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【花・植物空間】心に触れる

閉店50分前、一本の電話が鳴った。
『男性用と女性用の花束を2つ、今からお願いできますでしょうか?』

17時閉店ギリギリのお引き取りを約束し、急いで花束作成に取り掛かった。女性のご要望は、男性用を青メイン、女性用をピンクメイン。用途は、娘から両親へ贈る成人の感謝の花束。

後、50分しかない!慌ててお花選びに入った。お花屋歴が短い私にとって、突然の花束依頼は慌てふためく以外のなにものでもない。

そんな慌ただしい中、若い一人の男性がお店に入ってきた。
『すいません。明るくなれるお花ありますか?』

時間がない!と心の中で叫びながらも、私の心は彼の言葉に惹きつけられた。速かった時間の流れが突如緩やかになった。

明るくなれるお花?はて?私の内にはてなマークが生まれた。
花は面白いことを言って笑かしてはくれない。芸もしてくれない。
うむ。困った。なんて難しいお題だ。

若い男性は真顔で私に話しかけてくる。
『明るくなれるお花を選んでください。』

彼は今落ち込んでいるのだろうか?何か暗くなることがあったのだろうか?…彼女に振られたのだろうか?試験結果が悪かったのだろうか?バイト先で失敗をしたのだろうか?頭の中の想像力がエンジンをふかす。
ブルンブルンブルン。

ガラスケースの前に立ち、花たちと交信を始めながら隣の彼を忘れ少しの時間停止し真剣に考えた。そして、自分の感性と直感を信じ、おそるおそるある花を選び、彼の前に差し出した。

アルストロメリア

ボリュームと存在感がある優しい色をしている子たち。
彼らを見てると、心にそよ風が吹き風船みたいに膨らんでくる。
未来の道へ案内してくれるようなそんな子たち。

なぜ、私がこの花を選んだのか?上の説明を添え、勇気を出して彼の顔を覗き込んだ。
すると彼は、一瞬にして笑顔になり、優しい顔になった。

(あっ、明るくなった。)私の心の声。
『それ、2本ください。』そんな声が聞こえた。
わたしは、花瓶の高さを聞き、それに合うように茎の長さを揃えた。
彼は笑顔で受け取り、私の目を真正面から見据えとても丁寧に、『ありがとうございます。』と笑顔で帰っていった。


私は思わず、泣きそうになった。
お花を求めにくる人の心を想い、感情を想い、花への感性と想像力、直感でお花を選ぶ。
選んだ理由を言葉で整え相手へ差し出す、相手もそれを選んでくれる。ほんの数分の間に、相手をみて花をみて自身を信じる事が縮図となってその空間に散らばっていた。花たちと心を触れ合おうとする若者がいることにも感動した。

花たちは生きている。手をかけ、心を通い合わせお世話をしてあげることで、自分が必要とされる人間のもとへ自ら出向いていく。
そして、その人間を自分たちの持つチカラで癒そうとする。なんて健気なんだろう。

花・植物は動くことができない。でも、私には2本の足があってこの世界を歩きまわることができる。
なら、私が、彼らの代わりに動き回り、必要とされる人間の元へ送り届けたい。花束やアレンジを作る事もとても楽しいが、人間の心に触れながら、花を1本選ぶ。これが、こちらの心も大きく揺さぶられることをこの日初めて知った。彼とのささやかな時間の中、アルストロメリアを通じ私の未来の道を少し照らしてくれた気がした。花を通して、人と人の心が触れ合い、一つになる。そんな経験ができる今の空間を温めていきたい。

と改めて思った。若者よ、ありがとう♡

(タイトルの写真がアルストロメリアです。ウエディングブーケとかにも使われます。)



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