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3ヶ月に渡るVRアバター制作ワークショップ顛末記

メディアアーティスト育成でその分野では世界的に知られている、岐阜県の大学院大学「IAMAS」。IAMASが今年度の「岐阜クリエーション工房」の要項を出したので、昨年のまとめを一般公開することにしました。

メディアアーティストと舞台パフォーマーの経験を持ち、xRデザイナーとして働くよーへんと、イラストレーター・絵師・漫画家として活動するじゅりこ。2人の経験や長所を組み合わせたワークショップになっています。
このメソッドでもしワークショップを行いたいという希望がございましたら、ぜひ、よーへん(TwitterID:@RI_Yohen)にご連絡頂けますと幸いです。

岐阜クリエーション工房は公式で下記のように説明されています。要するにアーティストと若者が共同で作品制作をして、発想力や創造力を共有しましょうというものです。

岐阜クリエーション工房は、人文知と工学知の界面であるメディア表現に取り組む「アーティスト」たちと高校生などの若者たちが、共に試行錯誤しながら作品をつくることを通じて、発想力や創造力を学ぶワークショップです。
昨年度は、VRと人工知能を扱いました。いずれも、今後の社会を大きく変革していくことに繋がると期待されている技術です。参加者たちは、これらの技術の可能性や課題を、頭だけで理解するのでなく、自らの手を動かすことを通じて実感し、自分たちの日常世界と接続した作品として表現しました。
このワークショップに参加した経験はきっと、今後の社会において何かの課題に直面した際、従来の延長線上にはない創造的なアイデアを生み出し、実現するための力となることでしょう。

学術系VTuberアイドルユニット「Holographic」がご縁あって企画を提示させて頂き、2020年9月〜12月の三ヶ月に渡って11名の高校生をはじめとした方々と過ごしました。

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本企画は直前まで岐阜県大垣市で開催を予定していたのですが、急遽オンラインに変更。もう一組のAIを使った合奏を企画したチームはかなり大変だったようですが、私たちは普段とやっていることがまるで変わらないので、全く問題なし。むしろオンラインの方が良いのではないかという意見すら出ていました。その落ち着きぶりに私たち以外の関係者さん達はかなり驚いていて、オンラインにおける「身体」への向き合い方に如実に違いが出ていました。

アバターワークショップ「Happy ReBirthday」とは

内容はアバター制作ワークショップ。というと、「VRoidなどを使わせて、"アバター作りました、はいみんなで写真撮りましょう〜"」をイメージされることが多いと思うのですが、そこはメディアアートの学校。そんなことだけでは許されません。
テクニックの伝達とともに、「なぜそのテクノロジーが社会に存在するのか、社会やあなたにとってどんな意味を持つのか。未来でどうなるのか?」もきちんと考えなければいけません。未来を担う若者たちにテクノロジーを使う「意味」も考えて欲しい。ましてやそのテクノロジーを生み出す側に立つ可能性がある子供達だから。そんな大学側の思いがあります。

その思いをきちんと汲み取り、以前より少しずつ進めていた「アバタードキュメンタリー映像プロジェクト」を拡張することにしました。
生身とは違う、VTuberやアバターとしての自分を大切にしている方々の「来歴・エピソード・大事な方々へのメッセージ」を記録したドキュメンタリーです。
この映像は一部では別名「遺言プロジェクト」とも呼ばれていて、もし彼/彼女らが何らかの理由でいなくなったら、この映像が証拠のひとつとなります。ましてや、すでに博物館と大学によって保管されているのですから、公的にも彼/彼女らが存在した記録が残っていることになります。

ではアバターの「生と死」とは何だろう?
何をもって彼/彼女らは「生きている」と言えるのか?
物理肉体消失後にアバターやアカウントはどうなる?
それまでに何らかの対処をする?するならどうする?

これらの「アバターの死生観」に関する問いを高校生たちと考えてみたいと思いました。
SFではなく、現在VRChatユーザの最高齢世代が50代くらいとすると、20年後くらいには本当に社会問題になっている可能性がある問いです。
ネットアカウント「だけ」であれば今も十分考察可能でデータもおそらくあると思うのですが、「MMOのようにあらかじめパーツが用意されたキャラクターメイキングでない、自分でデザイン・制作したアバターで、かつVRなどで文字通り"自分自身の身体として"扱って他者とコミュニケーションした。しかもそのアバターで社会活動を行うこともできた」アバターの消失は、今から考えておく必要がある。Twitterアカウントだけでなく、アバター「個人」として他者とコミュニケーションして社会活動まで行えるようになったのはごく最近のお話です。MMOとの違いはここにもあります。

考えてみてください。VRChatやclusterで夜な夜な遊んでいた自分のお友達が、ある日突然痕跡もなく消えてしまったら。それを「死」と考えてみたとき、あなたはどう思うでしょうか。

初めて自分だけのアバターをまとって、VRソーシャルワールドに降り立つ。そこで先住民(私たちなど)とコミュニケーションをして、アバターの状態で一緒に「アバターの死生観」を考える。
いつかは遭遇する可能性のあるこの問いに、3ヶ月かけて向き合ってみました。

アバターワークショップ「Happy ReBirthday」実施にあたり

「Stayhome」状況下において、本ワークショップは岐阜県大垣市での実施からオンライン・バーチャル空間での実施に切り替わりました。 オンライン・バーチャル空間上で何かを制作したり発表す ることが日常である講師にとっては、オンライン化による負の影響は特にありませんでした。
対して受講者は学校・ 自宅・図書館などからアクセスしており、PCのスペックや 回線速度はもちろん、声を出せない状況下でいかにコミュニケーションを取るかが大きな課題となりました。 そこでオンラインゲームと類似性・親和性が高い 「cluster」「Discord」といったプラットフォームを使用することで、「バーチャル空間もまた日常である」ことを受講者とともに共有できたワークショップとなりました。

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スケジュール

・第1回 : 9月13日(日) VRアバターを理解する
・第2回 : 10月4日(日) 「キャラ」ってなあに?
・第3回 : 10月18日(日) あなただけのアバター
・第4回 : 11月3日(火祝) どんな世界で生きてみたい?
・第5回 : 11月8日(日) ビデオレター撮影スタジオ作成
・第6回 : 11月5日(日) YouTubeLive上での上映会
・Ogaki Mini MakerFaire成果発表 : 12月5日(土)

第1回 VRアバターを理解する

実施日 : 9月13日(日)
イントロダクションとして、アバターやxRに関するレ クチャーを実施。現在の「Stayhome」な世界状況を踏まえた上で、アバターがどのように活用されている のか、アバターという新しい自分として生きている人 たちを紹介しました。

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第2回 「キャラ」ってなあに?

実施日 : 10月4日(日)
自己分析を行なった上で、なってみたい・制作してみ たいアバターの性格やふるまい、考え方を演劇とキャラクターデザインの手法から考えました。 演劇は講師 : よーへんの舞台パフォーマーとしての経験を、キャラクターデザインは講師 : じゅりこのイラストレーターの経験を活かした構成となっています。

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第3回 あなただけのアバター

実施日 : 10月18日(日)
イラストレーターである講師 : じゅりこが実際にアバ ターをデザインしていく過程を見せながら、受講者とともにアバターを制作していきました。その際にレク チャーのスタイルをVTuberの生配信のように行うこと で、VTuberやアバターを用いたパフォーマンスの一例 を紹介しました。

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第4回 どんな世界で生きてみたい?

実施日 : 11月3日(火・祝)
第3回で作成したアバターを実際にバーチャル空間で身にまとい、アバターの死生観について考えました。オンラインホワイトボードツール「miro」を用いて、「あなたにとってアバターはどのようなものか」「ネットでのトラブルについて」「肉体としての自分が死を迎えたら、アバターやネットアカウントをどうするか」などについてディスカッションを行いました。学校・図書館等で声を出せない受講者に配慮し、miro上でKJ法とエモートを用いてディスカッションを進めていきました。

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第5回 ビデオレター撮影スタジオ作成

実施日 : 11月8日(日)
ゲームエンジン「Unity」を用いて、ビデオレターを撮影するための背景3Dモデルを作成しました。壁や家具を配置、照明や特殊効果を設定することで、「ワールド」と呼ばれるバーチャル空間を作成しています。大学でUnityの授業経験があり多数のワールドを制作している講師 : よーへんによるレクチャーによって、経験ゼロの受講者もひとつのワールドを作成していきました。

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第6回 YouTubeLive上での上映会

実施日 : 11月5日(日)
最終回は講師と受講者が作成した「ワールド」をひとつのバーチャル空間に統合し、そこで「あなたのアバターとしての生き様を語り、大事な人にメッセージを送る」内容の撮影と成果発表会を行いました。その模様は生配信され、現在も公開されています。
また後日、同じ内容で別途撮影した11名のアバターユーザの映像とともに講師が編集を行い、1本のムービーを作成しました。

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Ogaki Mini Maker Faire成果発表

実施日 : 12月5日(土)
本ワークショップの成果をOgaki Mini Maker Faire内でプレゼンテーションしました。
「Stayhome」な状況の中で注目されている「アバターを用いたバーチャル空間でのコミュニケーション」について解説した後、それを実現するためのメイキング回と、テーマである「肉体喪失後のアバターやネットアカウントのあり方」を考察する回の内容について紹介しました。

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朝の会

実施日 : WS実施日の冒頭15分(9/13(日)〜11/5(日))
アバターコミュニケーションに慣れてもらうため「バーチャル空間でできない作業があっても、毎回冒頭15分は必ずバーチャル空間で会って話そう」と「朝の会」を実施しました。そこでは今週こんな面白いことがあった・今日は何をするかなどの報告や説明を行いました。回を重ねるごとに受講者アバターの表現能力が向上し、性格や行動の把握ができるまでになりました。講師と受講者、受講者間同士の良い距離感もそこで作られていきました。

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VRアバターWSを終えて

講師側にとって一度も受講者と顔を合わせない完全なオンラインワークショップということもあり、当初はやや緊張していました。しかしレクチャー等を「VTuberの配信・コミュニケーションスタイルで行う」ことを貫いた結果、受講者・講師双方にとっても普段目にしているVTuberとリスナーの関係性に極めて近い(もしくはより近い)、双方向的なコミュニケーションの取れる濃密なワークショップとなりました。
物理会場では受講者に実際にVR機器に触れてもらい、感覚が拡張する体験を予定していましたが、オンライン化に伴いそれができなくなったことだけが唯一心残りです。
しかし本ワークショップでは「アバターは物理と比較して表現能力に欠けている。そのためオンライン講義にも劣り教育に向かず、コミュニケーションが難しい」という一般的な思い込みをある程度払拭できたと感じています。その証拠がOgaki Mini MakerFaireで上映した22名のエピソード(※)です。「(アバター/VTuberとしての)私たちは、この世界で生きています」という彼/彼女らの叫びは、オンラインコミュニケーションの可能性を大いに感じさせるものでした。


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