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短編小説『缶コーヒーのおじさん』

おじさんは、いつも缶コーヒーを買いに来た。

自販機には炭酸もお茶もゼリーが入ったジュースもあるのに、いっつもコーヒーだ。僕には分からない。


お母さんは週に何回か帰らない日がある。たぶん、白いメガネをかけた男の人の家に行ってるんだと思う。お酒くさいし、声が大きいし、僕はあいつが嫌いだ。


でも、缶コーヒーのおじさんは違う。

お酒くさくないし、普通に話してくれるし、僕に好きなジュースを買ってくれる。僕のお父さんになってくれないかなあ。いつも自販機でしか会えない。僕はおじさんと2人でご飯を食べたい。



「見た?ニュース。暴力団が銃で組長撃ったってやつ。この辺に暴力団いるとか知らんかったわ」
「え?この辺じゃ有名だよ、あの豪邸の暴力団」

今日、自販機に来る人はみんなこの話をする。夜になっても、おじさんは来ない。

僕が大きくなって、働いて、コーヒーを飲めるようになったら、おじさんにたくさんコーヒーを奢りたいなあ。



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