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「原発は必要だよ」と言われたら私たちはどんな対話をするといい? 【インスタライブより❶】

3/15に明日香壽川さん(東北大学東北アジア研究センター/環境科学研究科教授)をゲストに表題についてインスタライブを開催致しました。

Instagramのストーリー機能で募集したアンケートでは
(私たちが気候危機に関するアカウントなので)
多くの人から「原発に関する対話に困ったことがある」という回答をいただき、あわせて質問が寄せられました。

多く寄せられた原発に関する「どう対話したらいいのか分からない」という声


Instagramで寄せられた質問は大きく分けると以下の3点でした。

1.原発がないと電気代は高くなりませんか?/原発再稼動すると電気代下がるから必要だよ!
2.EUも原発回帰しているでしょう? 世界的に見ても今は原発も有力な選択肢なのでは?
3.再エネでは無理!やっぱり原発がないと電気は足りないよ(再エネは不安定だよ)

Instagramストーリー機能、コメントなどで寄せられた意見を3つに分類


ライブ配信中、チャットでもコメントをいただきまして
なんと2時間近く、原発に関する疑問・質問に答えていただきました。
明日香さん、ありがとうございます。今回は前編として、
ライブの前半の内容を記載したいと思います。

\インスタライブを直接みたい!そんな方はこちら/


まず2つ目の「EUも原発回帰しているでしょう? 世界的に見ても今は原発も有力な選択肢なのでは?」に回答いただきました。


明日香:メディアで報じられた2つのことによって、「EUが原発回帰、見直している」って印象を、日本の多くの人が持っているのではないかと思う。

ひとつは、欧州連合(EU)の欧州議会が、持続可能な活動の分類「EUタクソノミー」に原子力と天然ガスを含めるとした欧州委員会の法令案を承認すると決定したこと。
ふたつめは、ドイツが、ロシアからの天然ガス供給の不安定により、脱原発の完了時期を遅らせる必要があると判断したこと。
これらの報道から「世界的に原発回帰の動き」という印象を持っている/感じてしまうのではないでしょうか。

—―詳しく教えていただけますか?

明日香:ひとつめのEUタクソノミーについて、EUは27か国あり、原発を温暖化対策に入れるか入れないか、真っ二つに意見分かれたと言えます

“欧州委は2月、原子力と天然ガスを条件付きでEUタクソノミーに追加する法案を提示”
“法案の否決には、議会全体の過半数353票が必要。6日の採決では法案否決への支持が278票、反対が328票、棄権が33票で、法案の承認が決定した”

原子力は「持続可能」EUが判断(電気新聞)

ロシアは天然ガスで世界・EUを牛耳っていました。
一般の人にはあまり知られていませんが、核燃料・ウランとか原発に関る技術もロシアは持っています。
タクソノミーに関しては、ロシアがフランス・ドイツに一生懸命ロビイングをし「原発と天然ガスをタクソノミーに入れるべき」と促してきました。
「もしタクソノミーに天然ガスと原発が入ると、ロシアがどのくらい儲かるか」計算して発表しているグリーンピース・フランスのレポートもあります。

報告書:https://cdn.greenpeace.fr/site/uploads/2022/05/How-Russian-Companies-Lobbied-For-the-EU-Taxonomy-To-Include-Fossil-Gas-Nuclear-Energy-1.pdf

これらをもとに、侵略されたウクライナの活動家や政治家は、
「EUタクソノミーはプーチンへの贈り物になる」として欧州議会メンバーに拒否を要請していました。

周知のように、現在、2022年からのロシアとウクライナとの戦争によって、エネルギーをめぐる地政学的状況が大きく変化しています。
戦時においては原発が攻撃対象となるリスクが増大した今、
「EUタクソノミーは死んだ」と言うEU関係者は少なくありません。

——ウクライナ戦争では、ザポリージャ原発などの攻撃対象としての危険性も顕になりました。

ドイツは22年末までの「原発ゼロ」を目指してきた。東京電力福島第1原発の事故を受け、メルケル政権時代の11年5月に脱原発を決めたあとは段階的に廃炉を進めてきた。ところが、ウクライナ危機でエネルギー不安が高まると、最後の3基をめぐり運転延長の是非が焦点に浮上。8月の世論調査では稼働の継続を求める回答が8割に達していた。

ドイツ、脱原発先送りへ 23年4月まで稼働可能に(日本経済新聞)

明日香:ドイツも、先送りしつつも23年4月で原発をやめます。

一方、脱原発の方針そのものは堅持した。新たな燃料は投入せず、23年4月中旬に原発ゼロを完了させる方針だ。ハベック氏は「原子力はリスクの高い技術であり、放射性廃棄物は世代を超えて負担になる」とも指摘した。

ドイツ、脱原発先送りへ 23年4月まで稼働可能に(日本経済新聞)

明日香:なので報道をみて、EUが原発回帰した、と断言するのは、理解不十分なところがあるはずです。


原発がないと電気代は高くなりませんか?/原発再稼動すると電気代下がるから必要だよ!


明日香:確かに、燃料費だけで考えると、化石燃料が高騰した場合、原発運転での火力発電の原発運転での代替はキャッシュフローを一時的に改善する可能性はあります。

——関西電力や九州電力は、原子力発電を中心とした電源構成でないため、値上げしなかった(つまり原発によって値上げがない=安い)、といったことも聞きます。

明日香:四国電力は、現在、再稼働しても値上げを申請しています。前述の主張が正しいのであれば四国電力は値上げを申請しないはずです。
原発再稼働できず化石燃料に依存する中部電力の2022年度の経常利益は、大手電力会社の中では唯一600億円の黒字です。

少なくとも「原発再稼動と、値段が下がる、2つに相関関係はない」といってよいと思います。

もう一つ重要なのは、原発を動かすことにもお金をかけているという点です。原発再稼動のために安全対策費などです。

また、原発コスト、根本的な問題として、原発を動かすことで安く見えるような会計制度になっています。
原発にかかる見えないお金を、税金や電気代で、国民は払っているんですね。
原発事故に対する保険は本来であれば事業者が加入するはずですが、そのような保険には入っていません。

さらに、原発には固有のリスクやコストがあります。たとえば、原発を使い続ければ事故リスク、核拡散リスク、攻撃対象となるリスク、放射性廃棄物などは確実に増大します。放射性廃棄物に関しては、現在、日本全国に33基ある原子力発電所のうち14基で使用済み核燃料を収納するプール施設が満杯に近い状態になっています。核燃料サイクル政策の下、使用済み核燃料は、青森県六ヶ所村の再処理工場に送ることになっていますが、現在(2023年2月5日)、この工場が26回の完成延期を繰り返すなど一向に稼動していません。特に日本は大きな地震に見舞われる可能性が高い地震国であり、原発施設の地震対策が不十分ということも考慮すれば、日本で原発を使い続けることの合理性は大きくないと思われます。

明日香さんから事前にいただいた回答ドキュメントより抜粋


——(Instagramの)チャットでコメントがきています。そもそも論になりましが、「政府はなぜ原発推進に固執しているのですか?」という質問です。

明日香:推進する理由をあげると
・原子力発電所を建てると1-2兆円かかる、利権が発生すると思います。
・原発は、核兵器に転用できるからです。
「持っていれば核兵器を作る技術を持っていることと同じだから、抑止力になる」と考えている人は、実は日本の政治家・官僚の中に多くはありませんがいるんです。
原発事故、民主党政権時、「原発なくそう」という議論が増していった際に
当時、石破氏は「核抑止力として原発は必要だ」と発言しています。

当時、自民党政調会長だった石破茂氏もその6日後、テレビ朝日「報道ステーション」に出演し、以下のように語っている。

「原子力発電というのがそもそも、原子力潜水艦から始まったものですのでね。日本以外のすべての国は、原子力政策というのは核政策とセットなわけですね。ですけども、日本は核を持つべきだと私は思っておりません。しかし同時に、日本は(核を)作ろうと思えばいつでも作れる。1年以内に作れると。それは一つの抑止力ではあるのでしょう。それを本当に放棄していいですかということは、もっとそれこそ突き詰めた議論が必要だと思うし、私は放棄すべきだとは思わない」

石破茂「本心は原発ゼロ」なのに表立って言わぬ訳
政界きっての軍事通が語る「原発と核抑止力」(東洋経済)

フランス・イギリスでは、もっとオープンに話されています。
核兵器産業・原発産業にはものすごくお金がかかり、両方の産業には国のサポートが不可欠です。
2020年に原子炉メーカー・フラマトムの工場での「原子力の未来」と題したスピーチで、「原発なくして核兵器産業なし、核兵器産業なくして原発なし(Sans nucléaire civil, pas de nucléaire militaire, sans nucléaire militaire, pas de nucléaire civil)」と話しています。

2つ産業・核兵器と原発は、人、技術が重なる部分があり、支え合っています。一方がこけたら、もう一方もこけちゃうと。


——核の被害を知っていて、かつ3.11を経験しているのに
その2つの産業について、語られていることにまず驚きました。

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Instagramライブは2時間近くあり、
今回の記事では前半部分について紹介いたしました。

後半の記事も近日中に公開します。
ライブ後半では、今後の国会の動きや、原発に関する法案についても
お聞きしました
ので、次回も読んでくださると嬉しいです。

もし原発の話題が出た時、「話す」「対話する」ことはできそうでしょうか? 

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