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短編小説『夏の切り札』

白のロングスカートを踏みつけないように手で持ち上げ、階段をくだる。

秘密基地のように思える、薄暗い地下。喫茶『摩天楼』は名前を裏切り、4階建てビルの地下にある。外には手のひらほどの看板しかなく、目を凝らさなければ喫茶店があるとは気づかない。

約10年、月に数回訪れている。店長や店員さんにすっかり顔を覚えられたが、お互いに名前も年齢も知らない。そこがいい。



梅雨明けしたら、摩天楼の水出しアイスコーヒーを飲みたいと思っていた。濃いのに飲みやすくて、まろやかで、後味すっきり。

銅製のマグカップに満タンの氷、アイスコーヒー。シンプルで潔い。

私も負けじとスマホを閉じ、アイスコーヒーだけを味わう。


結露した冷たい水が指に触れた後、さらに冷たいアイスコーヒーが喉を通る。つい10分前のぐったりと溶けるような暑さを流すが如く、きゅっと飲む。

夏は苦手だが、この水出しアイスコーヒーに会えるから、なんとか乗り越えられる。



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