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クラシック音楽評:坂入健司郎が指揮する、チャイコフスキー交響曲第4番の恍惚

 7月20日は、我が坂入健司郎(指揮)×名古屋フィルハーモニー交響楽団にて、東京オペラシティに東陽町のスタジオから直行。“我が”と言ったのは、坂入君には以前、銀座東急プラザのアトリウム空間で行った「サロン・ド・爆クラ」にて、シェーンベルクの『月に憑かれたピエロ』を演奏してもらったことがあるのだ。グルメな彼と一緒に、小倉に寿司を食べに行ったこともありましたね。

 彼のホームである楽団を離れて、地方の名オケのひとつ名古屋フィル(攻めたレパートリーが有名)を振ったのですが、これが想像をK点越えして(どうもオリンピック用語が口をつく)、本当に素晴らしかった。これ、再演があったら、私はもう一度行くね。

 チャイコフスキーの交響曲第4番。私的にこの曲、ペートーヴェンの『運命』と同じクラスのメンバー。何と言ってもイントロが斬新で、冒頭の超印象的なファンファーレ風の金管とバサッと斬るブレイクでガッツリ人の心を掴み、リズム&暴力(有吉的表現ね)に、嬉遊的な木管のソロ部分やワルツ部分が入り込み(このあたり、ご存じくるみ割り人形感あり)、まあ料理で言うならば、ミシェル・トロワグロの「感情が揺さぶられる仕掛け」総本山、という大名曲です。

 前述の冒頭の金管の咆吼、タータタタ タンタンターは、実は下降するメロディーが付いていて。そのキャッチーだけではない独特の感覚は、数々の美メロを生み出してきたチャイコフスキーの面目躍如ともいえる部分で、まずここで指揮者のテイストがわかる。旋律が下降して、金管の音色が変化するその時にどう「地獄の釜のふたが開いた」感をみせてくれるかどうか、なのですが、坂入君そこをやろうとしている感があり激しく同意。さらっとやらない。カラヤンじゃなくて、ムラヴィンスキーの地獄。

 この曲のキモは、何と言っても、2拍3連やタッタター、ンタ・ンタ・ンタのバックビートにどのリズムで、もう、これはロシア/ユーラシア大陸のビート感なのですが、そこもしっかりと頑張っていて、重みを出している。そう、この曲の場合、もたつき論外にて、付点音符のハネに重量感が絶対必要。第4楽章のラストはそこのフルスロットルになるわけですが、そこが坂入君のヤツは団子状にならず、ピッコロの最高音部なんかも効いていて、切れ味良かったなあ。ここんところは、是非体力ある金管が揃っている欧米のオケで振ってもらいたいものてである。いや、近い将来、実現するでしょうね。

 最も心を掴まれたのは、第1楽章の中間部のワルツ部分で、甘さや柔らかさとも違う、ちょっと忘れられない静謐感と透明感が漂いましたね。こういう所がこの人の個性かも。

 第1部のボロディン/交響詩「中央アジアの草原にて」は、そういえば忘れていた名曲。弱音の弦のロングトーンのバランスがもの凄く良い。坂入君、クラシックオタクでもあるので、こういう音響的ミキサー感覚は優れているわけです。堀江裕介をフィーチャーした、グラズノフ/サクソフォン協奏曲 変ホ長調は、実のところ、クラシックでは今、最も「栄えない」曲かも。何というか、そのモダンが古い、という感じかな。同時にサックスがメロを取る協奏曲は難しいな、という印象。どなたか、リコメンがあったら教えてください。

 イラストは、小島剛夕先生の暴れるクマ、チャイコ第4番の冒頭にちなんで。あの「ブレイク」は、クマの一打で絶命ってことだ。

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