短編小説『コーヒースタンド』
最寄り駅の西隣に、コーヒースタンドができた。椅子は3脚しかない。
「決まったら声かけてください」
渋い声のマスターは髭が生えた長髪で、メガネで細身の友達がいない僕とは真逆だ。
メニューにはぎっしりとコーヒー豆の名前が並び、レッドハニーやゲイシャ、マラゴジーぺなど、初めて見る豆が多い。
コーヒーは元々好きだったけど、本格的にハマったのは昨年からだ。市内にコーヒースタンドが次々とオープン。テイクアウトがメインというのは気楽で、僕と相性がいい。
「ルイルイレブンをMサイズでお願いします」
マスターは豆を取り出し、ミルで挽く。けたたましい音が止むと粉をドリップし、無駄のない動きにいちいち感動する。
「ルイルイレブン。550円」
会計を済ませると、そそくさと駅前のベンチに座る。マスターと話す勇気は今年も持てそうにない。
この華やかな香りが世界を包んでくれたら、僕はもっと生きやすい…なんて、コーヒーには荷が重すぎるか。
サポートしてくださった分は、4コマに必要な文房具(ペン・コピック等)やコーヒー代に使います。何より、noteを続けるモチベーションが急激に上がります。