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BONNIE PINKと歩んだ22年

どう考えても、何度考えても、1997年は信じられない年だ。

1年の間にスガシカオ、中村一義、Cocco、the brilliant green、DA PUMP、Dragon Ash、スーパーカー、SUPER BUTTER DOGなど、現在も日本の音楽シーンに影響を与えまくっている名だたるアーティストがメジャーデビュー。

ゆずがインディーズデビューし、モーニング娘。が結成された年でもある。第1回のフジロックフェスティバルが開催されたのも1997年だ。友達は同じく97年にデビューしたKinKi Kidsに胸を突き刺され、弟は広末涼子が大スキだった。

日本の音楽史を本で綴るなら、1997年に多くのページを割かなければならないだろう。

シンガーソングライターにバンド、アイドル。いろんな音楽が入り乱れる激動の年、私が運命的に出会ったアーティストの1人がBONNIE PINKだった。


Heaven’s  Kitchenの衝撃

CDの生産枚数は1998年がピークだ。前年の1997年もミリオンセラーの曲がいくつもあり、音楽番組が複数ある時代だった。

1997年、当時私は中学2年生。教室では音楽番組に出演したバンドや、流行っていた曲で度々盛り上がっていた。好きなアーティストは違えど、皆何かしら音楽を聞いている。

私がBONNIE PINKと出会ったのは、ケーブルテレビでたまたま流れた『Heaven’s  Kitchen』のPVだ。その時の衝撃は今でも忘れない。

日本人なのか外国人なのか分からない名前、夕焼けのような赤い髪、耳慣れないメロディ、女性では珍しい低めの歌声。とにかく衝撃だった。極めつけは歌詞だ。こんな詞で歌が始まる。

名前があって
そこに愛があって
たとえ一人になっても
花は咲いている
ー『Heaven’s Kitchen』

たった4行、31文字なのにどこか壮大で、胸が躍ったのを覚えている。あまり友達がおらず、家でも学校でも1人で過ごすことが多かった私は「一人」の言葉に大変心を揺さぶられた。

間奏の後の英語詞にもノックアウトされた。英語詞が入った曲は何度も聞いていたが、邦楽でここまで英語詞が長い曲は初めてだったからだ。

『Heaven’s  Kitchen』はBONNIE PINKの曲の中でも、群を抜いて好きだ。ファンからの人気も根強い。歌詞を見なくとも歌えるぐらい聴き込んだが、今でもよく聴く。



中学2年生の時、クラスに友達と呼べる人はいなかった。顔色をうかがいながら言葉を慎重に選んで話す休み時間は、窮屈でしかなかった。当時、BONNIE PINKの知名度は正直高くない。「BONNIE PINKが好き」「最近BONNIE PINKばかり聴いている」とは誰にも言えなかった。有名なアニメのエンディングにBONNIE PINKの曲が使われた時は心底嬉しかったが、テンションを上げて誰かに話すこともなかったのだ。

家に帰って自分の部屋で1人CDを聴き、歌詞に酔いしれ、時々PVを見ては燃えるような赤い髪に憧れた。とても心強かった。


ジェットコースターのような声とメロディ

BONNIE PINKの作るメロディはとても独特で、聴くと「あ、これはBONNIE PINKの曲だ」とすぐに分かる。

特徴であり魅力なのは、音の高低差だ。高い音から急降下し、一気に低い音へと流れるメロディは彼女ならではだと思う。

当然ながら、そんなメロディを歌い上げるのはBONNIE PINK本人だ。低い声も高い声も自在に操り、力強さもしなやかさもある。彼女にしか出せない声で、彼女にしか作れないメロディを歌う。

例えば、『Anything For You』という曲。音の乱気流が凄まじい。

まず、歌い出しで驚くほど急に高音へ飛ぶ。そしてBメロの「押し当てて」はとても低い。「魔法をかけて」で駆け上がるように音が高くなり、サビへ向かう。サビの「君の事を待つよ」「酔いしれたいよ」は、私が今聴いているのはサビか?と自問自答するほど低い。


何オクターブも出せて、低い音も高い音も歌いこなせる歌手は大勢いる。しかし、ここまで変化球のある高低差を作り出せるのは彼女しかいない。透き通った高い声が聴こえたかと思えば、急に低い声が聴こえる。まるでジェットコースターのようだ。

出会った中学生の頃も、30代になった今もBONNIE PINKを聴き続けているのは、声とメロディのジェットコースターがたまらなく好きだからだ。彼女の声とメロディにはまろやかな中毒性がある。

歌詞に宿る芯の強さ

私は歌詞をじっくり読むのが好きだ。BONNIE PINKに限らず、新曲を心して聴く時は歌詞を見ながら聴く。わずか3〜5分前後の曲に広がる物語や想いは、小説に匹敵する。

BONNIE PINKの魅力は歌詞にもたっぷり詰まっている。

恋愛や人生、曲ごとにいろんなテーマがあるが、どの曲にも芯の強さがうかがえる。彼女の曲に何度も何度も救われた。

アルバム『One』は私が約5年半付き合った恋人と別れる頃に発売され、特に思い出深い。全て聴き終わった時、「私のために作ったアルバムだ」と本気で思った。

『Rock You Till the Dawn』はBONNIE PINKの芯の強さを垣間見られるとともに、恋人と別れてどん底だった私を救ってくれた曲だ。

It’s too bad
彼の彼女の愚痴が聞こえたけど
私が埋めてあげるのは筋が違うでしょ
簡単に見えたものが実は手強いのよ
だって彼が無下に手放したあたしだもの
ー『Rock You Till the Dawn』

私が恋人と別れたのは、相手の浮気が原因だ。どこかで元サヤに戻ることを期待していたが、いわば私は「彼が無下に手放したあたし」であり、元サヤに戻るのも「筋が違う」し「簡単に見えたものが実は手強い」と気づいた。

浮き沈んで見た海底で見た景色 そこには
美しい現実がまだあった まだあった まだ間に合うんだ
ー『Happy Ending』

数年後、別れた恋人とは格段に素敵な男性と付き合えたのは、アルバム『One』のお陰だと思っている。その男性は今の夫であり、『Happy Ending』の通りになった。手を伸ばしたその先を諦めなくて、本当に良かった。BONNIE PINKのお陰で悲しみを癒し、夫と出会い、手をつなぐことができたのだ。

アルバム『One』は2009年に発売された。BONNIE PINKの芯の強さはデビューアルバムから最新曲まで、至るところに宿っている。

愛は惜しみなく奪うと
誰かが言ってたけれど
奪ったら返してよ
ー『Maze Of Love 』
待っている事は強さじゃない
自分と共に走りなさい
ー『Run With Yourself』
信じるものが無くなったのなら
強くなるしかないじゃないか
ー『Souldiers』
答えなんてないさ くそくらえ
これが僕だけの生き方さ
ー『カイト』
弱みは決して見せない
つぶれそうな日もあるけど
ー『Keep Crawling』
あんちくしょーこんちくしょーって Keep on fighting
敵があなたをずっとずっと強くする
ー『Spim Big』

友達が少なかった学生時代も、失恋して自暴自棄になった時も、仕事を辞めた時も、いつでもBONNIE PINKの力強い言葉が寄り添ってくれた。もし彼女の曲に出会っていなければ、今の私はとっくにいない。

また、BONNIE PINKは他のアーティストに楽曲提供している。Superflyのアルバム『White』に収録された『Woman』はBONNIE PINKが作詞・作曲した。歌詞には女性ならではのタフさや、明るさといった強さがにじみ出ている。


独特ながら心地よい韻踏み

韻(いん)を踏むのもBONNIE PINKの歌詞の大きな特徴だ。母音が同じ言葉を並べると、韻を踏める。例えば、『Broken Hearts, Citylights And Me Just Thinking Out Loud』という曲の冒頭。

傘の下 彼はなんで愛を誓ったの 小声で
雨雲逃れてなお 晴れない顔
この街で 砕けた心転がしては
Just thinking out loud
ー『Broken Hearts, Citylights And Me Just Thinking Out Loud』

「なお(a-o)」「顔(a-o)」と同じ母音の言葉を選び、韻を踏んでいる。この曲は弾んだリズムと韻が心地よい。

「心転がしては」では「koro」が2度続く。「なんで」「小声で」「この街で」と、短時間に「で」が3回含まれているのもスパイスがあって小気味よい。


BONNIE PINKの韻の踏み方は自然でありながらどこか変わっていて、そのバランス感覚に感動すら覚える。

昔放送された「亀田音楽専門学校」というNHKの番組で、KREVAがBONNIE PINKの韻について話していた。『A Perfect Sky』はその時に挙げた曲だ。

『A Perfect Sky』はCMソングで、BONNIE PINKを知らなくても耳にしたことがある人は多いはず。1度だけ出演した紅白歌合戦で歌ったのもこの曲だ。

天を仰いでマーメイドジャンプ
一度きりの灼熱ロマンス
ー『A Perfect Sky』

KREVAいわく、「ドジャンプ(o-a-n-u)」と「ロマンス(o-a-n-u)」で韻を踏んでいる。散々聴いたのに、気づいていなかった。知った時、どう生きればこんなことを思いつくのか?このセンスの正体は何なのか?と、さらに彼女の虜になった。

誰も思いつかないような、秀逸で独特の韻を踏んだ歌詞が多く、日本語と英語で韻を踏むなんて今読んでも/聴いても興奮する。

韻を踏んだ歌詞を挙げるとキリがない。次に挙げるのは、私が特に感動した歌詞だ。

反抗はみな 願望が故
涙はみな消えた 水面に
ー『慰みブルー』
シャンパングラスに落ちたラズベリー
艱難辛苦の恋の色
ー『フューシャフューシャフューシャ』
※艱難辛苦(かんなんしんく)
よそ見は“You’re so mean”
ー『Rock You Till the Dawn』
私はつぐみ Do me a favor
———————————————
私はつぐみ google me tonight
ー『PLAY&PAUSE』

「つぐみ(u-i)」と「Do me(u-i)」で韻を踏むなんて、どうすれば思いつくのだろうか。全くもって分からず、感服するしかない。

コラボでも際立つ歌声

BONNIE PINKはコラボした曲も複数ある。日本語も英語もラップも歌いこなし、どんな曲でも彼女の声は際立っている。

前述したKREVAの他、m-floやSOIL&"PIMP"SESSIONS、FPM、 Craig Davidなど、さまざまなアーティストとコラボ。2005年にはカバーアルバム『REMINISCENCE』を発売し、斉藤和義や平井堅らとデュエットした。

大橋トリオとのデュエット曲『Be there』は2人の柔らかい声が絶妙にマッチした、極上のポップスだ。

tofubeatsが作詞・作曲した『衣替え』では、BONNIE PINKの声の魅力がふんだんに盛り込まれている。芯の強さも優しさも込められ、流れるような高低差のある声も聴ける。肌寒い季節になると、無性に聴きたい。冬に向けた衣替えの時、この曲を聴くのが習慣になった。

『Be there』と『衣替え』はテンポが異なり、印象も全く違う。しかし、BONNIE PINKの声は違和感なく、不思議と曲にピッタリ当てはまっている。コラボした曲でも、彼女の魅力あふれる声を味合うことができるのだ。

聴いてほしい3曲

「BONNIE PINKの曲で1番好きなのは?」と尋ねられても、未だにうまく答えられない。

『Heaven’s  Kitchen』も『Anything For You』も大好きだ。知名度が高い『A Perfect Sky』も『鐘を鳴らして』ももちろん好きだし、カップリングにも好きな曲は山ほどある。これまで12枚のオリジナルアルバムを発売しているし、とても1曲に決められない。

曲によって、BONNIE PINKは全く違う顔を見せる。まだ聴いたことがない人は全ての曲を、ぜひとも歌詞を見ながら聴いてほしい。


しかし、急に勧めても全ての曲を聴くのは難しいと思う。BONNIE PINKの曲を聴いたことがない人に向けて、ぜひ聴いてほしい3曲を挙げた。悩みに悩んだが、彼女の魅力が伝わるように雰囲気の違う曲を選んだつもりだ。

①『Heaven’s Kitchen』:前半でお伝えしたように、私が衝撃を受けた曲。今聴いても、魅力は全く色あせていない。低い歌声と力強い歌詞をぜひ堪能してほしい。

②『Tonight, the Night』:2003年発売のシングル。恋愛中のキラキラと輝く雰囲気、ふわふわと心躍る感じが漂っている。恋人との待ち合わせ前に聴くと、テンションが上がるはず。サビで一時的に演奏が止まるのが印象的。


③『流れ星』:2010年発売のアルバム『Dear Diary』に収録。スローテンポで、①や②とはまた違う魅力がある。星に届きそうなスーッと伸びる高音が快い。「近づきたくて流れてく」は名言だと思う。寒い夜に聴いてほしい曲。


なお、アルバムならやはり『One』を聴いてほしい。初プロデュースのアーティストが多いためか、テイストが異なる曲をたくさん楽しめる。韻をはじめ、言葉選びに脱帽する歌詞も多い。10年経った今も色あせず、名盤中の名盤だ。



魅了され続けて22年

2015年、BONNIE PINKはデビュー20周年を迎えた。来年で25周年だ。

1997年に出会って以来すっかり魅了され、今もこうして聴いている。『Heaven’s Kitchen』の衝撃から22年も経ったとは信じがたい。

この22年の間、私は恋愛において片思いも付き合い始めのキラキラも、浮気も怒りに任せた別れも経験した。BONNIE PINKの曲は喜怒哀楽をともにした、相棒のような存在だ。『過去と現実』は失恋したことを友達に話した夜を、『Thinking Of You』は2人で笑い合った夏の日を思い出す。

社会人になり、いろんな仕事を経験した。今はどういうわけかWebライターという、文章を書く仕事に携わっている。恐れ多くも、時々「すらすらと読みやすい」との言葉をいただくのは、BONNIE PINKの影響だと思っている。彼女の歌詞を20年以上読み、聴き続けてきた経験が活きていると思う。

届けるには遠いが、私の糧となったBONNIE PINKと彼女の曲にありがとうと言いたい。


2017年、なんと44歳で初産した彼女。子育て真っ最中で、公式サイトにて「人生は、まだまだこれから」と綴っている。強い。昨年のクリスマス・イブにライブを観に行った際、「曲を作っている」と耳にした。出産後に新曲は発表していないため、どんな言葉とメロディを聴けるのか楽しみで仕方がない。首を長く長くして待っている。

私の人生もまだまだ続く。戦い続け、勝ったり泣いたりしながら、これからもBONNIE PINKの曲とともに人生を歩みたい。

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