人がこちらもまたそれぞれ片手に携帯をのぞき込み、男性はマンガを読み、女性はなにやら携帯を必死に操作している。(誰かに秘密の連絡をしているのだろうか?)この二人ももちの論で無言である。


この男女4組で二人の時間を満喫しているように見えたのは私の【前】に座る二人だけである。他3組に関しては、2人で1人の時間をそれぞれが楽しんでいるように見えた。


「一緒に来る意味ある?」私は1人心の中で毒を吐いた。


4組に共通して言えることは、全ての組み合わせがケーキを頬張り糖分補給にいそしんでいること。身体に甘さを染み渡らせてはいるようだが、2人だけの甘い時間は心に染み渡っていないように見えた。


【下】をのぞき込むと絶妙なバランスで塩が振りかかったサンドイッチがある。私の【前後】【左右】には、塩がかかった人間模様が広がっている。

【上下・前後・左右】この三次元空間に一人身を置く私の内側からは「なんか寂しい」そんな感情が自由に動き回り始めたのだ。しかし、当事者ではない私に対しどこからか「余計なお世話だ」(ごもっとも)そんな声が聞こえてくる気がした。


「私はわたしとの時間を味わい尽くしたい。」そんな風に感じた時、私の心の中には「愛」が拡がっていった。


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